板挟みの夢

──どうしてくれんだよ

飯塚の脳裏に男の言葉が繰り返し響いていた。実際にその男はその言葉を何度も繰り返してもいて、飯塚は都度丁寧に説明したつもりだった。が、


──ですから、じゃねえよ!

男が声を荒げると彼と似た風体の男たちが集まってきた。やたら派手なソファの周りには十数人の若い男たちが集まり飯塚を睨んでいた。


──あーハイハイ、ストップ、ストーップ

不意にそんな声がして一人の男が現れた。周りの男たちよりは年嵩に見えたがそれでも三十代の前半くらいだろう。だがこの場の責任者のようだ。


──セイヤ、ケイゴ。ジュンヤくんをちょっとあっちで介抱してあげて

男がそう言うと二人の男が飯塚を怒鳴りつけていた男の両脇を抱えて店の奥へと連れて行った。ジュンヤという男は抵抗したがお構いなしだ。


──すいませんね。実は彼、只のパシリで

責任者らしい男はにこにことそう言って飯塚の隣に座った。


──だから中身を知らないんですよ。すいませんお手数をおかけしちゃって

その男の言葉に飯塚はようやく一息ついた。なる程あり得そうな話だと思った。


──この度は大変ご迷惑をおかけして申し訳ありません

飯塚は改めて男にそうお詫びした。


──いえいえとんでもないですよ

男は鷹揚に手を振ってそう言った。


──で、ですね、中身の事ですが

男は笑顔を絶やさずに飯塚の最初の質問に答えてくれた。




──五億なんて入る訳がねえだろうが馬鹿野郎!

飯塚の報告に支店長は激昂した。




そのふたつの場面が繰り返し飯塚を苛み、彼から安眠を奪っていた。

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