第1章 十四歳の春、日常の景色
桜が舞う日の姉妹
大正時代の
私、
十四年の月日が経ち、今は姫の侍女として働いています。
神島家特有の灰色がかった黒の長髪と、大和撫子と謳われる可愛い顔が私の魅力です。
あと、頭も凄く良いんですよ?
自分で言うとおばかな感じがしますけど、事実なので許してください。本当ですよ?
自己紹介はこれくらいにして、私が生きた時代の物語を語ろうと思います。
長くなりますけど、ちゃんと見ててくださいね。約束です。
これは、私が
桜の花びらが世界を彩るように舞い、儚くも綺麗に散っていく。
姫が住む宮殿の中庭に佇む大きな桜の木は、今年も花を咲かせていた。
中庭を囲むように建てられたコの字型の宮殿には、姫とその侍女達が暮らしている。
妹と侍女。二つの役割を担う
宮殿の入り口から一番遠く、正面からは桜の木に隠されて見えない奥の部屋。
そこに、姉の
すると、部屋の奥で横になる
「朝ですよー、起きてますか?」
「一応起きてる……」
「可愛い妹が待ってるので、こっちに来てくださーい」
「もう、仕方ないなぁ」
太陽の光が
透き通るような白い肌と綺麗な顔は、光を浴びた事でより輝きを見せる。
きりっとした大きな瞳、長いまつ毛、可愛らしい唇、整った輪郭。
色気と可愛さを兼ね備えたその顔は、国宝級の完成度だ。
「暗い部屋に居たら、せっかくの美貌が輝かないですよ」
「私だって、自由に外に出たいよ。自分の意思でここに居る訳じゃない」
切ない表情で微笑む
昔の
でも、いつからか明るい表情は消えてしまった。
きっと、見えない檻の中で、一人苦しみ続けてきたのだろう。
痛みを我慢しながら、何年も耐えてきたのかもしれない。
心を守る為に、夢を見ることを諦めた。
痛みを和らげるために、幸せの味を忘れようとした。
いつか解放されると信じて、何年も我慢を続けて来た。
ねぇ、そうでしょ。姉さん。
「……色歌?」
涙が込み上げてきた事に気づいた
そして、澄んだ青空を見上げながら、優しい声で問いかける。
「じゃあ、抜け出しませんか?」
桜の花びらが風に舞う。
「良いね。どこに行くの?」
「姉さんが知らない世界を旅しましょう」
淡い桜色に染まる中庭を二人で眺める。
「小さな箱の中に作られたこの景色も綺麗ですけど、世界には感動するくらい素敵な景色が沢山ありますから。姉さんが自由に生きられる場所を探しに行きませんか? 私はどこまでもお供しますよ」
「ありがとう。色歌」
嬉しそうな表情を見せた後、
「でも、私は姫だから」
この場所を離れる事は出来ない。
どんなに辛くても、決められた人生を歩まなければならない。
それが、姫として生まれた
「姉さん……」
「いつか、そんな日が来るって信じているよ」
離れていく姉の背中を見つめながら、
今の私には、姉さんの幸せを願うことしか出来ない。
そう思ってしまう自分が情けなくて、ただ悔しかった。
桜の花が儚く散っていく。
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