2. 先生と生徒



「全然見つからん……」

「プレゼント選び、難しいですね……」


 ざっくり二時間程度は歩き回っていた。

 衣服、アクセサリー、宝石、置物にミニ家具と雑多になんでも見た。確かに思い出に残りそうなプレゼントは多かったが、「涙を笑顔に変えるプレゼント」は見つからなかった。というか、そもそもお題が難し過ぎる。恋人の一人もできたことのない俺に見つけられるわけがなかったのだ。


「そういや紫衣さんって恋人とかいたことないんですか?」


 小休止で座ったベンチにて、隣の紫衣さんに聞いてみる。


「! ふふー」

「別に紫衣さんが気になってしょうがないとかじゃないんで」

「……」


 表情を太陽から月へ……いや晴天から雨模様だな。どっちにしろジェットコースターだ。わかりやすいにもほどがある。


「はぁ、火花君。あなたはユーモアとセンスに欠けた浅はかな男の子ですね」

「ひでえ罵倒だ……」

「私はお姉さんなので深い心で受け止めてあげますが、他の女性とお話する時は気をつけるんですよ?」

「へいへい」

「ん、よろしい」

「ところで紫衣さん、恋人は?」

「いたことありませんよ。想い人なら……」


 少しだけ遠い目をして、紫衣さんは淡く微笑む。


「どこかにいるかもしれませんね」


 俺は……自分で聞いておきながらどんな返事がいいのかわからなくて、一言「そっすか」とだけ返した。ちくりと、罪悪感。


「さっ、気分転換に甘いものでも食べましょうか!」


 気を遣わせてしまったらしい。ここは年上の配慮に甘えさせてもらおう。


「それならクレープでお願いします」

「……返事早いですね?」

「……そりゃ、ね。紫衣さん知ってますよね?」

「火花君、スイーツ好きですもんね」

「まあ、はい。ついでにソフトクリームも食べていいですか?」

「だめです。あ、私と半分こならいいですよ?」

「………………」

「物凄い考えますね……」

「………………食べるぜ、俺は」

「しかも食べるんですか! 私はどちらでもいいですけど、いいんですね? 私の初間接キスをこんなところで奪うことになってしまっても」


 真顔でなんてことを言ってるんだこの人は。聞いてる側が恥ずかしくなってくる。……なんで言ってる本人じゃなくて俺が顔熱くならなきゃならねえんだ、おかしいだろ。


「……じゃあやめときます。色々なんかアレだし」

「ふふー、そうですか? そうですよねっ。いろんなハジメテは大事にしないといけませんからね」

「それが教師の発言ですか」

「残念っ、私はカウンセラーであって教師ではありません。先生ですけど」

「……カウンセラーの方がもっと悪い気がしますよ」

「気のせいですよ」

「そっすか」

「そうです」

「そうかぁ……」

「ではクレープでも買いましょう。何味にします?」

「五分ください」

「長いですね……いいですけど」


 呆れ顔の紫衣さんを待たせ、クレープを選ぶ。五分後に俺が決めたのは抹茶チョコアイスクレープだった。ちなみに紫衣さんはツナマヨクレープだった……。

 「火花君が甘いのなら私はしょっぱい方が二度美味しいですからね!」とかいう謎の理論で、結局間接キスは奪うはめになった。奪うというか、奪われたというか。


 変なことを言われたせいで俺はめちゃくちゃ気にしていたのに、紫衣さんは一切気にした様子なく表情も笑顔一色で釈然としなかった。大人ってずるい。


 ウインドウショッピングはその後もしばらく続き、夕方になったところでタイムアップ。


 俺が得たものは、女性との買い物経験、多大なからかわれ経験、初間接キス経験、多様な羞恥心。以上。プレゼントは見つからなかったので今日の宿題とされた。無理難題が過ぎるぜ、紫衣さん……。



