第3話。まねかれざるもの(くるな)
『僕』
…って、何をやっているんだ僕は。
さっさと茶番を始めなくては。
『カノン』
「(ねえ、早く。カノンじゃすぐお察しされて
アウトなの)」
『僕』
「(何となくそれは掴んでるよ!えーと…)
あ、ああ。ぼちぼち?初対面だし、お見合い
状態になるのもしょうがないだろう?」
『ミー』
「ほー」
『僕』
「それに、仮にも異性同士。なかなか共通の
話題がなくてね。なかなか雰囲気作るのに
苦労してる」
『ミー』
「ほうほう」
『僕』
「でも、良いんじゃないの?漸進でもいいから
カノンと仲を深めたいしさ」
『ミー』
「…かのを名前呼びできる仲なのに?」
『僕』
う。しまった。墓穴。
しかし、ミーはあくまで朗らかに言った。
『ミー』
「ま、いいか。おふたりさんが良好みたいで
いいものだなー」
『僕』
「だ、だろう。では……………」
『?????』
またの機会に、ハイ、サヨナラ。と言おうとした
黒ローブの少年を遮るようにミーは明るく言う。
『ミー』
「では、特製メニューのじかんかな!
…マスター。例のブツを」
『ーーーー』
「はい。只今」
『?????』
ミーの言葉にあくまで仕事然として返すマスター
が何かを持ってきた。
それに、黒ローブの少年とカノンは愕然とする。
『僕』
「な、なあこれって…」
『ミー』
「いーでしょー?これでふたりのなかはより
深まるばかりだー」
『?????』
出てきたのは、見かけは普通の昔ながらの
クリームソーダ。付随物が問題だった。
それは、距離が近すぎる二本のストロー。
『僕』
「カップル専用メニューじゃねえか!」
僕は我慢出来なくなって叫んでいた。
その反応にミーはきょとんとして返す。
『ミー』
「え、ヤだった?てっきり仲を深めるには
最適かなあって」
『僕』
「仲、一気に縮めすぎだわ!」
『ミー』
「えー」
『僕』
「えー、じゃないわ!」
『ミー』
「でも、もう頼んじゃったわけだし。ほらほら、
どうぞどうぞ」
『?????』
そんな言葉に、黒ローブの少年はぐぬぬ、と
歯ぎしりする。
だがしかし。
秘策は持っていた。
『僕』
「ふん。それなら「先」にやる事があるだろ?」
『ミー』
「?、「先」、??」
『僕』
「そう。先にカノンとキミからやってどうぞ。
親友ならできるだろう?」
『ミー』
「えーやだ~」
『僕』
「なんだとう!?」
『ミー』
「いくら仲がいいっていっても、限度あり、
だよ。ほっぺたくっつけ合うのは、ちょっと
ちがうかなあ」
『?????』
かかった。黒ローブの少年は内心ほくそ笑む。
形勢を逆転させる時だ。
『僕』
「だろう?まだ僕達も限度あり、だ。異性同士
なら特に、ね」
『ミー』
「む」
『僕』
「それに、僕も嫌われるのは怖いな。
カノンもそう思うだろう?」
『カノン』
「(無言でコクコクと首肯する)」
『僕』
「な?ちょっとこのメニューは勿体ないけど
取り下げて貰って……………」
『ーーー』
「よう、なんか騒がしいから来てやったぜ」
『僕』
「え?……げ」
『?????』
黒ローブの少年が振り返った先には、何故か
ダウトの姿があった。
あくまで飄々とした感じでダウトは話し出す。
『ダウト』
「どうも、初めまして。青少年には改めまして。
オレは青少年の上司、
どうぞお見知り置きを、お若きレディ達」
『僕』
「(……優雅にお辞儀してんじゃねえよ)」
僕はダウトの様子に聞こえるかどうかギリギリの
歯ぎしりをしながら邪悪な眼差しを向けた。
そんな僕には構わずダウトは言葉を続けていく。
『ダウト』
「さてお困りのご様子で?恥ずかしがり屋の
