第16話

川邊篤、彼は32歳という若さで、今回この会社の専務取締役へと就任した。



そんな彼は、経営統合前のベリトイホールディングス会長であり、現ベリナングループ会長である川邊正(かわべただし)の息子。



ただ、この彼は、普通の御曹司ってわけではなく、

川邊会長が愛人か何かに産ませてずっと放っていた子供らしく。



川邊篤が21歳の時に、自分の息子だと認め、自分の戸籍に入れたらしい。



この人の事は、興信所に調べる迄もなく、この会社に入社してすぐに、色々と聞かされた。



昔、非行に走っていて、中卒だったと。



川邊会長に引き取られてから、大検を受けて大学へと行き、

26歳の時に前のベリトイホールディングスに入社した。



そして、入社後すぐに課長になり、

部長となり、

今回、専務取締役へと就任した。




「いや、その、うちのガンフォーマーによく似たロボットキャラの文房具出してる会社、

ヤクザのフロント企業らしくて。

だから、うちの会社としては、あまり事を荒たてずに、向こうに忠告くらいで済ませたいって」



今日、滝沢斗希が川邊専務の元へと訪れたのは、

今、川邊専務が口に出したトラブルの為。



「いや。向こうが著作権侵害しているなら、堂々と訴えても構わないんじゃないのか?」



「それがな。

昔あった事件みたいに、うちの食玩に毒を入れる、みたいなような事を匂わせてくるんだってよ。

それを脅しにならないように上手く。

ほら、そんな噂が立つだけでも、売上が下がるし、どうしたもんか、って。

社内でも、このまま見て見ぬ振りで通すかどうかでも、意見が分かれてて」



「なるほどね。

そんなトラブルだから、篤に回って来たんだ」



私は、専務室の扉付近へと立ち、

応接テーブルで話し合っている、滝沢斗希と川邊専務に目を向けている。



滝沢斗希は、先程私がテーブルへと運んだコーヒーに、口を付けている。



滝沢斗希をこの専務室へと通した際、

彼は私の顔を見たが、私の事を覚えていないのか、

笑顔で私に頭を下げていた。

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