 ――一夜明けて。



 朝である。


「火花君、おはようございます」

「ぁ、朝崎先輩っ、お、おはようございます……!」

「おはよう。……え、いや、誰!?」


 いつもの教室に影二つ。

 普通にドアを開けたら普通に挨拶されて普通に驚いた。……超びっくりした。


「そ、う、ですよね……。私なんて、知らないですよね……」

「あーっ!火花君! 人のこと忘れるなんてだめですよ! 思い出してあげてください!」

「んなこと言われても……初対面だよな?……ですよね?」


 奥の椅子には紫衣さん。いつもの俺の席は空いており、その正面に女子生徒は座っていた。


 黒の髪に淡い紺色の瞳。肩まで伸びた髪は顔を俯かせると流れて頬を隠していた。少しだけ見えた顔つきは未だあどけなく、どこか自信がないように思える。


 指の背で頬を撫で、どうするかと迷う。とりあえず椅子に座った。


「……いや悪い。後輩か? 先輩だったらすみません」

「こ、後輩です……っ」

「そうか。俺は二年の朝崎あささき火花ひばな

「知っています……。あささき先輩」

「火花でいいよ。朝崎って言いにくいだろ?」

「は、はいっ。火花、先輩」

「それで、君の名前は?」

「私は……」


 後輩の少女はきゅっと手を握り、何やら強い眼差しで見つめてきた。


陽ノ崎ひのさき小冬こふゆです。私も、先輩と同じ"さき"、です」

「珍しいな。よろしく陽ノ崎さん」

「よ、よろしくお願いします……!」


 はにかむ陽ノ崎に、うむりと鷹揚に頷いた。横を見ると紫衣さんがひどく優しい顔をしていて、なんでそんな顔をと思ってしまう。目が合い、すぐにふふりと微笑んでくる。気のせいだったか……?


「さて火花君」

「え、おう」

「今日から小冬ちゃんもカボス部の一員です!」

「そっすか……」


 そうかと思っていたらやはりだった。正面の少女を見つめ、優しく笑いかける。


「お互い、頑張ろうな」

「ぁ、え、えっと私は……」

「何か勘違いしているようですが、小冬ちゃんは別にカウンセリング対象ではありませんよ」

「マジっすか」

「マジです」

「ご、ごめんなさい。本当ですっ」

「……そうかぁ。じゃあどうしてここに?」

「私が呼びました!」


 えっへんと胸を張っている。相変わらず変なところで自慢げだ。目を逸らし、聞いてみる。


「どうして呼んだんですか……」

「火花君には人間関係が足りませんからね。これも成長のためです」

「……了解。俺のためね。けど陽ノ崎さんはそれでいいのかよ?」

「ぜ、全然いいですっ。私がお願いしたようなものなので……。それ、と私は呼び捨てで大丈夫です。敬語もいらないです。後輩、ですからっ」

「そ、そうか」


 ちょっと食い気味だった。この後輩、思ったよりアグレッシブかもしれない。


「自己紹介も済んだところで、部活を始めましょうか」

「了解」

「はいっ」

「火花君、昨日の宿題は覚えていますね?」

「あい」

「小冬ちゃんのためにも説明して、宿題の答えも教えてください」

「わかりました」


 先生っぽさの強い紫衣さんに従い、つらつらと説明していく。

 恋人との別離、プレゼント、涙を笑顔に変える贈り物。何を贈るか。そして。


「――俺は何も思いつかなかった。以上!」

「「……」」

「……言いたいことはわかる。けどな、思いつかなかったものはしょうがねえ。紫衣さんはどうだったんですか?」

「私? ふふっ、私はもちろん何にも思いついていません!」

「「……」」


 二度、無言が続いた。この先生あってこの生徒である。いや逆だろうか。どっちでもいい。俺たちだめだな。後は陽ノ崎だけが頼りだ。紫衣さんが呼び寄せたのは大正解だったようだ。


