第15話 冒険者たちの報告


 ――冒険者ギルドに戻った彼らは最果ての森で起きたことをすぐに報告した。


「ヘルト・ゴブリンが二匹に、大輪狼が三体。それに言葉を話す人に化けた魔物、か。にわかには信じがたいな……」


「でも本当なんだよ! 信じてくれ」


「そうよ! この目で見たんだから!」


「……う、うん」


「……カウラン、信じられないかもしれんが、これは本当の事だ」


 彼らの報告を聞いた受付嬢は、すぐにギルドマスターへとこの話を伝えた。

 ギルドマスターのカウランも彼等から直接話を聞いたが、とてもではないが信じたくはない内容だった。


 魔物には等級というものがある。

 上から特級、一等級、二等級、三等級と続き、一番下が六等級だ。

 六等級はクマやイノシシといった危険な野生動物と同程度。冒険者が駆り出されるのは主に五等級以上で、基本的に等級が上がるごとに、魔物の強さ、厄介さは跳ね上がると言っていい。


 一般的な冒険者がソロで討伐できるのは精々五等級まで。

 四等級は必ず複数名で討伐するようにギルドが義務付けている。

 そしてそれ以上になると、もはやパーティーを組んでもどうにもならないといわれている。


 ――三等級以上は別次元。


 そう言われる程に、魔物の強さが跳ね上がるからだ。

 ヘルト・ゴブリン、大輪狼はこの三等級に分類される。

 かつて出現したヘルト・ゴブリン一匹によって一つの町と、四つの村が滅ぼされ、百名以上の犠牲者が出た。

 百年以上前に出現した大輪狼は貪欲な食欲によって、土壌の栄養を吸いつくし、かつて豊穣の大地と言われたとある穀倉地帯を荒れ地に変え、結果として数万人規模の大飢饉が発生した。


 しかもこれはあくまでも『個体』の等級だ。

『群れ』の場合は、その等級は更に跳ね上がる。

 そんな魔物同士が徒党を組んでいるなど、人類にとっては悪夢でしかない。


「ただ群れるだけではなく、ヘルト・ゴブリンらを乗せて去ったという事は、明確に彼らは信頼関係を築いているという事だ。ひょっとすれば彼らを纏めるさらに強大な魔物がいるやもしれん」


「……あの人に化けた魔物がその可能性は?」


「十分に考えられる。お前らの前に現れたのも、確実に何か目的があってのことだろう。ともかくこの件は、ギルドで預かる。お前たちはもう不用意にあの森には向かうな。いいな」


「了解した。お前らもそれでいいな」


「……おう」


「分かったわ」


「……うん。あの、でも……」


「どうした、エルム? なにか気になる事でもあったか?」


 神官エルムはどうしてもあの男性の事が気になっていた。


「あの男の人、確かに凄まじい魔力だった。でも……冷静に思い返してみたら、あの魔力、あの人じゃなくてなんか別のところから発生してたようにも見えた、気もするの……」


 あまりにも強大過ぎて気付かなかったが、よくよく思い返してみれば、あれは本人から発せられた魔力というよりも、あの莫大な魔力の中にあの男性が居た、という表現の方がしっくりくるかもしれない。


「なんだそりゃ? どういうことだよ?」


「分からない。でも、あの魔力が溢れ出すまで、私はあの人が魔物には見えなかった。そもそも正体を隠すつもりなら、あんなあからさまに魔力を出す理由も分かんないし……」


「自分で言い出しておいて何言ってんのよ。それに破魔の護符はちゃんと発動したわ。アイツが魔物なのは間違いないでしょう?」


「……う、うん。いや、でも……」


「ともかく、この件はギルドで預かる。またお前たちには協力して貰うこともあるだろうから、言いたいことがあれば、その時に言ってくれ。ちゃんと、要点を纏めてな」


 エルムはまだ何か言いたい雰囲気だったが、それをギルドマスターが制した。

 確かに考えがまとまっていない状態で何か言っても、混乱を招くだけだ。

 だがどうしても、エルムにはあの男性の事が頭から離れなかった。




 ――それからしばらくして、再びギルドマスターの元を訪れる者が居た。

 その人物の訪問に、ギルドマスターも驚く様子を見せない。


「……誰にも気づかれてないだろうな?」


「当たり前だろう」


 そう言ってその人物――ロウガはもう一度席に着く。

 ふぅと息を吐くと、その顔つきが変わる。


「王都から離れたここなら顔も知られていないと思ったが、大正解だった。おかげで楽に冒険者の再登録が出来た」


「悪いな。わざわざ身分を偽らせて」


「構わない。自分が新人だった頃を思い出したよ」


 ロウガ・ファブリアス。

 ギルドの公式記録では他の三人と同じ銅級冒険者となっている。

 だが実際には、国やギルドマスターの勅命を受けて行動する金級冒険者だ。

 勿論、名前も偽名である。


 冒険者にも魔物と同じランクが存在する。

 一番上から聖金、金、銀、黒銀、銅、鉄の六階級だ。

 その中で金、聖金級に求められるのは 絶対的な強さ。

 具体的には一人で三等級の魔物を仕留められること。

 冒険者としては最高峰と言っていい。

 そんな彼が、身分を偽って行動しているのには当然、理由がある。


「……頼んでいた件はどうなった?」


「……転生信仰会の連中が最果ての森を根城に活動しているのは間違いないだろう。等級は低いが暴走した魔物に何体か出くわした」


「……やはりか。厄介な連中め……」


 彼の本来の任務。

 それはこの国に巣くう巨大な闇組織の調査だ。

 名を転生信仰会という。


「今回の調査で表層の東側はあらかた調べた。今度は西側を調べてみる」


「お前らが出くわした魔物が関わっている可能性はあるか?」


「ないな。三等級以上の魔物を複数使役できるなら、とっくに連中は大きな動きを起こしているはずだ。それは奴らのこれまでの動きからも予想出来る」


「手を組む可能性はあるか?」


「……考えたくはないなが、その可能性もゼロじゃない。いや、連中から接触する可能性は十分に考えられる。遠巻きに監視するべきだろう」


 ロウガの提案に、ギルドマスターは頭を抱える。

 

