ダブルサイココライド2 Double Psycho Collide2

KJ KEELEY

第1話




日はまた昇る。


ずっと明けなかった夜に朝が来た。


夜明けを迎えた商業区画、駐車場を囲むようにして店が立ち並ぶ場所、その一角にあるイタリアンレストランの店内で動く人影が複数。


端正な顔立ちの黒縁眼鏡の坊主の男と他に二つの影。その男と連れだって動いているようだった。それぞれが同じような黒い外套を着ていた。


一方は生気の無い人形のような雰囲気の大男。名はベルシモック。上背はは2mはあり胸板は分厚く腕は丸太の様だった。モジャモジャの髪に髭。目は常に半目かつ虚ろで揺ら揺らと動く。


もう一方は明らかに人間ではない異形の物。名はシャドウ。アルミ色の肌にのっぺらぼうの顔。目鼻は無く、鋭い歯が並ぶ口と小さな耳だけが顔にある。二足歩行で猫背。背中が曲がっているのに頭の位置は地面から凡そ6フット(182cm)

はあった。手はだらんと膝の近くに垂れ下がっていてなんとも言えない不気味さを持っていた。シャドウの方はハットを被っており、どちらも黒いコートを着用している。


この二体以外にも今は黒縁眼鏡の男と同化させている亡霊ゴーストという異形もいる。亡霊は男の背中から生える外骨格に覆われた触手であるが、男から分離してシャドウのようなアルミ色の異形として動く時もある。


店に置いてあった姿見に映る自身と己の傀儡達を見て、ジョン・スミスは改めて異様だなと思った。襟から触手槍を軽く出し鏡の前でゆらゆらと動かし自分でそれを眺める。


今度は己の左手指先を注意深く観察すように見る、と煌めく極細の糸が出ていて途中からは糸が見えなくなっている。ジョンはこの左手で傀儡を操っているのだが意識して操るときもあれば無意識で連動するように、自走するように傀儡が動いている時もある。


改めてジョンは自分の力を不思議に思った。


ふと意識が現在に戻り死体だらけのレストランを片づけ始める。ベルシモックが死体を肩に担いで邪魔にならない場所へどかしていると、朝の散歩の際中らしい老人が通り過ぎていった。老人は全くもってどうでも良さそうな雰囲気。死体をテラス席から動かしている3人に一切の興味が無いらしかった。



ジョン・スミスは老人の背を見送りながら昨日の出来事を思い返す。


幽霊タクシーに付け回されたのは災難だったが、また日の出を拝めることになるとは…… パーキングベイに停車している薄汚れた個人タクシーをチラリと見て深い溜息をついた。


レストランの床にはまだ人形のように死体が倒れていたが、自分自身もこの狂った街の住民同様、そんなことは気にならなかった。


心地いい充足感を感じながらレストランのエスプレッソマシーンを使い自分用にコーヒーを入れる。片付けは適当に切り上げて店外へ。テラス席に傀儡達と座り、夜明けを迎える。地平線は見えないので日の出は拝めなかったが、そんなことは別にいい。


外は多少冷えるがそれもむしろ丁度良かった。寒いのは嫌いじゃない。テラス席でコーヒーを啜り、しばらく何も考えずに空を見ていた、頭のスイッチをオフにして。どのくらいだろうか、随分と長い間そうしていたと思う。


今度こそ車に乗ってここから山道を通って「明けない夜の街」へ戻ろう。と言ってももう夜は明けたようだが。


記憶を失って目覚めた場所「水辺の森」から見つけたポータルを通って「明けない夜の街」に。それからサボテンのような殺人鬼に殺された男の車を使い山道を通ってここ「山向こうの街」で幽霊タクシーの犯人を倒し、謎のエネルギー体ANKHアンクを取り戻した。