「と、いうことだ。陽ノ崎。何か良い案を教えてくれ」

「ふぇっ、そ、そんな急に言われても……っ」

「小冬ちゃん。気負わず軽く考えてくれていいんですよ。空っぽの火花君に怒る資格はありませんから」

「俺だけじゃなくて紫衣さんもでしょ……」


 返事はなかった。ただ陽ノ崎がこくんと頷く。

 数秒、数十秒、数分待って。すごい集中力の陽ノ崎を見守る。


「――あの」

「おう」

「はい」

「えっと、歌、はどうでしょうか?」

「「……なるほど」」


 それは盲点だった。歌。歌か。いいな、歌。

 別離。永遠の別れ。悲しみを笑顔に変えるような、魔法のプレゼント。歌の魔法。


「いいな、歌」


 寂しさを吹き飛ばすことはできないかもしれない。悲しみを紛らわせることしかできないかもしれない。

 でも、記憶には残る。残り続ける。前向きに、元気になれるような明るい曲であれば日々力をもらえる。音楽はすげえって映画でも言ってた。俺もそう思う。


「素敵ですね。それで行きましょう!」

「そ、そんなにすぐ決めてもいいんです、か?」

「まあ最終判断は依頼人がするだろうからな。言うだけ言ってみようぜ」

「そうですね。歌は採用です!」

「え、えへへ。ありがとうございますっ」


 照れて頬に手を添える仕草は上品な令嬢を思わせた。しかしそんな育ちの良い後輩が俺とどんな接点を……? 


 チリ、と思考にノイズが走る。

 だめだ思い出せない。微塵も記憶がない。ごめん陽ノ崎、俺は君を覚えていないようだ……。


 そんなこんなで、贈り物は"歌"に決まった。

 ちゃちゃっと依頼人の壱橋さんと連絡を取り、翌日の午後には当人がやってきた。


「――歌、ですか」

「はい。前向きで明るく元気になれる歌であれば……きっといつか、別れの痛みも薄れて笑顔で聞けるようになると思いますので」

「そうです、ね。……心の傷は時間が癒すとも言いますし」

「はい。どうでしょうか?」

「……良いと思います。ありがとうございます。私では思いつかなかったプレゼントです。ただ」


 言葉を濁す男性の先を待つ。話し相手は俺だ。「小冬ちゃんは火花君と違って忙しいので、毎日は来ませんよ」と言われ、俺が話すことになった。これでも結構緊張している。


 視線で紫衣さんに救いを求めると、軽く首を傾げてウインクされた。揺れた髪と相まって可愛さが美しさを上回っている。俺が求めていたのは可愛さじゃくてアドバイスなんだよな……。


「いえ……少し時間をいただけますか? 曲を作ってみるので聞いてくださると助かります」

「え、はい……」

「ふふ、それでは空き教室にご案内しますね」


 俺がびっくりしている間に、紫衣さんは依頼人を空き部屋へ案内しに行った。戻ってきた美人が何事もなく椅子に座り、ふぅと息を吐く。


「え、いや。……曲ってそんなすぐできるんすか?」

「どうでしょう? わかりませんが想いさえあればできると思いますよ」

「……そういうもんかぁ」


 ド素人には何もわからない。

 できる人ができるって言ったならできるのだろう。待っていれば答えは出る。


「火花君」

「はい」

「もしも火花君が同じ立場にいたら、どんな歌を贈りますか?」


 顔を上げる。横を見て、紫がかった赤茶色の瞳に囚われる。真剣な眼差しだった。紫衣さんはたまに、こんな目をして俺を見る。そういう時は決まって何かの問いかけで、不思議と適当な答えができなかった。


「俺は……」


 俺がもし、壱橋さんの立場だったら、か。

 空想の手を広げてみる。


 恋人がいて、その人と別れなくちゃならなくて。俺が歌を贈るとして。

 彼女はきっと、泣きながら笑って歌を受け取ってくれる。まるで昨日見た映画のように、彼女は永劫の別離を受け入れる。受け入れてしまう。その笑顔を、泣き顔を見て、俺は……。


