第3話 妖怪たちとの触れ合い。

 それから朝までは、ずっと立ちっ放しの働き通しでした。

真夜中になっても、ポツポツとお客様がやってきて、食事をして帰って行きました。

砂かけの社長が言うように、深夜食堂と言われる由縁がわかる気がしました。

 空が明るくなってきたころ、やっと閉店です。

「ルリ子さん、疲れたでゲロ」

 山のような洗い物をしながら、カッパさんが言いました。

「ハイ、初めてだったので、緊張して疲れました」

「すぐになれるゲロ」

 カッパさんは、笑って言いました。

「よぅし、キリがいいところで手を休めて、朝飯にするぞ。一つ目、暖簾をしまって来い」

「ハ~イ」

 一つ目さんが、暖簾をしまって、看板の提灯の明かりを消して閉店です。

私は、ホッと、一息つきました。

「ルリ子、座って待ってろ。すぐに、朝飯を作ってやる」

「ハイ、ありがとうございます」

「お姉ちゃんは、ここに座ってて」

 とうふさんに言われて、私は、客席の一つに座りました。

少しすると、私の朝ご飯が出来上がりました。

「ハイ、お待ちどうさまでゲロ」

 カッパさんが、トレーに朝ご飯を持ってきてくれました。

「ありがとうございます」

「たくさん食べるゲロ。一杯食べて、力をつけるでゲロ」

 みると、そこには、湯気が立っている炊き立てのご飯。おいしそうな豚汁。

目玉焼きとカリカリベーコン。納豆と焼き海苔。冷ややっこと白菜のお新香は、もちろん、とうふさんの手作りです。 

「朝飯だ。しっかり食って、今夜も頼むぞ」

 店長が、厨房から出てきて言いました。

でも、周りを見ると、朝ご飯らしい食事は、私だけです。

「あの、皆さんの朝ご飯は・・・」

「こいつらは、妖怪だから、それは、人間用の飯だ」

「皆さんのは?」

「おいらたちの朝ご飯は、これだよ」

 一つ目さんが私の前に座りながら持っていたのは、てんこ盛りのサラダでした。

「ぼくの朝ご飯は、これだよ」

 隣に座った、とうふさんは、丼一杯のおからでした。

隣のテーブルに座っている、化け猫さんは、ご飯にかつお節を乗せただけの、いわゆるネコまんまです。

半漁人さんとアマビエさんは、生の魚がお皿に乗っています。

カッパさんは、両手にキュウリを持って、店長は、生肉を持って席に着きました。

「それじゃ、お疲れ様」

「いただきます」

「いただきま~す」

 店長の挨拶に合わせて、手を合わせました。そして、一斉に朝の食事が始まりました。

生肉を齧る店長。アジを丸呑みしている半漁人さんとアマビエさん。

猫まんまを夢中で食べている化け猫さん。キュウリをひたすら齧っているカッパさん。

一つ目さんは野菜だけ。とうふさんもおからだけです。

私だけが、朝食らしい朝ご飯でした。

「どうしたの? 食べないの?」

 前に座っている一つ目さんに言われて、私は、ハッとしました。

「どうした、ルリ子。パンのがよかったか?」

 店長が生肉を食べながら言いました。

「食べられません。私だけ、こんなおいしい朝ご飯なんて・・・」

 私だけ特別扱いみたいで、箸を取る気になりません。

「別に、お前だけ特別ってことじゃない。お前は、人間なんだから、それが当たり前だろ」

「だって・・・ 朝から、こんなおいしいご飯なんて、食べたことなかったし、胸が一杯で・・・」

「ちょっとアンタ。朝から、辛気臭いこと言ってないで、店長が作ったご飯なんだから、ちゃんと食べなさい」

 アマビエさんに言われて、私は、やっと箸を持ちました。

「アレ? お姉ちゃん、また泣いてる」

 一つ目さんに言われて、頬に涙が伝っていることに気が付きました。

「まったく、アンタって、ホント泣き虫ね。そんなことじゃ、ここじゃやっていけないわよ」

 アマビエさんは、アジを丸呑みしながら言いました。

