第14話 最悪の結果


「あ、あの~、すいません」


「ッ……!」


 声を掛けた瞬間、彼らはすごく驚いて自分の方を見た。


「だ、誰だ、アンタ! こんなところで何をしている!」


「奇妙な服装……。アンタ、この辺の村人じゃないわね……」


 物凄く怪しんでいる。そりゃそうだ。自分だって逆の立場なら、きっと怪しんで警戒するだろう。


「け、警戒されるのはもっともだと思いますが、まずは話を聞いていただけますか? 自分に敵意はありません! アナタ方に危害を加えるつもりも全くありません!」


 両手を上げて、ゆっくりと近づく。

 自分に敵意が無い事が伝わったのか、彼らの警戒心が少しだけ緩んだ気がした。


「……名前と出身を言え」


「井口統助と言います。出身は日本という国です」


「イグチ・ソウスケか……。ニホンとはどこの国だ? 聞いたことが無いな……」


 一番年上っぽい男性が問うてくる。

 確かロウガとか呼ばれていた気がする。


「自分も気付いたら、この森に居ました。それまで自分がいた場所とは全く違う場所に居たのです。嘘じゃありません」


「……確かにそんな奇怪な服装、この周辺はおろか、他の国でも見ないな……。おい、一度後ろを向け。こちらが良いというまでだ」


「……何故?」


「敵意が無いなら出来るはずだ。武器を隠し持っているかもしれない」


「ああ、なるほど。確かにそうですね」


 彼の言い分は最もだ。

 自分はゆっくりと後ろを向く。


「どうでしょうか?」


「……確かに武器の類は持っていないな。疑ってすまなかった。こちらを向いてくれ」


 もう一度彼らの方を向く。

 少なくとロウガという男性からは少しだけ剣呑な雰囲気が薄れた気がした。


「……ひょっとしたらお前は『神隠し』にあったのかもしれないな」


「神隠し?」


「俺も聞いた事しかないが、そういう現象があるらしい。突然、目の前に霧や黒いモヤが現れ、それに包まれると、それまでとは全く別の場所に居る。それを『神隠し』と呼ぶ」


「なるほど……」


 なんか自分がいた世界の神隠しと同じような感じか。

 自分の場合は黒いモヤや霧ではなく激しい光だったけど。


「お前に敵意が無いなら、俺達は冒険者としてお前を『保護』する義務がある。共にギルドへ向かう事になるが構わないな?」


「……えっとギルドとは?」


「俺たち冒険者を取り仕切っている組合だ。お前のような者の保護も行っている」


 すると傍に居た二人がちょっと不満そうな顔をする。


「え、ちょっと待てよ、ロウガ。今からコイツをギルドに連れて行くのかよ」


「魔物の討伐はー?」


「そんなもの後回しだ。お前らも冒険者ならば人命を優先しろ。それに人命救助もポイントは入る。少なくともこんな森の入口付近で狩れる魔物よりポイントは高いぞ」


「ふっ、しょうがねぇな。人命第一で行こうぜ」


「そうね。命は大切にしなきゃ」


 ……なんだろう。こっちの二人からは物凄い現金な気配がする。とても自分の身を案じての言動には見えない。

 もう一人の女性の方はどうかと視線を向けると、目が合った。

 その瞬間、一瞬だけ自分の指にはめた指輪が光ったような気がした。


「ッ……!」


 ん? なんだろうか? 目が合った瞬間、彼女の表情が変わった。

 というか、ものすごい青ざめて自分を見ている。まるでお化けでも見たかのような表情だ。


「あの、大丈夫ですか? ずいぶんと顔色が悪いような――」


「ひっ……ヒィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」


 彼女は悲鳴を上げると、その場で腰を抜かした。

 その悲鳴に、他の冒険者たちが表情を変える。


「エルム!?」


「エルム、どうしたの?」


「あ、あり得ない……。そ、その人、人間の魔力じゃない……。とんでもない魔力量だわ。……うぁ、うわああああああああああああああああああああ!」


 魔力量? なんのことだろうか?

 彼女は一体なにを言っているのだろう?


