第6話 魔王と魔物

「んじゃ。魔王についての話だ。あいつ話して分かったことだが、魔物達あいつらはよく考えていた。人間俺たちよりもな」


 プスー。プハー。勇者の口から煙が出る。


「まず、奴らの中には、人間のように殺戮を快楽だと思ってるやつはいなかった。殺人を快楽だと思っている奴は少数だが、その標的が魔物になると豹変する。どんなにやさしい人でも、魔物には遠慮なく鉛球をぶち込む。……なぜだかわかるか?国王」


「え?それは魔物は人に仇名すものだからです。魔物が生きているだけで、我が国に被害を及ぼす。だから殺すのです」


「人に仇名すものだから殺す。違うな。それは建前だ。……お前らの中にも、魔物を銃でぶち抜いたとき「よっしゃ!当たった!」なんて思わなかったか?」


 勇者の問いに、国民は皆。押し黙る。

 だれもが、勇者の言うことに覚えがあるからだ。


「でも、さ。それって魔物側から見たら、俺らはただの快楽殺戮者。狂気じみたバケモンだ。一部の魔物は敵対しないかも。なんて考えなかったのか?先入観にとらわれているから、俺は大事な仲間を四人もなくした」


 プスー。プハー。勇者の口から煙が出る。


「もう、魔王と話してるうちに、どうしたらいいのかわからなくなってきてたんだ。なんなら俺に言わせれば、俺たち人間のほうがよっぽど魔物で醜い。そしてなにより、下賤だ」


「勇者様。何を言っておられるのですか!?そんなことを言ってしまうと……」


「大丈夫だ国王。俺にはもう何も残ってない。何も持ってない奴ほど怖いものはないぞ。なんにしろ身軽だからな。もう失うものは何もない。そんなこと言ってると俺のマスターソードであんたの首根っこひっかくぞ」


 国王は黙る。

 プスー。プハー。勇者の口から煙が出る。


「まったく、ヤになるよな。だって倒しに行こうとした奴の意見に賛同しかけたんだ。でも俺は戦った。なんでかって?僧侶の仇を討つため。ただそれだけのために俺は戦った」


 プスー。プハー。勇者の口から煙が出る。


「それで死闘の末、俺は勝ったんだ。勝算も何もない戦いだったが、何とか勝ったんだ。だが、今は覚醒剤を常に所持していて、薬漬け。今も煙草吸ってねぇと、手が震えるんだ。情けねえよなあ。でも、それが俺なんだ」


 プスー。プハー。勇者の口から煙が出る。


「さて、最後に俺の話でもするか。この俺。魔王を倒した勇者の話を……」


 プスー。プハー。勇者の口から煙が出る。

 勇者はまたもや、煙草を投げ捨て、ポケットから煙草を取り出す。


 また、煙草を爪で軽くたたき。

『ファイヤー』そういい。煙草に火をつける。


 プスー。プハー。勇者の口から煙が出る。

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