第12章:新しい道

 告白


 配信活動も一段落し、穏やかな日々が戻ってきた頃、るるち―甘坂るるは、ふと晴人に感謝を伝えたいと思うようになった。冷たい冬風がまだ頬をかすめる一方で、道端にはふきのとうが芽吹き始め、少しずつ春の兆しが感じられる季節だった。二人はマンション近くのカフェに入った。

「霧島さん、いつも私のことを助けてくれて、本当にありがとう。」

 るるちは小さな笑顔を浮かべながら言った。その日は淡いクリーム色のニットとデニム、そしてふわりとしたスカーフを首元に巻いており、どこか柔らかい雰囲気を漂わせていた。

 晴人は照れくさそうに頭を掻きながら、カフェオレの湯気越しに彼女を見つめた。

「そんな、大したことしてないですよ。でも、甘坂さんが頑張ってる姿を見て、俺も救われてるんです。」

「そうかな……。でも霧島さんにはすごく感謝してます。こうやって、誰かが隣にいるのって、こんなに心強いんだって初めて思いました。」

 晴人はその言葉に少し驚いたが、ゆっくりと微笑んだ。

「甘坂さんが笑っていてくれるなら、それが俺の一番の力になります。」

 カフェの窓越しに見える木々は、まだ冬の寒さを残しながらも、枝先にはほんのりと膨らみ始めた芽が見え始めていた。その中で二人の会話は、穏やかな春のように温かさを増していった。


 繋がり


 るるちは次の配信企画を考えながら、最近の自分が少し変わってきたことに気づいていた。

「私、配信以外でも、もっとやりたいことがあるのかもしれない。」

 ある日、配信中に視聴者からこんなコメントが流れた。

「るるち、もし配信じゃなかったら何をしたい?」

 その質問に、るるちは少し考えてから答えた。

「んー、そうだな……。実は、昔は子ども向けの絵本を作るのが夢だったんだ。」

 コメント欄はその答えに驚きつつも応援の言葉で溢れた。

「絵本!?それはいいね!」

「絶対読むよ!」

「配信をきっかけに、そんな夢を叶えられる日が来るといいなって思ってます!」

 その言葉に、晴人は画面越しに驚きつつも微笑んだ。

「彼女、本当にいろんな可能性を持ってるな……。」


 二人で叶える夢


 ある夜、るるちは晴人に連絡をした。

「霧島さん、ちょっと相談があるんですけど……。」

「もちろん、どうしました?」

「私、配信活動をしながら、絵本を作ってみたいなって思うんです。でも、どうやって形にしたらいいのか分からなくて……。」

 晴人は少し考えてから答えた。

「それなら、俺が少しお手伝いできるかもしれません。絵本のストーリー作りとか、イラストのレイアウトとか、一緒に考えましょう。」

「えっ、本当に!?霧島さん、ありがとう!」

 その言葉に、るるちは目を輝かせた。

「絶対素敵な絵本にしましょうね!」


 新しい夢へ


 二人で進める絵本制作は、単なる作業以上のものだった。晴人はるるちの考えを尊重しながら、自分なりのアイデアを出していった。

「ここ、こういうストーリー展開にしたらどうですか?」

「それいいですね!でも、もう少し子どもが共感できる言葉に変えた方がいいかも。」

 二人のやり取りは次第にスムーズになり、互いの距離もさらに縮まっていった。そんな中、るるちはふと晴人に言った。

「霧島さん、私、この絵本が完成したら……きっともっと前に進める気がします。」

「俺も、甘坂さんがそんな夢を持てることを誇りに思いますよ。」

 彼女の目には、迷いのない輝きが宿っていた。


 大きな一歩


 数週間後、ついに絵本の試作品が完成した。二人で作り上げたその作品は、温かくて心に響く物語だった。

「霧島さん、本当にありがとう。これが完成したのも、霧島さんのおかげです。」

「いや、俺こそ感謝してます。甘坂さんと一緒に何かを作るのは、とても楽しかったです。」

 るるちは絵本を手に取りながら、小さく呟いた。

「これが私の本当の新しいスタートかもしれない。」

 晴人はその言葉に静かに頷いた。

「きっと、たくさんの人に届きますよ。この絵本も、甘坂さんの想いも。」

 二人は新たな夢を胸に、未来へと進み始めた。その背後には、暖かな日差しが差し込み、遠くにはほんのり桜のつぼみが膨らみ始める木々が見えた。冬の終わりを告げる風は、どこか柔らかさを含み、新しい季節の訪れを静かに告げていた。

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