第3話


店内、奥のテーブル席でシンディに過去の自分の話を聞かせてもらう。ちょっとしたデザートなども用意して記憶はないものの再会を祝った。


翌日の午前中には車の免許を持っていないシンディに運転を教える。店の近くのスーパーの駐車場で運転手を交代して練習。練習ついでに先日見て回った物件が近いのでそこも見ていくことにした。


運転自体はタイプ「野良弟子」というだけあって呑み込みが驚くほど早い。そのまま彼女の運転で地下駐車場に入っていく。


僅かな灯りしかない駐車場奥から、怒鳴り声が聞こえてきた。男が二人言い争っていた。どちらかが胸を突き飛ばしたように見えた。


背の低い筋肉質な50代の男とまだ若い茶髪の男。お互いがナイフと包丁を握っている。だが次の瞬間。若い男がナイフで相手の男の首を何度も刺した。背の低いほう50代の男は首を抑えるがすぐに無言になって膝から崩れ落ちた。地面に倒れこむ。


咄嗟にシンディがやめさせようとクラクションを何度も鳴らす。2人で車から降りる。「ねぇ! 何してるの!」シンディが声を上げると茶髪の若い男がこちらを向いて歩いて来る。


「見てたのか?」

「何を?」


「なんかよぉ、むしゃくしゃしてやっちまった。でも俺は悪くないんだよ」

「そうなのか?」

「そうだよ。仕方なかったんだ」


シンディが一応まだ息があるかおじさんの様子を見ようと言った瞬間若い男は死体に飛びかかってさらにめった刺しにする。


「させねぇ! 死ね! おら! 」


地面を蹴って距離を詰めて真横から茶髪の男を蹴り飛ばす。数メーター吹っ飛んだ男が駐車場の柱に背中をしたたかにぶつけた。口から血を吐き出しながらのっそりと起き上がって来る。


ニヤケ面を浮かべながら。不快感を催す笑みで男がこちらを見てくる。男の目は血走っており、笑みを浮かべながらも怒りの感情をこちらにぶつけてきているのを感じた。


若い男は舌をこちらに突き出し、中指を醜悪な笑みを浮かべながら立てる。


横でシンディが

「こいつ…何かムカつく!」 と言った。


男の顔が歪み始めて顎や頬骨が奇妙な形状に変化していく。体つきも手足が長くなり。腕が特に伸び、手は足首近くにある。


「暴力をふるったな? お前みたいなクズ許せねぇ。この老いぼれも同じだ!ユルセネェヨナァ! 金を使い込んで一度は許してくれたのに、二度目は駄目ナンテサァ。このクズが!」

「それはお前がクズなんじゃないの?」

「人のせい、にしないでくれよ! ゴミなのか?」

「お前が人のせいにしてるんじゃないのか?」

「いや、それはこのおっさんが原因をつくったんだろ。それで殺されるなんて自業自得じゃ……」


意味が解らないという顔でこちらに言い返してくる。


「でもそれはフェアじゃないと思うけど」

「なんで! 俺が公平かどうかなんて気にするんだよ? そんな義務ねぇだろ。シラネー、それこそフェアじゃねぇんだよ!」

「じゃあこのオッサンもお前のことを気にする必要ないだろ? 」

「あー、そういうの良いんすよ。 うるせえことばかり言ってんなお前、もう、コ、殺しちゃっていいですかぁ? ハハッ!」


こちらも戦闘態勢に入ろうとしたとき駐車場地下入り口のほうから黒い塊が飛び込んできた。黒い塊は若い男に体当たりし近くの車に激突する。ぶつかった車のボンネットが大きくひしゃげた。若い男だった化け物は2m以上はある黒いコートを着た化け物の腕に体を貫かれていた。ベルシモックよりも大きい。


それは怒りが溢れ出しているかのように激しく呼吸していた。髪はなく肌の見えるところは顔中焼けただれているか、傷だらけだった。


黒いコートは間違いなく特注品。この異形が規格外の体躯に合わせて作らせたのだろう。怪人は丸太のような右手を男の体内に入れながら激しく男を振りまして車に何度も全身を使って叩きつける。これでもか、これでもかというくらいに。野生動物が狩りをする時でなく同種の生き物と戦闘に入った時のような生々しい殺気を纏った獣性を感じた。この異形は何かに対して極限の怒りを持っているとしか思えないほど。


とっくに動かなくなった獲物に今更気づいたかのように獣じみた攻撃をやめ、こちらを見てきた。


横でシンディが緊張しているのが伝わってきた。自分の後ろに下がらせる。




「…フシュゥゥ フシュゥゥゥ、ナニカ?」

「えーと、なんといえばいいのか正直わからないところだ」

「フシュゥゥ… キニシナイデイイ。生きるべきでないモノを殺しているダケダ」

「生きるべきじゃなかったもの?」

「罰を与えなければならない、フシュユユゥ…」

「罰?」

「誰カが罰を与えなければナラナイんダ。ワカルダロウ? 目ニハ目ヲ、罪ニハ罰ヲ」

「誰に ?何に?」

「こいつは俺にメチャクチャに殺サレルためにツクラレタ」

「何のために?」

「私に裁カセルタメニ。神はそのためにこいつをツクッタ。オレをツクッタ」

「……」


コノヨウニ!!


