第4話


すっかり夜になって…… いや、ずっと夜のままだった、時刻的に。


要は午後10時頃。閉店後の店内。


片付けも終わり、ソファ席でくつろいでいたエレーニとバリスタのアントニオに声をかけて共に外に出る。


横断歩道を渡って少しいくと仕立て屋。店主の老人は渋々といった様子で俺や傀儡の服とエレーニの服。その他の従業員用の制服を用意してくれた。


服など作って何をしているのか、とういうな気もする。ふと自分がここQで腰を落ち着かせる気になっているのでは? と疑う気分になった。ではここから出ていくのか? どうやって? また何処かにポータルがある? 記憶はどうするんだ。いや手掛かりだったシンディからはもう話は聞いた。


州都。そこへ行けば…… 何かわかるかもしれない。



明けない夜の街「Q」


北にある山道を超えると「ローワー・プレンティ」夜の明ける幽霊タクシー事件があった街。


「Q東側」は住宅街。さらに東に進むと農場と森があるが黒い霧が壁のように出てきてそれ以上は進めなくなっていた。


黒い霧は水辺の森でも見た。普通の霧よりも濃く、触るのも躊躇するような代物。触れようとした先から霊気が霧散するので通り抜けようなどとしたことも無いし、これからもその予定は無い。


南と西は探索していないのでそこも調べるか。


忙しい日だった。シンディに運転を教えて危険な怪人と出会い。店を早めに閉めて店員たちと料理に舌鼓打ちつつも質問責めにもした。収穫はさして無いまま就寝。



***




ローワー・プレンティ行きの山道出口付近の私有地と書かれた金網の門を開けて砂利道に車で入っていく。進んでいくと大きめの一軒家。


街灯などは無く脇を木々に囲まれた真っ暗な夜の砂利道をヘッドライトで照らしながらゆっくり進むと大きな一軒家。割とモダンなデザインで洒落た外観だが、ホラー映画の舞台にはおあつらえ向きなように感じる程度には、ここに来るまでの道や周囲の景観は薄気味悪かった。


幽霊タクシーの犯人を倒すといくつもの物件がなぜか俺の物扱いになっていて、この家もそのうちの一つだった。いつまでもレストランのオフィスで寝泊まりするのも何なので今日はここに泊まってみる。気に入ったらここを住処としてもいい。


良い点はローワープレンティは日照時間は短いが陽があること。太陽が昇らない場所で生活するのも健康に悪そうだし、家はこっちにあったほうが良い。


ガレージのシャッターを開けて車を入れエンジンを切る。


過去の俺を知るシンディとも会えたし、一気に色々と手に入った。カトーと名乗っていたらしいが、全くピンとこない名前。むしろジョン・スミスの方がしっくりくるのが謎だ。まぁいいか。あだ名を名乗ったのかもしれない。暫くはジョンでいい。


「えーと、これか……」


ポケットから家の鍵を探す、どれがどれだったか。キーホルダーにはじゃらじゃらと馴染みのない鍵の束。何となく当たりをつけて扉に差し込むと普通に間違えた。いくつか試して鍵が開く。


家に入り電気を点け、念のため化け物が入り込んでないか家中を確認していく。リビング、キッチン、ダイニング、書斎、2階の寝室と地下室に、保管室。ワインセラー用の部屋まである。いくつか自分ですら知っているワインがあった。他のものも高級なのだろうか。今度飲んでみるか。


楽な格好に着替え、部屋を間接照明だけに。リビングのソファにドサッと体を投げ出した。目を少し閉じて天井を見ながら微睡む。


後は…

ここに来てから遠くへ行こうとすると黒い霧で進めなくなっている問題。水辺の森で目覚めた時からだ。ここが世界から孤立している可能性について、どこかで考えないようにしていた自分がいた。