集まりのようで。ふーんふーんキョーミ有る
トラブルのようだねえホント」
『僕』
「ホントに何をしに来たんですかダウト…さん」
『ダウト』
「いい加減スマートに他人の名前呼べ。
ともかく。そのトラブルに解決策は浮かばず
皆様方は大変まごまごしている、と」
『僕』
「…まあその通りですよ。第三者から見たら。
それで、本当に何をしに……………」
『ダウト』
「見本が必要なようだなあ」
『僕』
「…は?」
僕は思わず素で渋面して返していた。
ダウトは構わない。
『ダウト』
「オレもトラブルを解決してあげたいと思う。
だけど三人の中に進んでやりたがる奴は
居ない」
「なら。やりたがる奴を増やせば良い」
「増やすのは誰?オレ。」
「理由?面白いから。」
『僕』
「(…ただ場を荒らしに来ただけじゃないか!)」
僕は参っていた。どうせ人柱は同性で部下の僕
だろう。というか、選択肢はそれしかない。
「(……覚悟決めてやるかー……)」
「(まだ、切り札はある。事が済んだらカノンの
番になる前に「ダウトさん、仕事の時間が…」
って困らせればいい)」
「(僕とやるだけで満足して帰ると思うし)」
我慢を決め込む事に決めた。
「それじゃ、手本はダウトさんと……………」
と、
『ミー』
「あ、あのっ!あのあのっ!」
『僕』
…あ?
『ミー』
「あ、アタシも何だかやりたくなってきたかも、
っていうか…。…かの、やりたがらない
みたいにいってゴメンなの。でも、もう
だいじょうぶ。アタシ、覚悟きめたから」
『僕』『カノン』
「…え?」
『?????』
黒ローブの少年とカノンがきょとんとしてミーを
見ると、その眼はキラキラと輝き、瞳の奥には
ハートマークが浮かんでいた。
『僕』『カノン』
「……ええ??」
『僕』
僕はカノンに視線を向ける。商談再開。
『カノン』
「(え、ちょっとちょっとこれってまさか)」
『僕』
「(ひょっとしなくてもマジだろうな、これ)」
『カノン』
「(一目惚れ…?)」
『僕』
「(だよなあ。止められないだろうなあ)」
『カノン』
「(他人事ダメー。カノン達も不可避になるの)」
『僕』
「(でもどうしようも…)」
と、状況は時を待ってくれない。
『ダウト』
「…ふ~ん?いいのん?こんな初対面の異性に
くっつけ合うなんて選択肢増えても」
『ミー』
「い、いえっ、だいじょうぶですっ!
というか、初対面のうちから色々済ませてた
方が都合がいいというか…」
『僕』
おい、こいつ意外と本能に忠実でそれを隠す
つもりがないぞ。
…ん?何だか既視感。
あ。
今ダウトが愛読している成年向けの書籍の
ヒロインの行動とパターンが似ている。
嫌な予感がした。
『ダウト』
「…へえ」
『僕』
「あ、あの、ダウトさん…?」
『ダウト』
「…くけけ。」
『僕』
「(あ、終わった)」
やる気満々になった。
その後?ちょっと思い出すのが嫌だな。
ミーがいきなり二本ストロー咥えて間接キス
決め込んだのに皆あんぐりとしたのは記憶に
新しいけど、それは、まあ。
カノンも僕も顔の色がタコみたいになったので
察して欲しい。
******
『僕』
「枝葉末節な報告。事が済んで夕方」
『ダウト』
「独り言…大丈夫か?医者行くか?」
『僕』
「ダウトさんよりは酷くありません」
『ダウト』
「血で染まった紅葉おろしにするぞ」
『僕』
「はい言い過ぎました…。でも、本当に今日
みたいな行動は控えて下さい。肝が冷えます」
『ダウト』
「ハハッ、面白かったからそれでいいじゃない
のよ!日常には刺激も必要だぜ?」
『?????』
と、
ダウトはふと深く息を吸い込んで言った。