怪人が怒声を上げ片手で掴んでいた男を持ち上げた。


怪人の腕に貫かれている男の体が一息で発火し激しく燃え盛る。赤黒い炎に包まれた男が嘘みたいに大きな絶叫を上げ、何度も叫び続けた。


まだ生きていたのか。いや、魂か? 体も動いているが霊魂が叫びをあげているように見えた。



「これは? この赤黒い炎は?」

「オマエが知る必要はナシ。ただゴミほど良く燃える」


男だったものが灰になって散って消えた。


「罰されるべきモノドモヲ殺す、俺がセカイのタメに少しは出来ルコト、世界のためのレクイエムだ」

「それは、誰がどう判定するんだ?」


異形の怪人は体を震わせながら


「審判ハ私ダ。」


怪人は肌から蒸気のように熱気を放出しながら立ち去った。



**



店に戻ったときエレーニに先ほどあったことを説明し例の怪人のことを聞いてみた。


「黒衣の怪人、前に店の前でも見かけたよな、エレーニは奴のこと何か知っているか?」

「は? なんであたしがヤツと知り合いなの? アンタさ、職場の近くにいたジャンキーとかを見た時にさ、となりにいた同僚にさ、ここあなたの職場だよね? 知り合い? って聞かれたらどう思う?アタシはこいつマジで頭おかしいんだなって思う」


「……まぁ、そうだな。ちょっと返答に困るかもしれない。そう受け取った場合は。……そうだ、あの怪人相当強そうだったけど、あのくらい戦闘力あるやつはこの街にどのくらいいる?」


「あんたさ、街の住人の強さのリストをなんであたしが持ってると思ってるの? その質問さ、あんたが子供の頃から良くしてたとしてさ。答えられた奴いるわけ?」

「……」

「腕っぷしが強そうなやつを街で見かけてさ、横にいる女の子にアイツと同じくらい戦えそうな奴はこの街ではどのくらいいる?こんなこと聞かれたらどう思う? アタシはこいつマジで頭おかしいんだなって思う」


同時に溜息をついた後。


……強さとかに興味があるの? まぁ、アンタより強い奴は知らないけど…… なんかごめんね?と申し訳なさそうに言われた。





店の奥の廊下からオフィスに入る。


今日は疲れた。俺の強さか……


そういえばエレーニに言われるまであまり疑問に思っていなかった。この夜が明けない街「Q」の住人たちやここで起きることは恐ろしいが俺もまた普通の人間では全くない。襲われても全て返り討ちに出来ている。俺は一体誰だ?



**



仮眠を取って、時刻を確認。もう5時過ぎだ。起きて瞑想する、散歩に行ってもいいが、気が乗らない。夕食をとろうか。といってもこの街は夕食しかない。ブレックファストとランチも始めてもいいかもしれない。それとも山向こうの町に行ったほうがいいか。


弟子兼部下となったシンディに声をかけて一緒にピッツァを食べることにした。

 

店にはピザ窯があってそこでピッツァを焼いてもらう。ディアボロという辛いサラミと唐辛子、紫玉ねぎとロケットやチーズなどが乗ってる。スパイシーなピッツァだ。ディアボラ表記が多いと思うけどこの店はディアボロらしい、何故かは不明。まぁどうでもいい。


この店のディアボロは結構人気のようで。実際美味かった。ロケットとピザに使っいるのとは違う種類のチーズが別の小皿でもらえてロケットにバルサミコ酢やオリーブオイルをかけてそれを好きな量自分のピザに乗せて食べれるようになっている。


ピザと合わせて飲もうかと、店のイタリアワインを物色してあける。


「それなんてワイン?」

エレーニが聞いて来る。


「キャンティだよ。ピザに合うんだって」


キッチンのほうから俺らにもよこせ! という声が聞こえてくる。

 

とりあえず、仕事中なのでと断って、軽くブーイングされたあと。客が居なくなったところでまだ6時だが店を閉める、みんなにワインを出してねぎらいと普段からの仕事ぶりに感謝の言葉をかけさせていただく。


エレーニはふん! というかんじで俺の近くの椅子に座ってイタリアワインを開けて飲みだすとすぐに上機嫌になった。ブーイングされたからと言って店を閉めてまでねぎらうのは相当クレイジーだけど。「楽しまなきゃ損だし!」

だ、そうだ。


店の営業後に従業員たちと色々な話をした。


彼らはここの生まれらしい、ならばとこの街について質問するが話がかみ合わない。支離滅裂な会話にすぐなってしまう。意識もあまり鮮明じゃなさそうだ。一番まともに意思疎通できるのはエレーニとバリスタのアントニオだった。彼は寡黙なので最初気づかなかったがエレーニ並みに会話できる。ピザマンも意思疎通しやすい。


そもそも何を聞きたいんだろう、俺自身は。俺の記憶…知っているわけないか。皆は人間? 俺は? 型とか仙人ってなんだ。


ここにきて自分自身の目的が定まっていないことにまた意識が向く。何がしたいんだろう俺は。というか俺は誰だで

何をしていたんだ?


記憶を失う前の俺は…… 目覚めた時。体が欠損していた… 傀儡達も滅茶苦茶になっていた。

事故に巻き込まれたか、それとも、何かと戦っていた?


一体何と?



==幻視

怪人の言葉 判決を下す 痛みを与える

痛みを受け取る 罰を与える 



何故かあの怪人の言葉がフラッシュバックする。


「罰を与えなケレバナラナイ」


罰を与えなければならないか…


記憶もないから恨みもないけど 与えるか? 罰を与えるか?

誰に? 意味がわからん。

前に戦っていたヤツに?

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