第9章:揺れる想いと試練

 配信の距離感


 再スタートを切ったるるちの配信活動は順調に進んでいた。しかし、視聴者数の増加とともに、新しい悩みも生まれ始めていた。

 初冬の冷たい風が窓を叩き、木枯らしが道端に残る落ち葉を舞い上げていく季節。配信を終えたるるちは椅子に深く座り込み、金髪のツインテールを軽く整えながら、窓の外をぼんやりと見つめていた。

「距離感って難しいな……。」

 視聴者との距離を保とうとする一方で、親しみやすさを求める声も多く、どの程度の交流が適切なのか悩んでいたのだ。ある日、配信中にこんなコメントを見つけた。

「もっとプライベートな話が聞きたい!」

 るるちは一瞬戸惑った表情を浮かべたが、柔らかい笑顔を作りながら答えた。

「そうですね……私、プライベートなことはあまり話さないようにしてるんです。でも、みんなと楽しい時間を共有するのが一番だと思ってるので、これからもよろしくお願いします!」

 その言葉に、多くの応援コメントが流れる中、一部からは冷たい反応も見られた。るるちは配信を続けながらも、内心では複雑な思いを抱えていた。


 キリシマンの励まし


 配信終了後、るるちはコメント欄で「キリシマン」からのメッセージを見つけた。

「今のままで十分素敵だし楽しいですよ。無理に変わる必要なんてありません。」

 その優しい言葉に、るるちは少しだけ肩の力が抜けた。

「ありがとう、キリシマンさん……。」

 彼女は小さくつぶやきながら、その言葉を胸に刻んだ。


 晴人の職場での試練


 一方、晴人は新しい職場での責任が増え始めていた。温かいコーヒーを手にしながら、デスクの前で資料に目を通す彼の顔には緊張が漂っていた。上司から新しいプロジェクトのリーダーを任された彼は、期待に応えようと必死に努力していた。

「霧島さん、この資料の件、確認お願いできますか?」

 同僚の声に、晴人は笑顔で応えた。

「分かりました。すぐに確認します。」

 しかし、その裏で彼はプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。

「俺にリーダーなんて務まるのか……。」

 そんな時、ふと頭をよぎるのはるるちの笑顔だった。

「彼女だって、たくさんの視聴者の前で自分を保ちながら頑張ってる。俺も負けられないな。」

 その思いが彼を支えていた。


 二人の交流


 ある夜、るるちから晴人にメッセージが届いた。

「霧島さん、少し話せますか?」

「もちろん、大丈夫です。」

 二人はメッセージアプリで近況を語り合った。

「最近、視聴者との距離感に悩むことがあって……。みんなの期待に応えたいけど、全部には応えられなくて。」

「それでいいと思いますよ。甘坂さんが自分らしくいられる範囲でやれば、それが一番です。」

「ありがとうございます。霧島さんの言葉、いつも力になります。」

 晴人もまた、自分の悩みを打ち明けた。

「実は俺も、今プロジェクトのリーダーを任されてて……。正直、プレッシャーがすごいです。」

「でも、霧島さんなら絶対大丈夫です!今までの努力がちゃんと結果に繋がりますよ。」

 二人は互いに励まし合いながら、その夜を過ごした。


 新たな挑戦


 るるちは配信の中で、視聴者と一緒に楽しめる新しい企画を発表した。それは、視聴者から寄せられたお題をもとに、彼女がイラストを描くというものだった。

「今日はみんなのリクエストに応えて絵を描いていきます!どんどんお題を送ってくださいね!」

 この企画は好評を博し、るるちは少しずつ自分らしい配信の形を見つけていった。

 一方、晴人もプロジェクトの初期段階を無事に乗り越え、少しずつ自信を深めていった。初冬の冷たい夜風に吹かれながら、自宅のベランダで湯気の立つ紅茶をすすり、彼は静かに思った。

「俺も少しは前に進めてるのかな……。」

 二人はそれぞれの挑戦を続けながら、互いを支え合う存在であり続けた。

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