「……わからねえ。すみません紫衣さん。わかんねえっす……」


 紫衣さんは微笑んで頷いた。


「そうですか。……そうですね。私も同じです」


 淡い笑みはずいぶんと大人びて見えて、あぁこの人やっぱ大人なんだなと強く思わされた。


 胸の奥の微かな痛みを無視し、静かに壱橋さんを待つ。

 俺は、紫衣さんに嘘をついた。





 壱橋さんがカボス部の部室にやってきたのは、一時間後のことだった。

 完成した曲はちゃんと"音楽"になっていて、紫衣さんと二人「うおお!」とか「すごい!!」とか興奮してはしゃいでしまった。やっぱりこの人子供だったわ。


 子供なのか大人なのかわからない美人と一緒に、変に泣き出しそうな顔の壱橋さんを宥め、学校の外まで見送った。


 校門の外、田んぼの緑が駅まで続いている。

 時刻は十八時前。青々満ちた水田と異なり、夏の空は透明な青を滲ませ始めていた。もうしばらく待てば空一面が茜色に染まるだろう。手を伸ばすと届きそうな雲が薄っすらと色を変えていて、つい、指先を空へ向けてしまう。


「火花君?」

「あ……」


 不思議そうな顔の紫衣さんが髪を揺らして名前を呼ぶ。気恥ずかしさで頬が熱くなる。


「いやなんでもないです。ちょっと空が綺麗で」

「そうですね。……夏、ですね」

「夏っすね」


 蝉時雨。夕焼け近い時でも夏は騒がしく歌っていた。

 滲む汗をタオルで拭う。


「火花君、少し歩きませんか?」

「……この暑い中を?」

「はい」

「このクソ暑い中を?」

「はいっ」

「……歩くんすか」

「はい。行きますよー!」

「……へい」


 ゆったりと歩き出した紫衣さんを追う。

 じりじりと照り付ける日差しはあまり弱まった気配がない。


 校庭、プレハブ校舎、テニスコート、プール、畑、新校舎。それと、一本の大木。


「この木がどんな木だか、火花君は知っていますか?」

「恋が成就するとか迷信でもありそうですね」

「いえ特に何も。ただの木です」

「そっすか……」


 何が言いたいのかわからなかった。空気を読んで押し黙る。

 夏の風が部活動に勤しむ生徒の声を運んでくる。空は徐々に薄まっていく。木の影に残る紫衣さんが儚げで、なんとなく目を離せなかった。


「この木は、百年以上生きているそうです」

「……長い木っすね」

「長い木だけに、長生きですね」

「……」

「……」

「……帰っていいっすか」

「だめです」

「……あい」

「この木は、百年以上生きているそうです」

「やり直すのかよ!!」


 さすがにもう黙ってはいられなかった。屋外で暑いこともあって、つい声を張ってしまう。紫衣さんがころころ笑っていて気が抜ける。疲れた。全然儚げじゃなかった。ギャップがひどいぜ。


