第4話 英雄は妖精をご所望です

 受付のニーナさんに教えられた通り、クエスト掲示板の前にやって来た。みんな噂の掲示物を眺めている。


 【探索クエスト】

 ダンジョン・モルデントに現れる碧眼の迷宮妖精ラビリンスフェアリーの捕獲

 《条件》

・無傷の生捕りに限る

・目撃証言にも報奨金あり


 近年ギルドが管理するダンジョンに出現する碧眼の妖精を探しています。

 見つけた方には報酬10万リダー。情報等もお待ちしています。


依頼主 ノクト・アルペジオ


 碧眼の迷宮妖精? 初耳だ。私は耳をそばだてて近くの冒険者の会話を盗み聞く。


「ああ、ダンジョンで戦闘不能になると助けてくれるヤツ」

「そうそう、回復してアイテムを置いていく緑の目をした益獣えきじゅう。でもみんな死にかけで記憶が曖昧だから目撃証言が一致しないらしいよ?」

「へぇ~。英雄も可愛いモノ探すね~妖精だなんて」


 冒険者は楽しそうに笑いながら行ってしまった。


(へ~。そんな噂が有るんだ。もし妖精を見つけたらどうしよう? 成果物と報酬の交換の時ノクトに認知されちゃう! ダメだ、見つけてもそっとしておこう)


 私はギルドに併設された酒場に向かった。


 この酒場には新鮮な素材が集まるので何を頼んでも美味しい! はちみつ入りのホットミルクを頼み、お気に入りのカウンターの端……観葉植物の影の席でゆっくりと味わった。


 幸せを噛みしめていると聞き覚えのある声が……。


 本日の主役、火竜を倒した猛者パーティーご一行だ。 こんな近くで推しを見れるなんて更に幸せ。私はより一層気配を殺し背景に紛れた。だけど肝心のノクトの姿が無い。酒場のマスターが彼等に話しかける。


「みんな、今日は火竜の討伐お疲れ様。あれ? ノクト君は?」

「ノクトさんは『やることがある』って言って、また一人でダンジョンっス」

「へ~!忙しいね。まぁ彼強いから大丈夫か。ささ、みんな飲んで食べて!」


 その話を聞いて私は静かに席を立った。

 カップを返却口に戻し、ギルドのロビーの端で荷物の確認をする。


(大丈夫、まだ潜れる)


 私は慌ててダンジョンへと向かった。



灯せライト


 呟くと光の球が周囲に浮かびダンジョンを照らす。

 夜のダンジョンは人通りも少ない。そんな所でもしものことが有ったら! 私は杞憂しながら先を急いだ。


 中層に差し掛かった所だ。ここら辺からモンスターも増えてくるので、怪我人も増える。私は杖を握り締め、目を凝らして進むと先に誰か倒れている。


 それを見て鼓動が早くなった。見覚えのある装備、ブラウンの髪の青年……ノクトだ!


「大丈夫ですか!?」


 モンスター避けの結界を張った。ノクトに大きな怪我は無い。彼の首に手を添え、口元に耳を近づけて脈と呼吸を確認した。良かった、生きてる……。


 その時だった。左腕を掴まれ前のめりに倒れた。ノクトの胸の上に倒れ込み、今度はウエストをがっちり固定された。動けない! 何?


 頭を動かし見上げたら……蒼い瞳と目が合った。


「見つけた。迷宮の妖精ラビリンスフェアリー

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