第7章:それぞれの再出発
るるちの決意
実家に戻り、しばらく配信を休止したるるちは、安全な環境で心を落ち着けることができた。しかし、再び配信を始めるべきか、完全に身を引くべきか、彼女の中で葛藤が続いていた。
秋の気配が濃くなり始めたある日、澄み切った空にはうっすらと筋雲が広がり、柔らかな陽射しが庭先の紅葉を照らしていた。その時、晴人からのメッセージが届いた。
「元気にしてますか?明日も頑張るるー?」
短い文だったが、それが彼女にとってどれだけ励みになったかは、言葉にできないほどだった。
「ありがとう、頑張るるーだよ!もう少ししたら、また話したいことがあるかも……です。」
そう返すことで、自分自身を奮い立たせるような気持ちになった。スマホを握る手に、少しずつ前を向く力がみなぎってくるのを感じた。
晴人の挑戦
一方で、晴人もまた自分の人生を見つめ直していた。るるちがいない時間が、彼にとって自分を変えるきっかけとなったのだ。
「このままじゃダメだな……。」
秋風が窓を軽く叩き、冷たい空気が室内に流れ込む。晴人はこれまで避けてきた就職活動を始める決意を固めた。履歴書を書き、面接の準備を進めながらも、不安や焦りを感じることもあったが、るるちの存在が心の支えとなっていた。
「るるちだって頑張ってるんだから、俺も負けられない。」
缶コーヒーを片手に、小さなため息をつきながらも、彼の瞳にはしっかりとした決意が宿っていた。
再会
数週間後、るるちは晴人に連絡を取った。
「霧島さん、久しぶりです。前みたいに少し会って話せますか?」
「もちろん。いつ会いましょうか?」
二人は近所の公園で待ち合わせをすることになった。夕暮れの空が茜色に染まり、木々の間から静かに差し込む陽光が二人の影を長く伸ばしていた。
久しぶりに顔を合わせたるるちは、少し痩せたように見えたが、目には決意の光が宿っていた。彼女は淡いピンクのセーターにデニムパンツを合わせ、髪はツインテールではなく、肩にさらりと流していた。
「霧島さん、今まで本当にありがとう。」
「そんな、俺は何もしてないですよ。」
「ううん。霧島さんがいてくれたから、私は落ち着いて考えることも、また前を向くこともできたんです。」
るるちは深呼吸をしてから言った。
「私、もう一度配信を始めようと思います。ただ、今度はもっと慎重に。視聴者との距離感や情報の管理をしっかりして、二度と同じことが起きないようにします。」
晴人はその言葉に静かに頷いた。
「それが甘坂さんの選んだ道なら、俺も全力で応援します。」
るるちは微笑みながら答えた。
「ありがとうございます。それから……、霧島さんにお願いがあるんです。」
「何ですか?」
「霧島さんも自分の人生をもっと楽しんでください。あなたにはそれだけの価値があります。」
その言葉は晴人の胸に深く響いた。
それぞれの一歩
数日後、るるちは新たなアカウントで配信を再開した。新しい活動名を使い、慎重に情報を管理しながら、一からスタートする形での配信だった。初回の配信は告知を最小限に留めたため視聴者数は少なかったが、彼女の誠実な言葉と温かい笑顔は、新たなファンを着実に引き寄せていた。
「みなさん、初めまして!これから一緒に楽しい時間を過ごしましょう!」
その明るい声を聞きながら、晴人は自分自身の第一歩を踏み出した。就職活動の成果として、希望する職場から内定をもらったのだ。
「これからは俺も新しい道を進んでいこう。」
二人はそれぞれの場所で、互いを励まし合いながら新しい人生を歩み始めた。
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