「店長さん、いただきます」

 私は、そう言って、ご飯を一口食べました。

この日の朝ご飯の味は、一生忘れません。

美味しいご飯、具が一杯入った出汁の効いた豚汁。半熟の目玉焼き、塩が効いたベーコン。納豆に焼き海苔。とうふさんのお新香と冷ややっこ。

こんなにおいしい朝ご飯を食べたことはありません。

「ルリ子さん、ご飯のお代わりするゲロ」

 カッパさんが水かきの付いた緑色の手を差し出します。

「たくさん食べるゲロ。しっかり食べなきゃダメでゲロ」

「ハイ、いただきます」

 私は、すっかり空っぽになったお茶碗を渡しました。

納豆をかけて、海苔で巻いたホカホカご飯は、何杯でも食べられます。

「ルリちゃん、泣きながら食べると、おいしくないニャ」

 化け猫さんが私の横に立つと、頬に伝う涙を、ザラザラした舌で舐めてくれました。

「ニャー子、甘やかすな」

「ウニュ~」

 店長さんに言われて、化け猫さんが席に戻ります。

「いいから、さっさと食って、掃除して、寝るぞ」

「ハイ」

 私は、店長に活を入れられて、ご飯を急いで食べました。

朝からお腹一杯になって、空いた茶わんやお皿を持って流し場に持って行きます。

「あっしが洗うから、大丈夫ゲロ」

 カッパさんに言われて、お礼を言うと、店長の方に向き直ります。

それからは、店長さんの指示に従って、厨房内を掃除しました。

厨房内は、隅々まできれいにして、清潔にしないといけません。

妖怪のお店だからと言って、手を抜くなんてことはできません。

むしろ、どこまでもきれいにしなくてはいけません。

 掃除と片付けが終わったのは、朝の8時を過ぎていました。

「よし、それじゃ、みんな、休んでいいぞ」

「ハイ、ホントに、ありがとうございました」

 私は、もう一度、頭を深く下げてお礼を言いました。

すると、店長が私を呼び止めました。

「寝る前に、風呂に入れ」

「ハ、ハイ」

 私は、やっと緊張が取れて、ホッとしていました。

その時、店長さんが私の肩に手を置いていいました。

それはそれは、大きな大木のような腕です。灰色の毛むくじゃらで太くて、爪があって、すごい剛腕です。

でも、すごく温かくてすべてを包み込むような優しい肉球でした。

「風呂に入るときに、こいつらもいっしょに入れてやってくれ」

 そう言うと、店長の横から、一つ目さんと豆腐さん、化け猫さんが顔を覗かせました。

「こいつらは、まだ子供だからな、風呂に入っても遊んでばかりで、まともに体を洗おうとしなくて困ってるんだ。お前は、人間だから、出来ると思うんだが・・・」

「それはいいですけど、一つ目さんと豆腐さんは、男の子だし・・・」

「フン、裸を見るのも見られるのが恥ずかしいというわけか」

 店長にズバリ言い当てられて、顔が赤くなりました。

「そんなこと妖怪は、気にしないから安心しろ。それに、こいつらは、まだ、子供だし気にするな」

 確かに、この子たちは、まだ、小さいし子供と言ってもいい。幼稚園の先生になったつもりで、お風呂に入れてあげればいいのかもしれない。

それに、家賃も払わないし、それくらいは、役に立たなきゃと思いました。

「わかりました」

「それじゃ、これから毎日、お前が風呂に入るときは、こいつらもいっしょに入れてやってくれ」

「え~、毎日入るの?」

「おいらやだよ」

「あたいも・・・」

 三人が一斉に反対します。妖怪たちは、お風呂が嫌いなのかもしれない。

「ガアオォォォ~!」

 次の瞬間、店長が大きく吠えました。吠えたというより、怒って叫んだのです。

私は、思わず耳を両手で塞ぎました。

「このバカちんが! ウチは、飲食店だぞ。従業員が、不潔でいいわけないだろ。これから、毎日、風呂に入ってルリ子にしっかり洗ってもらえ。わかったな。約束を守れないならクビだ」

 そう言われると、三人は、しゅんとして、小さく頷きました。

そんな三人を見ると、とても可愛く思えて、弟と妹ができたような気になりました。


 私は、化け猫さんに案内されて、二階の部屋に行きました。

「ここが、あたいとルリちゃんのお部屋ニャ」

 案内された部屋は、畳敷きの六畳の部屋で、ベッドと窓際に机があるだけで、後は押入れしかありません。

テレビもパソコンも何もありません。二人で寝るには、問題ありません。

「このベッドは、ルリちゃんが使うニャ」

「化け猫さんは、どこで寝るんですか?」

「あたいは、猫だから、押入れで寝るニャ」

 そういって、押入れをあけると、猫用の丸いベッドがありました。

そう言われると、なんだか納得します。妖怪と言っても、やっぱり猫なんだなと思います。

「それじゃ、お風呂に行こうか」

「うん。でも、あたいは、猫だから、お風呂は余り好きじゃないニャ」

「そんなことないですよ。お風呂に入ると、気持ちいいよ」

「う~ン、ルリちゃんとなら、いいニャ」

 化け猫さんは、少し考えてから、明るい顔で言いました。

私は、着替えとタオルを持って、化け猫さんに言いました。

「ところで、お風呂って、どこにあるの?」

「地下室ニャ」

「ここに、地下室なんてあるの?」

「行けば、わかるニャ」

 そう言われて、私は、再び一階に降りました。

すると、とうふさんと一つ目さんが待っていました。

「それじゃ、みんなで行こうか」

 余り気が進まない男の子たちを連れて、化け猫さんの後をついて行きます。

休憩室に入ると、隣の部屋のドアを開けます。そこには、アマビエさんが今日の売り上げの計算をしていました。

「すみません、仕事中に」

「いいわよ。お風呂に入って、ゆっくりしてきなさい」

 アマビエさんは、パソコン作業から目を離さずに言いました。

「ルリちゃん、こっちニャ」

 化け猫さんに手を引かれて、地下室へと行きます。

アマビエさんの作業所の隅に行くと、化け猫さんが床を開けます。

床下収納庫のような穴が空いていて、人が一人通れるくらいの、地下に通じる階段が見えました。

化け猫さんたちは、階段を下りていくので、私も後について行きます。

階段を降りると、そこは、秘湯のような温泉がありました。

とても広いお風呂で、巨大な岩からお湯がこんこんと湧き出ていました。

「すごい・・・ こんなのがあるなんて」

 私は、思わず見とれてしまいました。中は、湯気が立って、岩風呂の他にもお風呂がいくつも見えました。

「えっと、脱衣所とかは・・・」

「そういうのはないよ。だって、ぼくたちは、妖怪だから、そういうのいらないし」

 そう言うと、乾いた岩の上に、脱いだ服を置いて、早くも裸になりました。

「お姉ちゃんも早く入ろう」

 豆腐さんに言われて、私も服を脱ぎます。脱いだ服は、どこに置こうか周りを見ていると一つ目さんが大きなかごを持ってきてくれました。

「これに入れるといいよ」

「ありがとう」

 私は、そのカゴに服を入れて、岩の上に置くと、タオルで前を隠しながら温泉に入ります。まずは、置いてあった風呂桶でお湯を掬って体にかけます。

「あっ、気持ちいい」

 ちょうどいい温度で、体がすぐにポカポカしてきました。

すると、とうふさんと一つ目さんが、勢いよく温泉に飛び込みました。

お湯が溢れて、私にかかります。

「ちょっと、飛びこんじゃダメよ」

「えへへ・・・ お姉ちゃんも早くおいでよ」

 とうふさんは、お湯から顔を出して言いました。

やっぱり、男の子は、元気がいい。

化け猫さんは、足でお湯の熱さを見ながらそろそろ入ります。

私も同じようにゆっくりとお湯に体を浸かりました。

「気持ちいいわね」

「そうだよ。この温泉は、かけ流しだから、人間にも体にいいんだよ」

「そうなんだ」

「でも、アッチは、入っちゃダメだよ」

 一つ目さんがそう言って、向こうの湯船を指さしました。

「どうしてダメなの?」