この街は物理法則が明らかにおかしい。勝手に車が給油されていたり、レジの現金が増えていたり、この家の電気もどうなっているのか不明。


ポータルを探すしかないか。正直、世界がどうなっているのか気になるし、過去の自分のこともシンディはあまり知らなかった。


彼女が俺と一緒にいたのは短い期間で。世界が終わった日の後に偶然出会ったこと。生き残り同士として俺が呪いを掛けられて離れ離れになってからのその後と、世界が終わる前に俺が何をしていたのかはよく知らないらしい。


微睡みながら思案していると、だんだんと心の中でこの異界のような場所から出てみたいという気持ちが湧き上がって来ていた。


まずはポータル捜索。



***



明朝。


ローワー・プレンティ北側にある自然保護区。


気になったのでポータルがないか見に来た。ゴルフ場と公園がある道から脇道に入っていき大きな駐車場を抜けていくとトレッキングコースがある山。入口から歩いてすぐに川辺があり、向かい岸に向かって吊橋。橋の近くにBBQ用のスペース、近くに子供用の遊具などもあった。


吊橋を渡らずに川辺に降りて行ける、緩やかな坂道があったので降りて行ってみると茶色の川が流れていた。


久しぶりに水辺に来た気がする。

深呼吸してリラックスしたいところだが、周囲から強い霊気を感知。向こう岸の茂みに目をやると俺が目覚めた場所で見た

小鬼のような生き物がワニのフォルムに近い、エイリアンの群れに喰われていた。確認できるだけで6体いる。


大型のワニよりも一回り以上ある巨体で地に這うような姿勢。アルミ色の肌はゴツゴツした部分と滑らかな部分がある。目は無く口の形状や牙は鰐とはやはり違う。それらが一斉にこちらを見た。数匹のワニ型が動き出し、茶色い川に入ると鰐型は姿を見失う。


川の色で見えないだけじゃない、水中で透明になっている。水中でだけ出来るのか?それとも何処ででも?


こちらも隠形を使用。姿を消す。


今までの敵よりも明らかに強さの格が違う生き物に遭遇。霊気の感じですぐに分かる。Qの住民などよりこれは強い。負けるとは思えないものの数が多い。相手はせずにいったん戻ろうかと思案する。


その時携帯に着信がかかってきた。


エレーニ。画面は見えなくとも彼女な気がした。俺の番号は彼女とアントニオにしか教えていない。スマホで電話が使えたから持ち歩き始めたが、タイミングが悪い。


川の水が一斉に大きな音を立てて跳ね、水飛沫を上げた。携帯の音に反応している。


恐らく陸に上がったのが何匹かいるが見えない。此方岸に上がってくるときの水の動きでばれない様に水飛沫を派手に上げてごまかしたのか。その他の個体も姿を消し見事に居場所がわからなくなった。透明になれるだけじゃなく、纏っている霊気も消せるようだ。もしも意図的にやったのなら頭も少しは回る。


スマホがなり続ける、ちょっと傀儡も操作しなきゃならんし今は出れない。


危険が近づいてくるイメージが脳裏に浮かぶ。直感的に近くの木に飛び乗る。先ほどまでいた場所の足元。俺の霊気の余韻のようなものが霧散するような動きを見せた。


足に食らいつこうと近づいて来ていたのか。ベルシモックを跳躍させ木の上に、シャドウが今ベルシモックがいた場所に強化散弾を放つ。手応えあり。そのまま連射。


触手から火炎ブレスを周囲に放射して空気中の霊気の動きを見る。シャドウも敵を感知。俺の目とシャドウの耳、そして感知する影の額のクリスタルで場所を絞り出しながら散弾を放っていく。しっかり炎を喰らうと目を白黒させる様に鰐型の皮膚の色がコロコロと変化した。


火炎ブレスがこの敵には有効かもしれない。


数体ほどそれなりのダメージを与えたとは思うが結構堅い。シャドウの散弾を対物ライフル弾に切り替える。どちらがより有効なのか確認しておきたい。


左手から青白く明滅する霊糸を周囲に張っていく。糸に触れたワニは体が思うように動かなくなりはじめる。対物ライフル弾を放つ、ダメージは申し分ないが強化散弾ももどちらでも良さそうだった。ゴーストを体から分離させ触手槍で頭部を破壊。


