第16話。ブラッディマリィ(後)

『クリムゾン』

「……ってかぁ?全力ってのを履き違えてるな」


『?????』

互いにぶつかり合う前に何故か凄絶な表情で

笑んだクリムゾン。

それは、勝利の確信の表情であり、

他ならぬ相手への嘲笑だった。

最短詠唱。

代償なんて、知ったこっちゃない。

何故ならば。


『クリムゾン』

「こっちは端からケイトの【再生リザレクション】」

 頼みだってのぉ!いくぞ!

 【惨劇の式場で真っ赤っ赤ぁ!血嫁ブラッディマリィ!】」


『僕』

途端。

ブシャ。

耳元で、嫌な音を聞いた。

ダウトも同じだったようで、音のした

方を、恐る恐る確認した。

僕もダウトも、真っ青になっていたと思う。

そこには、体中から血が噴き出していたカノンが居たからだ。


「カノン!」

焦る僕。

確かに、【新製総入れ替え】で傷は癒せる。

が、詠唱には時間がかかる上、昨日の今日の

カノンの肉体。消費した体力は本人や周りが

思っている以上に激しい。

それに使った体力は傷を癒した所で戻ってこない

逆算すると、詠唱して傷が癒える前にカノンは

失血死する。


『クリムゾン』

「ハッ。とか考えているだろうなあ。

 ところがどっこい。ケイトは体力が尽きる

 前に傷を癒せるのだよ」


「だから……矛先を収めな。

 拙者達もそうする」


『?????』

言うのは、同じく血塗れになったクリムゾン。

最短+同時詠唱での破綻による、完全な自爆。

矛先を収めざるを得ないのは、実はクリムゾン側

だったりした。

が、黒ローブの少年は苦々しい表情で、


『僕』

「わかった」


『?????』

と、自身の唱えた【漆矢でたらめや】を打ち消した。

どうせ、カノンが血塗れになって集束を失って

いたから、全弾不命中に終わって居ただろう。

確認し、更に笑むクリムゾン。こちらも

打ち消しは済んだようだ。


『クリムゾン』

「よし、お互い犠牲は大きいが……

 というか、犠牲は拙者たち白魔導士側だけ

 だがな……」


「もっともっと激しい戦闘描写を望んでいた

 観客どくしゃどもも居ただろうが、

 そうはいかないのだよぉ」


「……拙者達は、カノンだけが目的なのだ」


「拙者の治癒の過程など気にも留めないが、

 カノンの連日連夜の蘇生同然のそれは

 話が違うのだよ」


「カノンは総てが記録されるべき価値がある」


「あらゆる者共を、神への高みへと近づける

 可能性を持っているからな」


「だから、」


「渡せ」


『?????』

そして、真っ赤なカノンへと、同じく深紅の手を

伸ばすクリムゾン。


黒ローブの少年と、ダウトには、

逆転の手段は存在しなかった。


だから、黒ローブの少年は、クリムゾンに

向かって言葉をハツㇱ




やらせるかよバーカ


『僕』

「?!」

僕は、嫌な気配を感じた。

否、

聞いた。それを。

聞くたびにうんざりするその様式の特殊詠唱を。


「【ア゙⌒がレはム゙⌒ぅMs.に】

 (あこがれはむこうみずに。)」


僕の視界は、暗転し、

光が見えた気がして、

開けた。

途端、更にうんざりする。


「またえげつないタイミングで呼び出した

 ものですね」


『?????』

「仕方ないじゃろー?まだお互いのことも

 知らないくせに勝手に序破急も無視して

 展開が進むんだもん」


『僕』

「本音は?」


『?????』

「貴様が諦めるだろうタイミングで邪魔を

 入れたかった」


『僕』

「でしょうね……しかし、早く現世に意識を

 戻して下さい。ここの数十分の一とは言え、

 刻は進んでいる。ですから……………」


『?????』

「逃げられると思うのか」


「責任」


「努力」


「そして他ならぬ結果」


「その報告が必要じゃろう。

 わっちに総てさらけ出せ。」


「じゃろ?黒ローブの少年……、

 否、

 『運命の下僕』」

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