その他の方面

監視者たち

「なんかあった?」

加納はソファに寝そべってスマホをいじりながら戻ってきた若手たちに問いかけた。


「なんもないです。今日もケーサツと仲良く出勤してました」

若手の一人がそう答えた。


「よしよし出てくんなよ」

加納はスマホから顔を上げ笑いながらそう言った。


「キミたちにも改めて言っておくけどウチは真面目な飲食業だからね?」

加納はやや皮肉げにそう声を上げた。


「違法薬物なんて取り扱ってませんから」

加納がそう言うと若手たちも半笑いでウスとかハイとか適当に答えた。


ホストクラブを真面目な飲食業というべきなのかはともかく、少なくとも表向き加納のグループでは違法薬物など扱ってはいない。当然だが。


秋月グループと言えば歌舞伎町最大のホストクラブグループであり、加納はその中でも最高幹部の一人と目された大物である。既に店舗のプレイヤーから卒業しており、秋月グループと彼自身の商売を運営する若手企業家でもあった。


なので本来なら店舗で起きた問題などにいちいち関与などしないのだが、今回は事が大きすぎた。良い意味でも、悪い意味でも。


話を聞いた時から加納の方針は決まっていた。そしてそれは慌てふためく店舗のホストたちにもすぐに展開して彼らを落ち着かせた。俺たちは薬物なんて扱っていないしそんなものは知らない。紛失したのは現金でありそれを補填してもらう、と。


そういうシナリオなので逆に薬物が発見されたら非常に困る。なので彼は若手に指示して飯塚を見張らせているのだ。万が一にも飯塚がそれを発見した場合は拐う事すら想定しての指示だった。それに売上が出せない若手に丁度いい仕事でもあった。


「つか、出てくるんすかね?」

この店の代表がそう言ってきた。


「どっかで食ってりゃいいんだけどな」

加納は再びスマホをいじりながらそう言った。


違法薬物は売り捌くのにもひと手間以上の手間がかかる。客の女に売るのは簡単だがそれは警察沙汰に直結するので大体のホストクラブでは厳禁である。なので違法薬物を入手した場合、もっとも手っ取り早い消化方法はそれを使う事なのだ。


だがマリファナ程度ならともかく本物のシャブなど加納ですらやった事はない。それは身の破滅と同義語だからだ。成功したホストの典型例である加納は一時的な快楽に身を委ねる事の危険性を知悉していた。そんなのは死ぬ時にやるもんだ。

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