第7話

その別れを切り出されたのが金曜日の夜で、

その2日後の日曜日の午後15時。




M駅の喫茶店に、眞山社長から呼び出された。



だけど、そこに現れたのは眞山社長ではなくて。



「Y法律事務所所属の、滝沢です。

眞山社長の代理として、今日は話し合いに来ました」



そう言って、その男滝沢斗希は名刺をテーブルの上に置いて、私の前へ座る。



ちょうど通りかかったウェイターに、ホットコーヒーを頼んでいる。



「小林(こばやし)さんは、もう注文されました?」



その滝沢斗希の言葉に首を横に振り、

アイスコーヒー、とそのウェイターに告げた。



そのウェイターが立ち去ると、

話し合いを始める合図のように、滝沢斗希は私に視線を合わせて来た。




「なんで弁護士の方がわざわざ…」



恋人同士の別れ話に、何故?



「眞山社長が言うには、あなたに脅迫されていると」



「脅迫?」



その言葉に、面食らってしまう。



「いえ。それは少し大袈裟な表現だったかもしれませんね。

ただ、眞山社長の子供をあなたに妊娠したと言われ、困っていると相談を受けて。

なに、その妊娠の話が本当ならば、あれなのですが。

もし、嘘ならば…」



ふっ、と笑うこの男の顔は、私のその妊娠が嘘だと気付いている。



いや、目の前のこの男ではなくて、

眞山社長は分かっている。

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