迷路に潜む怪物

Rotten flower

第1話

一歩歩くたびにかつかつという音が空間に響く。壁に手を添えながら前へ前へと歩いていく。少しばかり歩くと別の闇が僕の体を包む。

後ろや前、四方八方から視線を感じるのは人生の中で今が唯一だろう、そうだと信じたい。

今僕が少し急ぎ足なのもこの視線とさっき見たメッセージが原因だろう。

「この迷路には怪物が潜んでいる。これを見た誰かは今すぐにでもこの場を離れてくれ。」

近くには人の気配はなかった。ただ、少し乱雑な文字とペンが近くに置かれていた、明らか恣意的な置き方ではなかったのは確かだ。

分かれ道、迷路で有名な話だが大体の迷路なら左、もしくは右手を壁につけながら歩いていくと何れ出口にたどり着くらしい。

とはいいつつそろそろ出口がないという考えが脳裏に浮かんできているもののそれを真に受けるのは少々あとにしたいと思う。

少しばかり道を進むと前に人の気配を感じた。気配なんて感覚にも過ぎないが視覚すら信じれないこの場ではそれくらいしか縋るものがない。

「お願い、助けて。」

前から女性の声が聞こえる。少しずつ進むにつれてその声は大きくなる。

「……あなたは……?」

女性が僕に問いかけてくる。少し怯えて地面に座り込んでいる。

「僕は危害を加えませんので……。」

女性の手を引いて立たせる。どこかで見たことある顔だった。


「本日未明、女性二名が行方不明となっています。」

今朝だろうか、朝食を取りながら見ていたテレビ番組で見た顔と同じだった。

「ここから早く出ましょう。」

手を引きながら左の壁に沿うように進む。孤独じゃなくなった途端少しばかり安心できるようになった。

「ところで、その……怪物ってどんな感じなんですかね。」

「私一度見たのですが……。」

明らか人間ではなかった、動く速度は一般人が走る速度より二、三周り遅かった、音や光は使わず謎の感覚で人を追っている。怪物の特徴はそんなものだった。


「ねぇ、見て。あれ、出口じゃない?」

冷えたハッチがある。

ハッチが音を立てて開く。

外の冷えた空気が迷路の中に流れ込んだ。

細い通路の奥から朧気な光が見えた。


「スッキリしない出口だなぁ。」

外から建物を見ると大きなコンクリートの建物だった。月が綺麗に見えている。

スマホの電波が入るようになっていた。

「どこだろうここ。」

「……お姉さん、携帯持ってます?」

「ええ、もう心配しないでいいですよ。」


「帰ってこれたぁ。」

家のソファに腰をかける。冷蔵庫の中に入れてあるいつかの作り置きを温める。

テレビをつけると丁度10時。ニュースが流れていた。


「つい先程、連続通り魔事件が発生しました。」

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