第7話。あつい、すずしい、そして、突沸
『僕』
「枝葉末節な報告。それから時は過ぎた」
昼間。もうすぐ昼食に丁度いい時間帯だ。
今日は柔らかな日差しも心地よく、
人々は朗らかに、そしてのほほんと平和な日常を
噛み締めていた(自覚は無くても)。
僕は?そうだね、日差しがとても……………、
「あっちぃ……」
まあ万年全身を包む黒いローブに身を包んで
いればこうもなるわな。うん。解っている。
でも。これは僕のアイデンティティである。
脱ぐ気は全くない。無いのだが……、
「す、涼しいところに行きたい……」
頭が、火照っていて、そろそろ限界だった。
そもそもこんな時間に外を歩くのが悪いのだが。
理由はあった。
「(…カノンの、「役割」…)」
決して「詠唱破棄」出来る唯一無二の存在で
あっても、それだけでは祭り上げられたりは
しないだろう。
何か、白魔導士の界隈で隠し事がある。
僕はそう推測して、足でカノンやミーを探して
居たのだが。
「そういや、今日も平日だった…」
無念。倒れたまま光の粒になって消えて
しまいたかった。しかし、どうするか。
「……あそこ行くかあ」
僕はそう呟いて、最近向かったカフェへと
足を進めたのだった……。
******
『?????』
カランカラン。
とあるカフェに、来客のベルが鳴る。
『ーーーー』
「いらっしゃい。…おや、この間の黒い子
ですか。お久しぶりです」
『僕』
「どうも。…まさか覚えられてるとは
思いませんでしたが」
『ーーーー』
「例え一見さんでありましても、このカフェ
にとっては大切なお客様の一人です。
忘れないでいるのが精一杯の努力ですよ」
『僕』
「随分と、殊勝なマスターですね」
『ーーーー』
「まさか。ただクソ真面目なだけですよ。
申し遅れました。
以後、お見知り置きを」
『僕』
「こ、こちらこそ。……でも……」
『ドクロウ』
「考えてることは失礼ながら解りますよ。
…名は体を表す、でしょう」
『僕』
僕は慌てて押し黙る。事実その通りだったから。
痩せぎすで今にも倒れそうな風体。
でも僕は慌てて咳払いし、ドクロウに応じる。
「まさか。別のことを考えていましたよ、ええ」
『ドクロウ』
「例えば?」
『僕』
「この店、平日なのにとても繁盛してますね」
『ドクロウ』
「そのとおりですね」
『僕』
「何か、秘策でもあるんですが?
僕、経営者にも興味があって…」
嘘だ。
『ドクロウ』
「そうですね…。強いて言えば妻の存在が
大きいですね。彼女…
はとても助けになるアドバイスが多く、
いづれ産まれてくるであろう子どもも秀才
揃いの大家族に……」
『僕』
「あーやっぱりいいです。僕、彼女居ないんで」
切り上げた。惚気られるのはまだしも、
このままでは残酷描写だけでなく性的描写も
加味しないといけなくなる。
さて、どう誤魔化そう。
と、思っていると、ドクロウの方から話が
再開されていく。
『ドクロウ』
「あの人を、お探しで?」
『僕』
「あの人?」
誰だ。
『ドクロウ』
「夕霧カノン」
『僕』
「!!」
『ドクロウ』
「解りますよ。ええ。明らかに初対面ではない
関係が構築されているにも関わらず、それを
お互いに隠し合おうとしていることなんて」
『僕』
「……」
ぐうの音も出ない。
『ドクロウ』
「それでドクロウは言いたい訳です。少しね。」
『僕』
「言いたい?何を……」
『ドクロウ』
「…悪いことはいいません。夕霧カノンに
関わるのはやめなさい」
『僕』
「…は?」
何を、
『ドクロウ』
「彼女の家族も親戚も居ない事は知ってますが
ドクロウはおかしいと思うのです。
夕霧カノンは名前の変更を二度行っている」
『僕』
「……」
『ドクロウ』
「一度だけなら本人が苦痛だとかと言っていた
とか理由付けが出来ます。ですが、二度目は
どうでしょうか。何者かの干渉を疑います」
『僕』
「……」
『ドクロウ』
「第一、頼れる身寄りも何も無い少女が、
至極真っ当に生きられるはずが無いでしょう
その時点で怪しいと思いなさい。黒い子」
『僕』
「……………」
減らず口が。
「…良いんですよ。構わなくていいです」
『ドクロウ』
「おや?」
『僕』
「僕は、カノンを見捨てるつもりは無い」
「誰に後ろ指刺されようが、僕は僕の為に
カノンの事を知ろうと思う」
「例え、カノンがそれを望まなくても」
「世界が、それを許さなくても」
そこまでいうと、ドクロウは不意にパチパチと
拍手を僕に送った。
「は……?」
何を。
『ドクロウ』
「大したものです。100点満点をあげましょう
そこまでして想われる彼女は、幸せ者ですね」
『僕』
「ば、バカなことを言わないで下さい!
さっき言った通りに、僕は僕の為だけに…」
『ドクロウ』
「良いのですよ、もう。…ああ感動でドクロウ
はむせび泣きますよ。しくしくしく」
『僕』
「涙流れてねえぞ」
『ドクロウ』
「バレました?」
『僕』
「ペロちゃんみたいに舌出してんじゃねえ」
『ドクロウ』
「まあ、そこまで言うのであれば、ドクロウも
それを全力で応援しますよ」
『僕』
「大人しくそれは胸の中に受け取って置きます」
『?????』
それじゃハイサヨナラ、と黒ローブの少年が
続けようとした所を、ドクロウは遮るように
言葉を発した。
『ドクロウ』
「ああ、そういえば昨日の夜、夕霧カノンの
話をしに来たお客様がいましたね」
『僕』
「!?」
『?????』
黒ローブの少年は慌てて足を止め、振り返る。
構わず、ドクロウは話を続ける。
『ドクロウ』
「このカフェは夜は妻の合流と同時にバーへと
変わります。ソフトドリンクやノンアルも
揃えて居ますので、成人したらご贔屓に」
「それはそれとして、お客様のことですね」
「とても小さな、しかしとても渋い声の少年
と、不釣り合いな背も胸…背が大きい女性
の二人組でしたね」
「話している内容は、無粋なので普段は聞かず
に流しているのですが、その言葉には
耳を疑ったのはよく覚えてますよ」
『?????』
そして、ドクロウは黒ローブの少年に告げる。
真っ直ぐに、真剣な眼をして、力強い雰囲気を
もってして。
『ドクロウ』
「…「明日の夜、「えいしょうはき」の「実験」
を行おう。何、三連勤になったとしても
構わない。どうせ特別だろうが何だろうが
単なる少女で在る事には変わりないんだから」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます