第5話。ぶっこわされなければ、へいきだから
『?????』
黒ローブの少年とダウトが「方針変更」を
行って、暫くの時が経った。
某所。
ミーは傷だらけのカノンを抱えて深部のドアを
ノックする。
『ーーー』
「入れ」
『?????』
ミーはその渋い声を聞いてから、ドアを開けた。
その先には、渋い声には似合わない、ちょこんと
したとても小さな少年がいた。
少年に、ミーはとても冷淡な声で話し始める。
『ミー』
「報告です。黒魔導士の作戦は、半分成功。
カノンの状態は、ご覧の通りに無様な様相
であります」
『ーーー』
「そうか」
『ミー』
「カノンはこのままであれば、生命活動を停止
することでしょう。…正直、やられました。
…「あの男」、あそこまでの代償を支払って迄
事を成そうとするとは…」
『ーーー』
「そうか」
『ミー』
「つきましては、
【
『ーーー』
「そうか……………で、終わるとでも?オイ」
『?????』
ミーはその言葉に身構えるが、遅い。
少年は、詠唱した。
『ーーー』
「【計りかねる凶兆よ。私はそれを許さない。
決して決して、許さない。
『?????』
と、
ギュン。
ミーの身体は少年の元へ一気に引き寄せられる。
その際に、抱えたカノンを落としてしまったが、
それどころではなかった。
とても厳しい形相をした少年から、その容姿から
想像もできないくらいの力で首を締め付けられた
からだ。
『ミー』
「ぐっ、がっ、ハ……」
『ーーー』
「なあ、苦しい状態でも話せるよなあオイ。
…私の名前を言ってくれないか?」
『ミー』
「ぐっ、は、い…!け、け、
『ケイト』
「よろしい。で?カノンがこの状態になるまで
お前、何してた訳?オイ」
『ミー』
「そ、そ、それは…」
『ケイト』
「いいよもう。話さなくて。苦しめ。
判るよ。見なくても。予想はつくさ。
……………お前、ただ見ていたな」
『?????』
ミーはその言葉に慄然とする。
事実、そのとおりだったからだ。
黒ローブの少年に話した事は嘘八百。
【
掴むことが困難だったのだ。
そして、少年……ケイトは、更にミーの首に
かける力を強める。
『ミー』
「ぐあ……………ッッ」
『ケイト』
「ああ、苦しいだろうなあ。だがもっと苦しめ
カノンも無抵抗の状態でそれ以上の重傷なんだ
からな」
『?????』
その言葉に、ミーはぐうの音も出ない。
だが、このままでは、自分の生命が危ない。
詠唱も、声をもう出せない状況だ。
走馬灯が、見え始めていた。
と、ケイトは飄々とした様子で言葉を繋ぐ。
『ケイト』
「あーそうそう気にすることないぞ生命の危険
なんて。カノンとだいたい同じ同じ」
『?????』
そして、冷酷に、それでも最高の笑顔でミーに
残酷な言葉を告げる。
『ケイト』
「あたまぶっこわされなければ、へいきだから」
『ミー』
「……っっ!」
『?????』
ミーは、泣いた。号泣した。
…「助けてください」。
そう告げるように。
『ケイト』
「助けるか馬鹿。カノンと同じく、苦しめ」
『?????』
と、
ピリリリリ……………。
おおよそ現代的でない電子音が部屋に響き渡る。
その音にケイトはミーにかけていた力を解いた。
『ミー』
「……………ッッ!、がは、ゴホッゴホッ!!」
『ケイト』
「……………、チッ、お楽しみのところを」
『?????』
ケイトはそう言うと、音源の胸ポケットから
携帯を取り出した。その画面を一瞥して……、
ピッ。
通話に応じずに、切った。
そしてニヤリと笑ってミーに告げる。
『ケイト』
「喜べよ、【
さあ、早くしな。来客があるからな!」
******
『?????』
時はかなり経ち、日付も変わっていた。
場所は、カノンの寝室。
その中に、ぐっすりとベッドで眠っている
カノンと、しょぼんとした顔で体育座り
しているミーがいた。
ミーは独り言を紡いでいく。
『ミー』
「ねえ、カノン」
「アタシ達って何なんだろうね」
「捨て駒ならさっさとそう言って欲しいな」
「でも、現実はそうじゃない」
「ほぼ毎日、上司の言いつけで、人知れずに
世界を救っている」
「……実際は、「そんなつもり」なだけ」
「アタシ達は、
せいぜい、不可視の
「見えないところで人々を救っていることで、
アタシ達は何を思えば良いんだろうね…」
『?????』
…ミーがそこまで言い終えると、ゴソゴソと
何かが動く音と、「うーん」と唸る声がした。
カノンだ。
『ミー』
「……………っっ!」
『?????』
ミーはその様子に気づき、カノンを揺さぶる。
そして慌てながら声をかけていく。
『ミー』
「カノ…かの!だいじょうぶ?体はへいき!?」
『カノン』
「んぅ…。……ミー?」
『ミー』
「そうだよ!アタシだよ!それよりかのは
心配ない!?アタシ、ずっとめざめないから
心配で……………」
『カノン』
「え?」
『ミー』
「え?」
『カノン』
「何の話をしているの、ミー?」
『?????』
そうだ、と、ミーはハッとする。
美依は、ただのカノンの友人。
そう。
ただの、他人。
『ミー』
「あ……、…、…んーん。何でもなかったよ。
二人でパジャマパーティしようとおもったら
かのが、キュウ、って寝ちゃったから。
睡眠時間アタシより長いのにしょうがないな
とおもってねー」
『カノン』
「あ、そうだったの!?ゴメンなの!実は
カノンは徹夜してたの!限界きてたんだね」
『ミー』
「いーよー、そのくらい。それより、無理
しちゃダメーだよー。アタシ達は、いち学生
なんだから」
『カノン』
「だねー。うん、今日は早く寝る。そうする」
『ミー』
「だねー。それがいいよ。なら……………」
『カノン』
「その前に!」
『?????』
ミーはカノンの反応に首を傾げる。
…その首は万力に締め付けられたせいで、
とても痛んでいた。少ししか曲がらない。
その様子に気づく事なくカノンは明るく言った。
『カノン』
「30分でいいから、パジャマパーティやろ?
ポテチとコーラ準備してさ。せっかく計画
したんだから、楽しまないと損、だよ」
『ミー』
「……っ!」
『?????』
ミーはその純粋無垢な言葉に泣きそうになる。
実際は、黒魔導士との戦いで、あの世に送られ
そうになったというのに。
本人も、その事は分かっているのに。
ただ、傍に居た友人を巻き込みたくない。
その想いだけで動いていた。
ミーは、カノンを抱きしめていた。
『カノン』
「ミー…?」
『ミー』
「ねえ、アタシ達は友だちだよね」
『カノン』
「うん」
『ミー』
「ずっとずっと、友だちだよね」
『カノン』
「うん…」
『ミー』
「約束だよ、かの。ずっと、いっしょだよ?」
『カノン』
「うん…?」
『?????』
その言葉に、更に泣きそうになるミー。
代わりにカノンを抱く手の力を強め、自分の感情
を誤魔化していたのだった…。
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