「アソコは、人魚ちゃんと半漁人さん、カッパさんが入る、水風呂だから、お姉ちゃんが入ると、凍っちゃうよ」

「えっ、そうなの?」

「冷たいから、お姉ちゃんが入ったら、風邪をひいちゃうからね」

 言われてみれば、人魚や半漁人、カッパは熱い温泉には入れない。

そんなことをぼんやり考えていると、額や顔にうっすら汗が浮いてくるのがわかりました。こんなにゆっくりお風呂に入るのは、いつ以来だろう・・・

私のいたアパートは、湯船も小さくて、お風呂を沸かすのも面倒になって、いつしかシャワーしか使っていません。

足を延ばして、ゆっくりとお湯に浸かるなんて、本当に気持ちがいい。

 一つ目さんと豆腐さんは、お湯の中を泳いだりお湯をかけあったりして遊んでいる。化け猫さんは、お湯から出たり入ったりを繰り返している。

猫は、水が苦手だから、ゆっくりお湯に入れないのかもしれない。

なるほど、これでは、店長が怒るのもわかる。遊んでばかりで、体を洗ったりしてない。

「一つ目さん、とうふさん、化け猫さんも、体を洗いましょう」

 私は、そう言って、三人に呼び掛けます。でも、なかなかいうことを聞いてくれません。

「皆さん、ちゃんと体を洗わないと、店長さんに怒られますよ」

 私は、少し大きな声で言うと、渋々お湯から上がりました。

私もお湯から上がって、三人を鏡の前に座らせました。

見ると、体を洗うせっけんやシャンプーなどもちゃんとありました。

「みんな、おとなしくしててね。私が洗ってあげるけど、一人でできる人は、一人でやってね」

「ハ~イ」

 私は、化け猫さんからタオルに石鹸を泡立てて体を洗ってあげました。

当たり前だけど、化け猫さんは、女の子でもまだ子供なので、私のように胸は膨らんでいません。

「あたいも、早く大人になりたいニャ」

「どうして?」

「ルリちゃんみたいにオッパイを大きくなって、きれいになりたいニャ」

「大丈夫よ。化け猫さんもすぐに大きくなりますよ。それに、化け猫さんは、可愛いじゃないですか。大人になったら、美人になりますよ」

「ホントニャ?」

「ホントですよ」

 そう言うと、化け猫さんは、体中を泡だらけにしながら嬉しそうに笑いました。

「化け猫ちゃんは、すぐに引っかくから、ぼくより子供だよ」

「そうだよね」

「ウニャ! あたいは、そんなことしないニャ」

「するじゃん」

「しないニャ」

 ケンカを始めそうになるので、私は、慌てて止めました。

「ケンカはダメですよ。みんな仲良くしましょう」

 私は、泡をお湯で流して、シャンプーで髪を洗ってあげます。

その横では、見よう見まねで、一つ目さんととうふさんも体を洗い始めました。

「とうふさんも、一つ目さんも、背中もちゃんと洗ってね」

 私は、化け猫さんの頭を流してから、二人の背中を洗ってあげました。

みんな子供なので、背中も小さくて、ツルツルして、とても肌艶がいい。

一つ目さんととうふさんは、坊主頭なので、頭を洗う必要がないので楽です。

 気が付くと、私も肌を隠すとか、恥ずかしいとか、そんなことはどこかに消えていました。

最後は、みんなで温泉に浸かって、数を数えたり、ツルツルの頭にタオルを乗せてあげたり笑いが絶えない、楽しいお風呂タイムになりました。

「ババンバ、バンバンバン・・・」

「いい~湯だな、いい~湯だな」

 どこかで聞いたことがある歌をみんなで歌ったり、楽しいお風呂でした。

お風呂から上がると、タオルで体を拭いて、服を着せます。

「大丈夫だよ、一人で着れるから」

「一つ目さんは、大人ですね」

 そう言うと、とうふさんも一人で服を着始めています。

私は、化け猫さんの濡れた髪をタオルで丁寧に拭いてあげました。

「ルリちゃん、ありがとニャ」

「どういたしまして。これからは、毎日、拭いてあげますよ」

 化け猫さんの髪は、赤みがかった肩まで伸びる、サラサラヘアーです。

私も急いで着替えを済ませて、温泉を後にしました。

「随分、ゆっくりだったのね」 

