第4話 人は常に死と隣り合わせ

「はい。待たせて悪かった。煙草の調合してたんだ」


 勇者はまたもや壇上に立つ。


「いえいえ。大丈夫です」


「あー。そう?じゃあ、続きから話していくけど、この国の国民はずいぶんとモノ好きなのか?大多数が残ってるじゃねえか」


 勇者の話を聞いても尚、勇者の旅の物語を聞こうと思う者たちが、壇の前に残っていた。


「じゃあ、次に死んだ奴の話するか。っとその前に……」


 勇者はポケットから、煙草を取り出す。

 勇者は煙草を爪で少しはじく。


「これで葉詰まんねえかなあ……『ファイヤー』―――次に死んだ奴は魔法使いだ。こいつもこいつで悲惨だったな」


 プスー。プハー。勇者の口から煙が出る。

 勇者の顔に少し陰りが見える。


「そーだ。国王。魔王城に近づくにつれて魔物に起こる変化は何だと思う?」


「え?は?はい?えー。強くなるとかですか?」


「はい。はずれー。まあ、強くなると言っちゃ強くなるがな。正解は頭がよくなる、だ。当たり前だな。魔王の魔力を近くで感じられるんだ。当たり前だな。自然の摂理ってやつだ。さあ国王。追加で問題だ。魔物の頭がよくなることで起こることとは」


「え?は?えー小狡こずるい手を使うとかですかな?」


「うーん。まあ、近からずとも遠からずだな。正解は人語をしゃべるようになるんだ。だからあれだな。俺たちがとどめを刺そうとすると「お願い殺さないで!」とか「俺には子供と妻がいるんだ!見逃してくれ!」なんて言うことを言うんだ。真っ赤な嘘の時もあれば、本当の時だってある。そんな魔物の叫びで魔法使いは壊れちまったんだ」


「な、なんと……魔物が人語介するのですか……?」


「それで、だ。魔法使いは変わった。こん中に上級魔法が使える奴なんていないと思うが、上級魔法ってな。結構えぐいことするんだよ。地面盛り上げて落としたり、爆発させたり、あたり一帯を火の海にしたり……もちろんそんなことをすると、知能の発達した魔物は必死で命乞いをするわけで……それで精神を壊すのは時間の問題だ。」


 国民はもはや何も言わず、黙って勇者の話を聞いている。


「それでな。彼女は完全に壊れてしまったんだ。そうだな……これ、何かわかるか」


 そういい、勇者は魔法陣のようなものが書かれた一枚の紙きれようなものを取り出す。


「い、いえ。わかるません」


「これは「魔力回復スクロール」だ。超強力のな。これを使うことで、体内に無理やり魔力を流し込み、一瞬でまた戦闘できるようになる。だが、これにももちろん副作用はある。無理やり回復させた魔力で戦い続けると、身体に異常をきたし、精神を確実にむしばんでいく。最後の彼女なんて、やばかった。雑魚モンスターに最大火力魔法ぶっ放したり、自分の腕切って、そこから流れる血を見つめたり……正直言ってどっちが魔物なのかわからなくなっていた」


 国民はゴクリと唾を飲む。

 自分が期待していた、勇者一行の旅はそんな悲惨な旅路だったのだと。そう思っていた。


「そしてだ。レベル差がある過ぎるにもかかわらず、彼女は無策に飛び込み、その敵に最大火力魔法をぶっ放したりしていた。もう、彼女は人の枠から外れたのだと、人外なんだと。そう俺たちは確信した。最期の彼女は「キェェェェ」と奇声を発して戦っていた。彼女は最後に魔力回復スクロールを四〇枚ほど使っていた。……死ぬ気だったんだろうな……」


 プスー。プハー。勇者の口から煙が出る。

 勇者の顔は物悲しげだ。

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