「ふふ、うふふっ、まあまあ。とにかくですね。何の変哲もない木でも、私たちよりとってもとっても長生きなんです」

「あぁ、そりゃそうでしょうよ……」


 すごいとは思う。長い年月を生きた植物だと思うと、ちょっとした尊敬の念も湧いて出てくる。俺は年上に弱いのだ。いや植物にそういうの関係あるか知らないけど。


「火花君も、長生きして歳を重ねたらきっとこんな立派になるんですね」

「ここまではならねえですよ」

「ふふっ、どうでしょうねー」


 くすっと笑って再び歩き出す。と思ったら、影から出て日向で振り向き俺を見た。


「火花君。ショッピングモールで受付さんと話したこと、覚えていますか?」

「? あぁまあ。昨日の今日ですし」


 紫衣さんは「そうですね」と頷き、続ける。


「私、少し考えたんです。もしも絶対にお別れしなくちゃならない相手がいたとして、その時もう一人の自分をプレゼントできたらどうなるのかな、と」

「それは……」


 受付の人はアンドロイドだった。紫衣さんの言う"もう一人の自分"も、おそらく……。

 俺が何か言う前に、ピッと指を伸ばし口を塞いでくる。唇に触れる指の感触にドキリと心臓が跳ねる。柔らかい眼差しが俺を見つめていた。


「言いたいことはわかります。もう一人の自分、それはもう別人です。でも火花君、もう一人の自分がちゃんと記憶を持っていたとしたら、それでも別人だと言い切れますか?」

「……どう、なんだろう」

「私は、別離の相手にそんな"別の私"を贈れたらいいなと思いました。……火花君はどう思いますか?」

「……」


 難しい質問だった。

 別人か、別人じゃないか。きっとそこに答えはない。記憶があるから同じ存在なのか。じゃあ記憶喪失になったら別人なのか。それは違う。違うだろう。でも記憶は大切なものだ。思い出があるから感情を共有できる。過去があるから未来を想える。そういうもの、のはずだ。


「……俺は」


 頭を掻き、思考をまとめて紫衣さんを見つめ返す。わからないなりに、ちゃんと答えは出そう。


「例え同じ記憶を持っていても、やっぱりそれは別人だと思います」

「……どうして?」


 瞳を揺らし、少しだけ幼げな声で問いかけてくる。

 こんなこと言ったら笑われるか……。照れ隠しに天を仰ぎ、続けた。


「寂しいでしょ。俺が嬉しくても、紫衣さんはどうなんすか。いなくなった方の紫衣さんはそれで満足なのかよ。俺だったら、胸が痛くてしょうがねえ。たぶん……ですけど。だから……紫衣さん?」


 紫衣さんは、嬉しそうな、泣きそうな、悲しそうな、幸せそうな、いろんな感情が混ざった複雑な顔をしていた。

 俺の呼びかけに答え、首を振って微笑んで頷く。


「ふふっ、火花君。私がお相手なんですね。うふふ、お姉さんは嬉しいですよー」

「別にそんな……」


 撫でようとしてくる手から逃れ、そういやいつの間にか紫衣さんが相手になっていたなと気づいて恥ずかしくなる。普通こういうのは親や友達なんじゃ……。


「痛っ」

「ん、火花君大丈夫ですか?」

「あぁ、うん。大丈夫っす。ちょっと偏頭痛で」


 一瞬痛んだ。血管切れた的なアレだ。心配そうな紫衣さんにはひらひら手を振る。

 何を考えていたか。まあそう大事なことでもないか。


「でも、そうですか。火花君は別人派ですか」

「なんですか別人派って」

「いえ特に意味はないです。火花君みたいなちょこっと面倒くさい男の子の恋人になる人間は大変だなぁと思っただけです」

「なんで恋人?」

「だって恋人は別れるものですから」

「悲しいこと言わないでください……ていうか俺が面倒くさい男って、いやそうかもしれねえけど……」


 そっちも悲しい。俺も俺のこと時々面倒だなこいつって思うけど、少し憧れ気味な女性から直接言われるとちょっとは傷つく。


「ふふっ、でも私は嫌いじゃないですよ。そういう面倒くさいところも含めて、火花君の良いところだと思いますから」


 優しげな表情と瞳と、言葉と。急速に顔が熱くなる。こみ上げる嬉しさと羞恥を強引に抑え呟く。


「――……褒めても、何も返しませんが」

「あはっ、火花君照れてますねー! うふふ、かーわいい!」

「や、やめろー! 撫で回すなら逃げますけど!」

「うふふー! それなら追いかけちゃいますよー!」

「ばっ! それが教師のやることかよー!」

「残念っ、私は教師ではなくカウンセラーです!」

「けど先生だろう!!」

「これは先生のやることですよー!」

「俺は幼稚園児じゃねえーーーー!!」


 真夏の暑い夕暮れ前に、俺と紫衣さんは意味不明な追いかけっこを繰り広げる。


 無駄に足の速い紫衣さんのせいでめちゃくちゃに疲れるはめになった。まあでもとりあえず依頼一つ完了、ということで良かった。よかったのか……? よかったことにしよう。ボランティア一つ、完了だ。



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