第5話 僧侶と魔王城

 プスー。プハー。勇者の口から煙が出る。


「もう、魔王城が目前になったころには、俺と僧侶の二人だけになっていた。もうそんときには俺も僧侶もとっくに壊れてた。それでもまだ、自我だけは捨てられなかった。魔法使いのようにはなってなかった。はじめは難なく魔王城に侵入できた。そのあとの分岐路で俺と僧侶は分かれた。何かあったらテレパシーで連絡するからと」


 プスー。プハー。勇者の口から煙が出る。


「だが、それからが問題だった。ドォン!!とかいう、大爆発の音が響いたんだ。何事かと思って、音のなった場所に向かうと、それは見るも無惨な姿だった。赤く、そして青く染まったカーペット。赤い血は僧侶のものだった。泣いたね。実のところ、俺は僧侶に惚れてたんだ」


 自傷気味に勇者はそういう。

 プスー。プハー。勇者の口から煙が出る。


「もう片方の青い血のほうは後々わかったんだが、魔王の幹部のものだった。しかも三人分。あいつは命を張ってまで、俺を守ってくれた。嬉しかった。だが、うれしかったと同時に悲しくなった。俺を呼んでくれれば僧侶は生きれたもしれないのに……と。まーこんなことうだうだ言ってもしょうがないわな」


 プスー。プハー。勇者の口から煙が出る。

 勇者はまた、煙草を投げ捨て、ポケットから、煙草を取り出す。


 軽く爪で煙草をたたく。


「『ファイヤー』――――……国王これみてみてくれ僧侶の……遺書みたいなもんだ」


 プスー。プハー。勇者の口から煙が出る。


 そうすると、勇者は国王に紙切れを投げつける。

 すると、禍々しい空気が、何もないはずなのにおびただしい。

 その場にいるだけでも、身がすくむような。そんな気分に誰もがなる。


「むっ!?なんですかこれは!これが遺書?まるで呪いの書ではないですか!」


「あーそうだ。それは呪いの書だ。読んでみろ……って読めねぇか。彼女が最期の力を振り絞って書いたものだよ」


 勇者が呪いの書を読み上げる。


 この世界を許さない。

 こんな世界に私を生んだ両親を許さない。

 先に死んでしまった仲間たちが許せない。

 こんなところで死ぬ私が許せない。

 結局最後は勇者くんに頼ってしまう私が許せない。

 この世界が嫌いだ。

 許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許   さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない


 その呪いの書は真っ赤な血で殴り書きにされていた。

 国民たちは皆。戦々恐々としている。


 それはそうだ。誰にでも等しく優しかった僧侶がこんなことを書くのだ。

 戦々恐々としないわけがない。


「これ見て思った。俺も死んでしまおうか、と。でも、彼女こんな風にした魔物が許せなかった。だから俺は、俺は魔王を倒すまでは、滅ぼすまでは死なないとその時決意した。だから今ここに立っているわけだからな」


プスー。プハー。勇者の口から煙が出る。


「じゃあ、次に死んだ奴……魔王の話でもするか」

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