『ダウト』
「非日常の傍に立つ人間としてはな」
『?????』
そして話し出す。
『ダウト』
「悪役は極悪非道なだけではただ残酷なだけだ」
「場に弱くなったと言われようがなんだろうが
人間的な部分を持たなくては、一々新しい
キャラに首をすげ替えられるだけ」
「首を替えるだけで済むなら政治もあんな
泥沼化しないだろう」
「だから何だって?」
「とても人間的な
には、オレ達もちゃんと人間然としなくては
ならねえんだ」
「反吐が出るがな」
『僕』
「…その割には、とても楽しそうでしたが
JKの生肌しっかり堪能してたようでしたし」
『ダウト』
「やかましいわ。誰が彼女いない歴イコール
年齢じゃい」
『僕』
「自爆しなくても」
『ダウト』
「だ、ま、れ」
『僕』
「はい」
『ダウト』
「連日で悪いが」
『?????』
ふと、ダウトの口調が事務的なそれに変わった。
『ダウト』
「カノンの襲撃を頼む。時間帯はいつでも
構わない。手段も選ばなくて良い」
「今日びは仲良しこよししていたが、それは
任務には全く関係ない」
「あの、ミーとか言っていた少女にしても」
「無関係だ、そう思え」
「あくまでオレ達は
「それ以上でもそれ以下でも、未満でもない」
「役に、「成り切れ」、青少年」
『僕』
「…はい。ダウトさん」
『?????』
散開。
******
『僕』
「……………」
暫くして、僕は、ふらりふらりと歩いていたら、
また行き遭った。
カノンに。
今のカノンは、僕に背を向けているけれど。
何を見ているのかって?
カノンの、任務。
人助け。
『カノン』
「……………」
『僕』
カノンは一言も発せず、ただ僕のように直立不動
で、助けたひとを見守っていた。
否、
正確に言えば、魔術を使って間接的に助けた人を
、だけれど。
黒魔導士が暗躍する理由はもちろん影で蠢く
存在がいる事を「暗に」世間に示すため。
戦隊ヒーローみたいに派手に存在を示したい訳
ではない。
…白魔導士にしても、そうだ。
…「人は人同士で支え合うから、人なんだ」
とは誰が言ったろうか。もううろ覚えだけど。
何が言いたいか。
魔術さえ使ってもらえれば自分の立場が
どうなっても構わないなんて思って欲しくない。
日常は日常のまま、人同士で支え合うのは
変えずに、人知れず請われない人助けを続ける。
それが、白魔導士。
『カノン』
「……………」
『僕』
「……………」
『カノン』
「……うぇ、」
『僕』
泣くなよ。幾ら寂しくても。
そんなカノンに、僕は近寄っていく。
感傷なんて、まるで興味がない。
「やあ」
僕の言葉に、カノンは一瞬だけ驚き、その後
両目を擦ってこちらを振り向いた。
そして応える。
『カノン』
「や。また、なの?」
『僕』
「ああ。また、夜に。その方がそっちも都合が
いいだろう?僕もなんだけどさ」
『カノン』
「そだね。…ねえ」
『僕』
「?」
『カノン』
「今日みたいに平和に生きられたら良かっ……」
『僕』
「五月蝿い」
僕は渋面して唸る。
「何回目だよそれ。僕達は仲間なんかじゃない。
お互いに敵同士。コロシアイをやり合う仲。
思い出を回想して、のほほんとしている
一般人とは違うわけ!…さっきまでのことは
忘れて、夜、また会おう」
『カノン』
「…、……、うん。分かった…」
『僕』
目に見えてカノンがしょんぼりしたのがはっきり
分かったが僕はそれには構わず背を向けて
歩き出した。
…全く。
感傷なんて、まるで興味がない。
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