俺も木の上からシンディと作った槍を右腕に力をぐっと込めて投擲。ワニ型を一突きに。仕留めた手応えのすぐ後絶命した鰐型の光学迷彩が解ける。


これで5体目…


最後の一体はどこかに潜んでなかなか姿を現さなかった。鰐たちの霊気を吸いつつ索敵するも気配を感じなくなった。どこかへ退散したか。


ベルシモックを木から降りさせて、スマホを確認。やはりエレーニだった。かけなおすが応答しない。彼女から電話をかけてくることはあまりない。戻ったほうがいいかもしれない。


一応連絡先にあったアントニオにかけてみるが応答なし。


「おいおい… 大丈夫かな。」


念のため、Qに戻るか…



黒い4駆に乗り込んで山道を通っている最中だった。上空から耳をつんざくような鳴き声。


傀儡に窓から確認させる。毛のない鳥型のエイリアンが10体ほど空を旋回していた。車のルーフとボンネットに2体ほど体当たりしてきた。

運転させているベルシモックのハンドル操作が一瞬おかしくなる。

車内が大きく揺れた。


このエイリアン…

目覚めたところ、水辺の森で見たことがある。


この街にはエイリアンなどは出ないのかと思っていた…

道中にも鳥型だけではなくて

ヒト型エイリアンなどが出て来てこちらに襲い掛かって来た。

ヒト型はかなり強力だった。何となく対処法が分かっていることから

記憶を失う前の自分はエイリアン的な化け物との戦闘に慣れているのが分かった。

車を停めて迎撃。


全て始末し終えるのにさして時間はかからなかった。

ベルシモックを中心に他の傀儡達が成長した感覚が来た。


Qの街に入るとゴブリンの死骸が数体。

他にもエイリアンの死骸など…

どうやらQの住人達に殺されたみたいだった。

街の中心に近づくほど魔物の死体が多くなっている、住人たちの死体も。


信号機の下

2体のヒト型エイリアンが

あの黒衣の怪人と戦闘していた。


怪人は圧倒的な暴力を見せつける。

ヒト型の弾丸を何発も受けるも、

ものともせずにそのまま直接パワーでヒト型を圧倒。

殴りつけ、持ち上げては地面へ叩きつける。


もう一体のヒト型が怪人の頭部へ弾丸を口から放つ。

頭部に弾を食らっても全く効いていない様子。

そもそも弾丸がめり込んでいない。

僅かに皮膚にめり込んで弾丸は落ちるか跳ね返るかしていた。


目の前のヒト型が絶命するまで馬乗りになり殴りつける。

ヒト型の頭部がアスファルトごとに潰される。

気が済むまでとうに破壊されている頭部を殴りつけると、

ターゲットを残りの一体へと移したように立ち上がる。


浅い傷しかないが怪人の体の傷が治っていく。

ベルシモックみたいに再生するのか…


ソレが体にまとっていた霊気が変化した。

オドロドロしい炎のように。

怪人の戦闘力が飛躍的に増したのがわかった。

そう思った時には一瞬で残りのヒト型との距離をつめて首を片手で締め上げ

怒声を発する。


エイリアンの体が一気に激しく燃え上がりそのまま10秒もせずに消し炭となった。

赤黒い炎が夜の中で

蠢くように怪人の中に吸収された。


こいつ、やはり予想以上に強い。

戦闘が終わるや否や何処かへと去っていった。



店に戻るとエレーニがいた。


「どこ行ってたのよ。 わけわかんない奴らに襲撃されて大変だったんだからね!」

「ここも襲撃されたのか!?」

「この店じゃないわよ、この街。 この店が襲撃されてたらこんなに綺麗なわけないでしょ!」

「だからおどろいて聞き返したところもあるけどね。」

「!……え!? そんなの、わかんないし…」


「いや、いいよ。それより大丈夫だったか?」

「あ、うん… え? なに心配してんの? あたしのこと心配?」

「うん、そうだ。 それと電話してきただろ?  」


