第13話 この世界の人間とのファーストコンタクト
前書き
タイトルを変更しました
旧題『『スキル『会話』から始める魔物の国づくり ~「待て!話せばわかる」と言ったら魔物が本当に話を聞いてくれた件~』
ナズナさんによれば、その人間達はこの世界で冒険者と呼ばれる人たちらしい。
以前、ホオズキさんが言ってた、たまにこの森に魔物を狩りに来る人たちなのだろう。
「そんな人たちの前に現れて大丈夫なのですか?」
自分ではなくホオズキさんたちが、である。
「近くまで送る。その後は遠巻きに見ている」
「それなら大丈夫そうですね……」
自分はまだしもここまで面倒を見て貰った彼らに危害が及ぶのは極力避けたい。
まずはナズナさんが見た人間達の近くへと向かう事となった。
メンバーは自分、ホオズキさん、ナズナさん、アセビさんである。
タンポポさんをはじめとした芝狼さんらに騎乗し、さっそく目的地へとゴー。
距離的には、ここから走って一時間程の距離らしい。
今の自分ならば、一時間くらいならばタンポポさんに乗っても大丈夫なくらいには乗馬技術も上達している。
「……ねえ、ソースケは人間に会ったら、もういなくなっちゃうの?」
「え?」
移動している最中に、タンポポさんが話しかけてきた。
「ボク、寂しいよ。せっかくソースケとも息があって来たんだし、もっともっと一緒に走りたいよ」
「……」
急にそういうこというの止めて欲しい。
すでに情が湧きまくってるのに、もっと離れたくなくなってしまう。
「……可能であれば、皆さんの拠点から通う形でこの世界の人々とコンタクトを取りたいと考えています。なので、すぐにお別れということにはなりませんよ」
「ホント? ホントだよね? 嘘だったらヤだよ?」
「本当ですよ。信じて下さい」
心なしか、タンポポさんの蔦の締め付けが強くなった気がした。
片方の手を手綱から離し、タンポポさんのタテガミを撫でる。
タンポポさんは何も言わないが、たぶん嫌がってはいないと思う。その証拠に、自分が片手でも危なくないように速度を抑えてくれているから。
そうしていると、アセビさんが速度を抑えて併走し、話しかけてきた。
「ねえ、ソースケ。これ、もし良かったら持っておいて」
手渡されたそれを、片手でなんとか受け取る。
確認してみると、植物の蔓と何かの種で造られたブレスレットだった。
「これは?」
「お守り。ねえ、付けてみて」
「はぁ……」
言われるままに、左手に装着する。
自分の左手首にしっかりと収まった。サイズはぴったりだ。
「ソースケの為に作ったの。きっと役に立つわ」
「ありがとうございます。大事にしますね」
「うん♪」
そうして話をしながら移動すること一時間、ナズナさんの言っていたポイントへと到着した。
「――居た」
「ッ……」
分かっていてもつい緊張してしまう。
ようやくこの世界の人間と会うことが出来るのだ。
ナズナさんの指差す先。
そこには確かに四人の男女が居た。
男性が二人、女性が二人。
見た目は若い。おそらくまだ十代だろう。剣や杖を持って周囲を警戒している。
あんな刃物を持ってうろついてたら、自分がいた世界なら一発で通報だ。
あれが冒険者。改めてこの世界が異世界だという事を実感。
さて、どうやってコンタクトを取ればいいか……。
普通に出向いて大丈夫だろうか? いや、こんな怪しい男がいきなり茂みから現れれば警戒しないか?
悩んでいると、なにやら彼らの話し声が聞こえてくる。
「――それにしても今日は魔物に遭わないな……」
「そうね。せっかく最果ての森まで来たのに」
「ふぅむ……」
なにやら物騒な会話が聞こえてくる。
「……会わないなら、それに越したことはないんじゃない? わざわざ森の奥まで行かなくても」
「何言ってんだよエルム。こっちは討伐実績が足りなくて、このままじゃ査定に落ちちまうんだ。なんとしてでも魔物を狩って帰らないと」
「で、でも……別に村が襲われたとか被害があるわけじゃないし、異常発生してるって報告もないよ? なら、別に魔物を狩らなくても、薬草や魔石の採取でも――」
「だーかーらっ、それじゃあポイントが足りねえんだって! 採取何十回ってやるより魔物を数匹倒すだけでいいんだからこっちの方が効率が良いに決まってんだろうが!」
「そうよ。私達だってもう冒険者になって二年なんだし、そろそろ銅級は卒業したいわ」
「……俺もバルトとリッチェに賛成だ。この辺りは人里に近い。確かに最近は魔物の被害は報告されていないが、だからといってこれからも起きないとは限らない。魔物の頭数を減らす事は、未来の被害を防ぐことと同じだ。エルム、何かあってからでは遅い」
「ロウガまで……」
四人の冒険者はなにやら方針を巡って話し合っている様子だ。
そして彼らの話が『聞こえた』ということは、少なくともホオズキさんたちと同じように、彼等との『会話』が可能だということだ。
「……ところで、ホオズキさん。魔物ってやっぱり人間を襲うんですか?」
「種族や状況によるとしか言えんな。少なくとも我々の群れは森の恵みだけで充分暮せている。人間を襲う必要はない」
「……状況によっては襲う場合もあると?」
「向こうから襲ってきたら反撃するのは当たり前だ」
「それは確かにその通りですね……」
そりゃそうだ。誰だって死にたくはない。
殺されないために必死に反撃するだろう。
「人間を襲って、食い物を奪った方がいいと考える群れも居た。でも長くは続かなかった。ソイツラは一匹残らず人間に殺された」
「同族がやられて恨まないのですか?」
「先に奪ったのはゴブリンだ。奪われるのも当たり前だ。同族が殺されたとて、恨みなどない」
なんとなく見えたホオズキさんの価値観はきっと野生に生きる者としてとても正しいものなのだろう。人間社会という枠組みに染まった自分には、中々そういう割り切り方は出来ない。
なにより法律がそういった生き方を良しとしていない。あまねく法は人のために在り、彼ら野生に生きる者は、人の都合で生かされているといってもいい。
自分の世界は人を中心に回っていたのだから。
そんなことを考えながら、視線を冒険者たちに移す。
「……少なくとも話をしなければなにも分かりませんね」
「その通りだ」
「ホオズキさんたちはここで待っていて下さい。自分一人で、彼らに接触します」
「大丈夫か?」
「相手も人間です。話せばきっと分かり合えますよ」
そうだ。話をすれば分かり合える。自分はどこかそう楽観視していた。
「では行ってきます」
自分は茂みから出て、彼らが居る方へと向かった。
……一瞬、あの指輪が怪しく輝いていたことに気付かないまま。
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