「……そうしたいのは山々だが、すぐには無理だろうな。金級以上の冒険者は皆、何かしらの任務に就いている。かといって、騎士団に要請しては、連中に動きを悟られる可能性が高い。なんとか人材を派遣してもらうよう、本部に掛け合ってみよう」


「そうしてくれ。流石に俺一人じゃ手が回らん。あの新人たちの御守りもしなきゃいけないからな」


「あの三人、見込みはあるのか? エルムはそこそこ将来性はありそうだが……」


「あるさ。バルトとリッチェも見込みはある。まだまだ経験は足りんが、真っ当に成長すれば確実に銀級までは上がれるだろう」


「……まあ、そちらは今後に期待しよう。はぁー、転生信仰会の連中だけでも手一杯なのに、三等級以上の魔物の発生とか勘弁してほしいな……」


「頑張れよ、ギルドマスター。俺も出来る限るのことはするが、最終的な責任はお前にあるんだからな」


「分かっている。今度こそ必ず奴らの尻尾を掴んで見せるさ」


 ギルドマスターとの話し合いを終えると、ロウガは再び執務室を後にした。



          ●



 それから数時間後、彼らはギルドに併設してある酒場で夕食をしていた。


「はぁー、にしてもついてねぇな。せっかく昇級出来ると思ったのによぉ」


「だよねぇ」


 バルトとリッチェの愚痴にロウガが険しい顔をする。


「馬鹿を言うな。四等級どころか三等級の群れに遭遇して生きて帰れたんだ。案件で言えば二等級以上だ。むしろ自分たちの幸運を誇るべきだぞ」


 三等級以上の魔物は別次元。そう言われる程にレベルが違う。

 そこから生きて帰れるかはもはや運次第と言っていい。そういう意味で言えば、彼らは確実に幸運といえた。


「まあ、確かにあのゴブリンや狼どもはヤバかったな……」


「私、絶対死んだと思ったもん」


「……」


 愚痴る二人を尻目に、エルムはちびちびとエールを飲む。


「エルム、まだあの男の魔物のこと考えてるの?」


「う、うん。やっぱり私にはどうしてもあの人が悪い人には見えなくて……」


「……人語を介する程の知性を持つ魔物は得てして、人間に友好なフリをする。そうやって騙され殺された冒険者は山ほどいるんだ。お前もその一人になりたいのか?」


 ロウガの忠告に、エルムはふるふると首を横に振る。


「で、でもよくよく思い出してみたら、なんか魔力に違和感があったような……。ただ人間に変な魔力が憑りついてるみたいな感じだったかもしれなくて……」


「だとしても、確かめるには危険すぎる。ギルドマスターの言う通り、この件は俺達の手には余る。強制招集でもない限り、俺はもう二度とアイツラには会いたくないな」


「……うん」


 冒険者は命あっての物種だ。それはエルムも理解している。

 ふと、リッチェが何かを思いついたように口を開いた。


「でもさぁ、仮にエルムの言う通り、ソイツが人間だったとすればおかしくない? なんで人間が魔物の言葉を話してんのさ?」


「……確かにあのおっさん、間違いなく魔物の言葉を話してたな」


 ソウスケとゴブリン達が会話している様子は彼らもしっかり見ている。

 だからこそ、彼等はソウスケが魔物であると疑っていないのだ。


「……魔物と話しが出来る人間など聞いたことが無いな……」


「だな」


「人間と魔物のハーフとか?」


 リッチェの考えに、エルムは首を振る。


「人と魔物の間に子供が出来ることはないよ。体も魂も違いすぎるもん。亜人種――エルフやドワーフとなら、人間との間に子供は出来るけど、魔物と人のハーフは無理」


「会話が出来る魔道具マジックアイテムとかは?」


「それこそあり得ないでしょ。魔物と会話が出来る魔法だって開発されてないんだもの。魔法を再現するのが魔道具よ。ないない」


「だよなぁ……」


「だとすれば、やはりあの男は魔物、ということになるな」


 ロウガの結論に、エルム以外の二人はうんうんと頷く。

 エルムも反論できる根拠がない以上、それ以上意見を出すことが出来なかった。

 すると、そんな三人に近づく人影があった。


「ねえねえ、なんか面白そうな話しをてるじゃない。魔物の言葉を話せる人間って本当?」


 その女性は、勝手に彼らのテーブルに着くと、金貨がたっぷりと入った革袋を置いた。


「――その話、詳しく聞かせてよ」


 その女性を見た瞬間、四人は眼を見開いた。

 銀髪の髪に、彫刻としか思えない程の整った容姿。そして、人とは違う尖った耳。

 彼女は、人々の間では『エルフ』と呼ばれる女性だった。





あとがき

ロウガさんは金級冒険者なので滅茶苦茶筋肉があります

そして明けましておめでとうございます

今年もよろしくお願いします

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