第7話 スタンピード
夕暮れの光が鬱蒼としたプルノツ森林を照らしている。
浮遊魔法によって無事到着した私は、上空から周囲の様子を確認していた。
もうすぐ日が完全に落ちてしまう。
まだ
確かイヴ様、アラン様、メルナ様の三人を乗せた馬車は、クラウド様とハンス様を乗せた馬車の後方についていたという話だった。
そのほか、三人の馬車の周囲を警護していた騎士らが十人以上。そして彼らも
助けたい……でも、私にできるのだろうか。
そう考えて、すぐさまかぶりを振った。
ここで弱気になっている場合じゃない。
「……! 見つけた……っ」
馬車が四台。うち二台は荷馬車だろう。
私は高度を保ちつつ、気づかれないように近くまで飛行する。
まだ、異変は起きていない。
(……そもそも
本来大型の魔獣は知恵が働く分、無闇に人の気配がする場所には近寄らない。この広大なプルノツ森林に生息する魔獣も、洞穴などの日陰下を住処にする種類のはず。
当時、ソルディア皇室は調査隊の派遣をシュトラウス王室に提言した。しかし許可が下りるまでに一ヶ月も時間を有し、なんの手がかりも掴めなかったとクラウド様は言っていた。
(もう過ぎてしまったことだと、クラウド様は多くを語らなかったけれど……やっぱり変だわ。普段はこんなにも静かは場所なのに)
嫌な予感が脳裏を過ぎった瞬間、遠くから爆発音が轟いた。
「……え!?」
音のほうへ目を向けて驚愕する。
どういうわけか、森林に囲まれた地面が砂のようにさらさらと崩れ落ち、地下空洞があらわになっていたのだ。
そして、崩れた地面の穴からは、地下空洞を住処にしていたと思われる魔獣が凄まじい勢いで湧き出ている。
先ほどの爆発音がなんだったのか今は確かめようもないが、あれが――
突然外気に晒され住処を追われた大型の魔獣たちは、方向感覚が掴めていない様子で、舗装路の方向に走り続けている。
先頭の馬車は森林を抜けるというところまで来ていたが、後方の馬車はかなり遅れを取っていた。
これでは確実に
「そんな……!」
思わず声が裏返る。
魔獣の暴走で地面の振動が馬に伝わったのか、いつの間にか一台の馬車が舗装された道から大きく進路が外れていたのである。
最悪なことにその馬車は制御を失い、このままでは魔獣の群れに突っ込む勢いだった。
まさか、あれが三人の乗る馬車だろうか。
どちらにせよ今一番危険なのは、あの暴走馬車である。
(どうにかして巻き込まれないようにしないと……!)
私は大きく深呼吸をし、ロッドを握り込む。
「大丈夫、大丈夫、できる……」
そして、体内の魔素を力に変えた。
「催眠魔法式、展開!」
ここに来る前、エラに使っていたのは運がよかった。対象が広範囲とはいえ、展開させる魔法式はまったく同じものだから。
つい先ほど展開させたこともあり、問題なく魔法の発現にも成功した。
暴走した大型魔獣に影響を及ぼすだけの広範囲の魔法。なによりも体内の魔素がごっそりと奪われてしまうので、意識が朦朧としそうになる。
けれど、ここで気を失ったらすべてが水の泡だ。
私は思い切り拳を握り、ひたすら耐え続けた。
次第に催眠にかかった大型魔獣たちは、ばたばたと地面に倒れ始める。
土煙がそこらじゅうに立ち込めるなか、私は急いで暴走馬車に近づいた。
「だめっ、止まらない……!」
御者台に乗り込んで手網を引いてみたけれど、混乱した馬はまったく言うことを聞いてくれない。
大型魔獣の動きを阻止しても、馬車がこのまま倒れた魔獣の中に突っ込んでしまったらそれこそ一貫の終わりだ。
いっそのこと馬車ごと浮かそうとも考えたけれど、広範囲の魔法式を展開したため、帰りの浮遊魔法の魔素を差し引くと、馬車の重量を操るだけの魔素は残っていなかった。
(でも、人の命には代えられないわ)
今は三人を救うことに――と考えていたとき、私は御者台に大人用のローブが掛けられているのを偶然発見した。
「そうだ……!」
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