ANKHの元々の所有者が俺らしいことも理解したが。それにしても短期間であまりにも色んなことが起こった。


傀儡たちと車に乗り込み発進。山道を通って帰る途中にガードレールに突っ込んだ様子の幽霊タクシーがあった。どちらがオリジナルなのかは知らない。


近くに停車して車両を見に行く。車はフロント部分が酷い有様だったが、運転主席は空だった。ガードレール近くの茂みに運転手の死体。犯人が死んだときに事故ってこいつも放り出されたのだろう。


昨夜は驚かせてくれた。幽霊タクシーの車体に左手と背中から出した自身の体に同化させている傀儡「ゴースト」の外骨格に覆われた触手槍をひっかけて一気に持ち上げて車道の外の崖下に放りこむ。車は回転しながら落ちていった。


一瞬煙草をこの場所で吸っている男のイメージが湧いた。記憶を失う前、吸ってた時期があるのかもしれない。などと過去の己について考えつつ車に戻り出発。


山道をもうすぐ抜けるというところで次第に空が暗くなっていく。空は街につく前にはすっかり夜のように暗くなっていた。


「おかしい、まだ昼にもなってないはずだ」


夜が明けた山向こうの街の幽霊タクシー事件の犯人の死体からくすねた時計は午前9時を指していた。ちょっと待て……


夜は明けたはずじゃなかったのか? まさかさっきの街だけ? 街単位で違うなんてあるのか? おいおい、あの町は元々夜明けが来るとか言うオチじゃないだろうな。


チッ、犯人を殺してANKHが戻ってきた時にちょうど夜明けが来たから勘違いしてしまった。この世界の法則が未だにわからない。


……まったく。


山道を抜けガソリンスタンドを越えて映画館を通り過ぎ交差点付近の自身の所有するレストラン前に駐車。店はきちんと営業していた。あのキツイ感じの美人ウエイトレスのエレーニという娘が出迎えてくれる。


「オーナーに就任して早々どこいってたわけ?」


腰に手を当てて圧をかけるようにウエイトレスが言う。


「すまん、山を越えたところの町で襲われてたんだ。もう対処したけど」

「なら仕方ないわね。怪我は? 大丈夫だった? 殺されなかった?」

「うん、ありがとう。殺されなかったよ、エレーニ」

「なら良かった! オーナーのアンタ、ジョンがいないから変なバイト志望の女の相手をあたしがしてたのよ!?」


「バイト志望の女?」

「頭のオカシな女よ。キャンディだかチャーリーだかそんな感じの名前。ショートカットでブロンドで……」

「へー、そうか。あれ、このカバンその子の?」


テーブル席にピンクの鞄が置かれていたのが目に入った。


「多分ね。なんか突然店の外に出てどっか行っちゃったから捨てておくわね」

「いや、一応戻ってくるかもしれないから保管しておこう」


エレーニは「へぇ、優しいのね? 」


「賭けに負けそうになった瞬間前のオーナーをいきなり殺したような奴だから…… 意外ね。良心があるんだ? あ、優しいから殺したやつを人形にして生き返らせて

仲間友だちになるのね? キモいけど優しいね」


肩をすくめるように言いながら鞄をカウンターの奥の棚に置いた。


「……」


それにしてもバイト志望なんて来るのか。この店これ以上雇う余裕あるのかな? ピンクの鞄ね。突然出てっちゃったってどうしたのだろうか。


まぁ、いい。その辺のことはまた今度エレーニと話してみよう。


「それよりこの街に朝は来たか?」

「は? 朝は必ず来るでしょ?」


バカなのか? とでも言いたげな、呆れたような表情でエレーニが答える。


「今日も?」

「朝なんて来るわけないでしょ? ここの夜が明けたことなんてないんだから」


「ありがとう、ここは任せた。ちょっと山向こうへ行ってくる」

「ローワープレンティっていうのよ、あの町は。いい加減覚えなさいよね」

「そこに朝は来る?」

「知らないわよ、そんなこと。でもこっちが明けない夜の街なの」

「ていう風に認識されているってことは、ローワープレンティには朝は来るのか…… この街の名はなんだっけ?」



Qキューよ。ここは明けない夜の街 Qキュー」 


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2024年12月24日 09:00
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2024年12月29日 10:00

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