「……冗談を言っているようには見えないな。少なくとも俺にはそんな馬鹿げた魔力は感じないが……」


「でもエルムは教会に仕える神官よ? 私達よりも魔力探知については優秀だわ」


「……確かめるか。破魔の護符!」


 先ほどまで温和だった雰囲気の男性は真剣な表情になると、こちらへ何かを投げてきた。

 それは長方形の紙のように見えた。

 ひらひらと薄いはずの紙が、まるで矢のような速度で自分へと向かって来る。

 そしてぴたりと、自分の胸に張りつくと、激しく燃え上がった。


「うわ……うわああああああああああああ! ちょ、なんですか、これは!?」


 あつ――くはないが、ものすごい勢いで自分の体へと燃え広がっている。

 でも不思議なことにこれだけの炎に包まれていながら、自分は全然熱くないし、火傷も折っていない。

 ふと視線を感じて、冒険者のみなさんの方を見れば、信じられないといった表情で自分を見ていた。


「ッ……確定だな。まさか、ここまで周到に魔力を隠せるとは。吸血鬼ヴァンパイア屍族グールの類か?」


「人の言葉も話してたって事は五等級……いや、四等級はあるんじゃないか?」


「はっ! なら丁度いいじゃない! 四等級の魔物の首を持っていけば、昇級間違いなしでしょ!」


「ま、待って下さい! いったい何のことですか?」


 なんだ? この人達はいったい何を言っている? 

 だが彼らの瞳には、先程までとは違い、明確な敵意が宿っているように見えた。

 これ、もしかしなくてもかなりマズイ状況なんじゃないだろうか?

 慌てていると、体をとりまく青い焔が鎮火した。

 同時に、ものすごい速度で剣を持った男性が突っ込んできた。


「――死ね魔物!」


「ちょっ――」


 男の剣が自分の体を斬りつけようとした瞬間、自分の左腕から伸びた何かが、彼の剣を止めた。

 それは――植物の蔓だった。

 ここへ来る前にアセビさんから受け取ったお守りが、長い蔓を伸ばし、男性の剣に絡みついて、その動きを止めていたのだ。


「な、なんだこりゃあ! くそ! 離れねぇ!」


「バルト離れて!」


 今度は女性の声。その声に、即座に反応するように、男性は剣から手を離し、自分から距離を取った。

 その瞬間、目の前に迫って来たのは巨大な炎の塊であった。

 先ほどの青い炎とは違い、こちらからは明確な熱を感じた。

 あ、これヤバ――。


「ソースケ危ない!」


 刹那、ホオズキさんとアセビさんが自分を庇うように立ちはだかる。

 お二人が前方に手をかざすとなにやら不思議な膜が現れ、炎を防いでみせた。 


「い、今のは……?」


 ひょっとして魔法というやつだろうか?

 彼らと暮らしてそこそこ経つが、実際に見るのは初めてである。

 ……殆ど、筋肉でなんとかしてたし。


「ソースケ、大丈夫? 怪我はない?」


「すまん。ギリギリまでは手を出したくは無かったが、それどころではないと判断した!」


「い、いえ……助かりました。ありがとうございます」


 二人が防いでくれなければ、今頃自分は消し炭になっていただろう。

 そう思うと心底ゾッとする。

 冒険者の皆さんの方を見ると、突如現れたホオズキさんとアセビさんに驚愕しているようだ。


「嘘……なによ、あのゴブリン?」


「ホブ……いや、まさかヘルト・ゴブリンか? 三等級以上の魔物が二体なんて冗談じゃねぇぞ!」


「それだけじゃない……大輪狼まで居る。三等級以上の、それも異なる種類の魔物が群れるだと……? それも森のこんな表層で……」


 ヘルト・ゴブリン? それに大輪狼? ひょっとしてタンポポさんたちのことを指しているのか? でもタンポポさんは芝狼という種族じゃなかったっけ?


「ソースケ、立てる?」


「ええ、問題ありません」


 またがるよりも先に、タンポポさんは蔦で自分を背中へと乗せてくれる。


「ソースケを連れて下がるぞ。アセビは奴らを警戒しろ」


「分かったわ」


 呆然とする彼らを尻目に、ホオズキさんたちは即座に撤退を選ぶ。

 彼らに手を出さなかったのは、間違いなく自分に配慮してくれてのことだろう。

 全力で森を駆け抜けると、あっという間に冒険者の皆さんは見えなくなった。


(……いったいなんだったんだ?)


 途中までは友好的に見えたのに、なぜ彼らはあんなにも態度を豹変させたのだろう?

 ともかく、この世界の人々とのファーストコンタクトは最悪の形で終わるのであった。




 あとがき

 今年度の更新はこれで終わりです

 来年もまたよろしくお願いします

 それでは皆様、良いお年を!

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