第5話 クエスト(上)
「本当はパーティとか組んで行くんすけど……ま、Cランクのアタシがいれば問題ないっすよ!」
自信満々にまな板の様な胸を叩くシャミー。
男用の鎧でも十分そうだ。
「とりあえず、実力見たいんでいっちょクエスト、受けてみるっすか?」
「じゃあそれで」
――そんな流れで、街の散策もままならないまま再び街の外に繰り出すことになった。
支給されたのは懐刀のような短剣と魔法を使う際の杖の二つだ。
杖なんて無くても魔法は使えるのだが、ポーズということだろうか。
だが、杖を握ると不思議と魔力が溢れ出てくるような気がした。
「ま、これはアタシが昨日失敗したクエストなんすけどね……ほら、ちゃんと落ち着いてくださいっす、また魔物に襲われるっすよ!」
「今日は大丈夫、落ち着いてるから」
島を追放されて二日目――まさか地上に出ても結局魔物と戦うことになるとは思ってもいなかった。
「俺はこの辺の地理とか全く詳しくないんだけど、魔物とか活発なの?」
「活発じゃないわ。昨日も言った通り、魔物は“殺意”によって衝き動かされるっす。ただ……そうっすね、昨日より殺意は薄まっているっすけど……」
「思い出しちゃうと、どうしてもな」
「どこにそんな殺意があるのかは聞かないっす……怖いっす……」
怯えさせてしまったようだ。
過ぎ去ったことを忘れるには、時間が必要だ。
だけど、今の俺には圧倒的にそれがない。
だから、忙殺するしか方法は無いだろう。
「もしどうしてもだめなら、昨日みたいに切り抜けるから大丈夫だ」
「強気っすね……昨日のアレ、今は周りに人がいないんで聞いてもいいっすか?」
「あれは、『青空迷宮』。俺の居たところでは『スキル』って呼んでた」
「『スキル』――特殊魔法、みたいなもんすかねぇ」
特殊魔法の内容は、俺たちのスキルとほとんど同じで、わずかな確率や血統で発現するスキルそのものだった。
「そういう能力を持ってる人はたいてい兵士になっていくっすよ、羨ましい限りっす」
「逆に、なんでシャミーはここで働いてるの?」
「ん~、早く働けたからっす。学校行きながら冒険者を兼任する人もいるんすけどね……」
シャミーはどこか言いにくそうに口をもにょっとさせて視線を逸らした。
「あー、きたっすよ。昨日より弱いっすけど、殺意の抑え方もちゃんと習得する必要があるっすね」
人生でこれほど殺意を抱いたことなんてそもそもなかったから、抑え込み方も分からない。
というか、魔物が殺意に衝き動かされて動いているということ自体初めて知った。
魔物と縁遠い土地にいたという弊害は思ったより大きいらしい。
「とりあえず、単純に剣の腕がみたいっす! どれくらい使えるか――剣だけで戦ってみてほしいっすね! 無理っぽいなら「ギブ」って言ってもらえればいつでも助けにいくっすよ~」
トンと背中を押されて、俺は走ってきた獰猛な魔物――四つ足の丸々と太った生き物に相対する。
大きな牙と、灰色の煙がオーラのように身体に纏わりついている。
俺を見るなり、煙の色はどんどん濃くなっていく。
「なんかすげーイノシシみたいだな……」
「余裕っすね~。そいつは体当たり以外にも体内に溜め込まれた火を噴き上げる時があるから気を付けるっすよ~」
いつの間にか木の上に登っていたシャミーが忠告してくれる。
そういうことは早めに言って欲しい。
「コイツを剣で卸せってか……」
魔物の鼻からずっと出続けている灰色の煙は噴煙か。
体格差だけで倍以上ある。
足を一本切り落とすのが正解か――あれだけの煙を出している以上爆発が起きる可能性もある。
っていうか、コイツがDクラスって、Aクラスはどんだけなんだよ……!
「グモォォォォォッ!」
「来るっすよ~」
「分かってる!」
相手の覇気に圧され、俺もついつい反射で睨み返してしまった。
これは貴族だったころの悪い癖だ。
常に舐められるな、高圧的であれ――誰かに教えられた、子供のころからの癖。
――ああ、これを始めに言ったのもファンだったか。
優しかった父さんがそんなことを言うはずもないよな。
「止まってると危ないっすよ! 動いてほしいっすぅ!」
ぼぅっとしていたらしい。
気付けば――眼前に巨大猪が迫っていた。
大きな牙で俺の身体を抉り取るために、イノシシは頭部を下げ牙をこちらに向ける。
俺はそれを、剣で弾いた。
ゴン、という鈍った鐘のような音が響き渡り、俺は地面に生えていた蔓を足に引っ掛けて衝突の威力を躱す。
持っていた剣は圧力でひん曲がっていた。
噴煙と砂埃が俺達の周囲を取り囲み、一瞬で起きた爆発じみた暴風は俺とシャミーの間を引き裂いた。
対するイノシシは、牙が頭に直結する構造のせいか脳震盪を起こしている。
「やっべ……剣曲げちゃったな……」
借り物なのでどこかで弁償する必要があるかもしれない。
そう考えると胃が若干キリキリする。
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