第2話
バリスタにテイクアウトのコーヒーを貰い店の前の車に乗り込む。俺は助手席に乗りシャドウを運転席に。2M超の大男の傀儡ベルシモックは後部座席へ。
何となくではあったが傀儡に運転させるの事に慣れておいた方がいい気がしたからだった。山道に入る前にガソリンスタンドに寄る。スタンドに入ろうとすると青年が入口を行ったり来たりしていて入れない。ジェスチャーで退けと言っても見向きもしない。クラクションを鳴らしても無視。
助手席から降りて退くように言う。
「あの、ここ入りたいからどいてもらっていい?」
「ええ… でもウーバーを待っているから。どけなくて……」
「その理由ならどけるんじゃない?」
青年はくしゃッとした笑みを浮かべ、後ろ手に持ったマチェットを頭の上に振り上げながら近づいてくる。背中から外骨格に覆われた触手槍を出して青年の胴を貫き、車の邪魔にならないところへ投げ飛ばした。シャドウに車を入れさせて給油させる。
まだ息がある青年に近づいていくと、頭が割れ小さな2つの人外の頭部が出来上がる。その一方が唾を吐くように口から何かを飛ばしてきた。避けた後霊気を込めた斧で頭部を破壊。
やはりこいつも人外だったか。
一体何を飛ばしたのか地面をみると人の顔のような親指大のガムのようなものだった。暗いオーラに包まれていたが、次第に霊気が霧散した。呪いのような力が込められていたのかもしれない。呪い系の力はあまり相対したことないんだよな。気をつけなきゃいけないと思った。
給油が終わり店に入ると店員が殺されていた。来た時にはもう息はなかったのだろう。血が乾いている。
店を出るとタイヤの空気を入れるスペースに小太りの中年女性の死体。ライオンのような顔つきの女性。凄まじい形相で絶命している。首に刺し傷。殺されるより、殺す方が似合いそうなほど攻撃的な表情であった。店員もこの女性も刃物でやられていた。
あの青年が犯人とも思えない…… 刺されたような痕。マチェットであの青年が刺したんだろうか。果たしてあのマチェットでこのように刺し殺すだろうか。叩き切るようなそぶりで襲い掛かってきたのを思い出す。この二人の死体にはそのような傷は見られない。犯人はあの若者ではない気がした。
周囲の気配を探る…… 誰も居ないようだった。この狂った町で犯人探しをしていても仕方無い。もうここを出よう。
兎も角給油を終え山の向こうの街「ローワー・プレンティ」に向け出発。今度は2m超の大男の傀儡、ベルシモックに運転させながら思考に耽る。この街で店や、人の所有物を手に入れたのはいいが…… 何をすればいいんだろう?
記憶も己の手掛かりもなく、ただ生き延びる強さだけはあるにはあるが、自然と目的を探してしまう。
目的、未来… 意味…
記憶を失う前の自分…… 手掛かりはほぼない、でも前に進んでいるはず。
山道を抜けるとやはり夜は明けていた。
レストランに入ると死体が無くなっており、見知らぬ客が「アンタの店だろう?」と言ってきた。幽霊タクシーの犯人の店も何故か自分の店扱いになっていた。
用事を終えて「明けない夜の街」の店に戻ると。
「カトォォォォ!」
店の窓際カウンター席のほうから大声を出してこちらを見て来る女の子。156センチ位。ブロンドでショートカット。少しだけ背が低いかわいらしい子だった。
「んー! カトー! 」
窓越しにこちらを見てびっくりしている。パスタがまだ口に残っていそうだけど。カトーって? 何のことだ?
店に入るとエレーニが「アンタ早速まかないもらってたの?」などとショートヘアの子に話しかけていた、バイト志望の子は俺を見て呆然としている様子。
「やぁ、どうも」
声をかけると彼女の目が潤みだした。何か言いかけてから口の中が食べ物があるのに気づいて慌てて飲み込もうとしている。
「食べてからでいいですよ。待ちますので」
「ちょ、っと、待って、ね……」
それにしてもこの街の住人と比べて意識が鮮明そうだな。エレーニと比べても。この子みたいなのもいるのか…
「師匠ぉ!」
食べ物を胃袋に入れた彼女がこちらに小走りで駆け寄ってきて抱き着いて来る。
「え、えーと。師匠? 俺?」
「師匠でしょ? 忘れたの?」
少し背の低い20歳ほどに見える女の子は青い目を潤ませながら言った。
「人違いじゃない?」
アレ? もしかしてこの子。
「え? そんなわけない。カトーでしょ? 覚えてるでしょ? 私のこと」
「えーとごめん、覚えてないんだけど。君はチャーリーだよね?」
「え? シンディだけど……」
まさか記憶を失う前の俺の知り合い? と思っているとエレーニが会話に入ってきた。
「シンディ。この人はカトーじゃないわよ、ジョンていうの。この店のオーナーよ」
「え? カトーはジョンていうの? あとチャーリーって誰?」
「ジョンは変な奴だから気にしないことね」
「……」
「えーと、チャーリーに関しては気にしないでいい。あとカトーっていうのはわからない」
「え? カトーってあだ名だったの? いや苗字? ちょっと待ってなんで忘れちゃったの?」
「ああ、目覚めたら記憶が無かったんだ」
「じゃあ記憶喪失じゃん!」
「ああ、記憶喪失だ」
「え!? じゃあ、やっぱりカトーじゃん!」
「そうかもしれないけど、君が嘘ついてたら?」
「ええ!? 疑われてる!? ショック……」
後ろでエレーニが「アンタ記憶喪失だったの? 道理で… 常識がないはずだわ」などと言っていた。
改めてシンディの話を聞く。
彼女が言うには世界が崩壊? した後アムスという男と俺と彼女の三人。しばらくの間、魔物だらけの都心で生き延びていたとかなんとか。俺とアムスがシンディの師匠で俺の型は「仙人」でアムスは「呪術師」だとか。シンディはタイプ「野良弟子」面白そうな型だなと思った。型って何なんだ? と聞くとシンディは何となくそう思ってるとだけ言った。
「ジョブでもいいけど、職業って感じじゃないし。生計を立ててるわけでも無いから、そっちの方がしっくりくるかなって」
シンディはいろんな話をしてくれた。そして概ね信用して良さそうではあった。あまりにもシンディは俺が出来ることを知りすぎていたからだ。透明になれるとか仙人の術を使うとか、エイリアンを傀儡にするとか。あと宝具を作れるとか、それと槍の扱いをシンディに教えてたみたいだ。へぇ、知らなかった。
槍に、宝具か。救急用の赤い斧を強化出来ないかと考えると、ふと赤い斧槍のイメージが浮かんできた。良いものが作れそうな気がしたし、結果的に満足のいくものが後で実際に出来上がることになった。
彼女にどうやってこの街に来たのかと尋ねると「気が付いたらこの街にいた。人が何だか人じゃないような凄く怖い街」だと言った。
まぁ、同意するよ。ここは怖いところだね。
「この町の人はなんなの?」
「わからない」
「なんで化け物のようになるの? なんで誰も何も疑問に思わないの?」
「わからない」
「どうやってここから出るの? どこまでもこの世界は続いているの?」
―それもわからないんだ。
「ねぇ、いい加減バイトの面接は終わったの? アンタ達ずっとおしゃべりしてるけどさ。」
「ああ、シンディはここの一員になるよ。それでいい?」
シンディを見るとうん! と気合の入った顔をしていた。
「ポジションは?」
「バーテンダー!」
シンディが元気よく言った。
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