「うん、、シンディがいたんだけど、いきなりどっかに駆けて行っちゃって…」


エレーニはおどおどした様子になりだす。


「それで、見つからない?」

うんとエレーニが頷く。

シンディは結構戦えるようだったけど、心配だ。


まとまった数のエイリアンに襲われたりしたら…

一刻も早く探し出さないと。


店の周辺の通りをモンスターを始末しながら、エレーニと共にショートカットのブロンドの女の子がいないか見て回る。


しばらくしてエレーニが物騒なもの(ショットガンとグレネード)をもってやってきた。

どうやら彼女もボスの部下としてシンディを探すらしい。


「それ、どこで手に入れたの?」

「正当な方法に決まってるでしょ!?」


ほら、と言いながら近くにあった鉄パイプを剣に変える。


「武器を生成できるのか。」

「まぁね。複雑なものは難しいけど。このくらいならいけるわ。」



店回りにはあまりエイリアンはいない。

そのまま南のほうへ足を運んでいく。

店から南へいくと住宅街と運動公園がある。

運動公園で何体か鳥型やヒト型エイリアンを倒したときにエレーニの成長を感じた。


==

エレーニ

ヴァンパイア・ウェイトレス LV2 


武器生成 再生 吸血new!

==


「ほらみて! エイリアンの血が美味しいし、傷もみるみる治ってる!」

これでシンディもきっと見つかるわ! と言って笑った。


それはいいんだけど、目の光彩が赤くなっているし犬歯が伸びている

のが気になる。


肌にぽつぽつとしたものが当たった。

雨が降り始めた…

あらかた侵入してきた敵は片付けたはずだが。


肝心のシンディが見つからない。

一体どこにいるんだ?

そもそも何をしに出ていった?

いきなり何処かへ駆けて行った……


倒した鳥型エイリアンを数体傀儡化。

それに上空から偵察させて視界を共有。


車を荷台のある4シーターのピックアップトラックに乗り換えて運転はベルシモックにさせる。

俺とエレーニは後部座席に乗り込み、

荷台にシャドウを配置。


南の住宅街か店の近くの映画館あたりまで鳥型を使いながら車でも回っていく。

ここら辺はエイリアンはもうほとんど見当たらない。

シンディも。

まだあまり行ったことのない東のエリアに行くしかないか…


本格的に土砂降りに。

ワイパーを強にする、街灯も少なく真っ暗闇の道が続く。

視界が悪い。鳥型傀儡の操作も負担に感じる程だった。


大きな交差点を信号無視して曲がり、

東のほうへ真っすぐ進んでいく

農場に囲まれた道で何者かが戦闘している。


まただ…

あの黒コートの怪人とそしてもう一方。

怪人が子供に見える程大きい…


それは巨人だった。


人間ではないヒト型の巨人、エイリアンとも違う。もっと人に近いが。

顔に対して目が酷く大きい。そして身長も5メーターはあるだろうか。

酷く不自然な生き物が

夜の暗闇に覆われた農場エリアにある数少ない街灯の明かりに照らされていた。


両者ともにかなり激しくぶつかり合っていた…

あの不気味な巨人、あの怪人と対等に渡り合っている。

恐らく今まで見た生き物の中で一番強い。


アレがこの襲撃の指揮者のような気がした。

何でだろうか、何の根拠もないがアイツは…

アイツを…


幻視==

アイツと自分が戦っていたような映像が脳裏に浮かんで消えた。


ふいに怪人の言葉が脳裏によぎった。


ー罰ヲアタエナケレバナラナイ…

罰ヲ… 


なぜかしっくりとくる、あの巨人は罰せねばならないような気がした。


体に違和感を感じる、無性に腹が立っている自分に驚く。

はらわたが煮えくり返っているような憤怒。

アイツを…

アイツは、俺が倒す。

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