 部屋に戻ると、事務作業を終えたアマビエさんに言われて、ちょっと照れてしまいました。

「いいのよ。どうせ、この子たちが、遊んでたんでしょ。アンタも大変ね」

「平気ですよ。お家賃がないんですから、これくらいどうってことありません」

「まったく、お婆は、人間に甘いんだから」

 アマビエさんは、口ではそう言いながらも、笑っていました。

「ハイ」

 そこに、冷たいお茶を持って、半漁人さんがやってきました。

「ありがとうございます」

「ありがとギョ。この子たちをお風呂に入れてくれて。ぼくたちは、温泉には入れないから、どうしても手が回らなくて」

「大丈夫です。これからは、私が入れます」

 半漁人さんは、口元を緩めて、お茶を飲んでいる三人を見ながら言いました。

その後、水風呂の人たちと交代します。そこに、店長がやってきました。

「風呂に入ってきたか?」

「ハイ、とても気持ちよかったです」

「それじゃ、悪いけど、俺のブラッシングをしてくれ」

「ブラッシング?」

 私は、どういう意味なのかわからず、首を傾げていると、とうふさんがあるものを持ってきました。

「店長さんは、お風呂に入らない代わりに、寝る前に、みんなでブラッシングをしてあげるんだよ」

 見るといろいろなブラシがありました。

「いつも、おいらたちがやってるんだけど、店長さんは、体が大きいから大変なんだよ」

 一つ目さんが言いました。確かに、2メートルくらいの大きな体をブラシするのは、この子たちには、大変です。

店長は、私の前にドサッと横になりました。

「えっと、どのブラシがいいですか?」

「その、大きなブラシのがやりやすいと思う」

 私は、そのブラシを手にして、店長の体にブラシをかけました。

「もっと、強めに頼む」

「ハ、ハイ」

 私は、両手でブラシを持って、力を込めて背中をブラッシングしました。

あっという間に、ブラシに抜け毛が付きます。

「抜け毛がすごいですね」

「仕事中は、気合で料理に毛が入らないようにしてるからな。仕事が終わると気が抜けて、毛も抜けるんだ」

 店長は、そう言って、気持ちよさそうに目を細めていました。

「ルリちゃん、疲れたら代わるニャ。腱鞘炎になるニャ」

「大丈夫よ。これでも、私は、まだ若いんだから」

 心配してくれる化け猫さんが好きになりました。妖怪でも、思いやりはあるんです。たっぷり時間をかけて、店長さんの大きな体にブラシをかけました。

ゴミ箱には、抜け毛の塊がいくつもありました。

「ありがとよ。久しぶりに気持ちよかった。やっぱり、ブラシは、人間にやってもらうに限るな。おかげで仕事の疲れも取れた」

「こちらこそ、お役に立ててうれしいです」

「お前も疲れただろ。また、今夜もがんばってもらうから、ゆっくり寝るんだぞ」

「ハイ」

 そう言って、店長は、大きなシッポを揺らしながら二階に上がって行きました。

「それじゃ、みんなも寝ようか」

 お風呂から上がった一つ目さんもとうふさんも、目がトロンとしてきました。

どうやら眠くなってきたようです。私は、三人を連れて二階に上がると、一つ目さんととうふさんをふとんに寝かせて、化け猫さんと自分の部屋に入りました。

 私は、パジャマに着替えて、ベッドに入ると、化け猫さんが私の横に立って言いました。

「今日は、いっしょに寝てもいいかニャ?」

「いいですよ」

 私は、そう言って、ふとんを捲りました。化け猫さんは、そこに潜り込むと、ふとんの中から顔を出して、ニコニコしながら私を見ました。そんな可愛い笑顔で見られると、抱きしめたくなりました。

「おやすみニャ」

「おやすみなさい」

 時計を見ると、10時を過ぎていました。外は、もうすっかり明るくなっています。

こんな明るい時間から寝るなんて、初めてのことです。寝られるかなと思っていたけど、疲れていたのか、すぐに私も眠くなりました。


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