第4話 緊張の瞬間
そして翌日。
俺は踊り場にいた。
目の前には、仲介人の瑞望と一緒に
ホームルームが始まる前のわずかなこの時間、瑞望が謝罪の時間をつくってくれたのだ。
「――それでね、翔ちゃんは別にきーちゃんに嫌がらせしたくてあんなことしたんじゃないんだって」
「痛っ」
俺の背中を叩いて、あとはお前がやれや、と促してくる瑞望。
そんな強く叩かんでもいいだろ……。
でもおかげで緊張が解けた気がする。
「泰栖さん、この間はごめん!」
頭を下げる俺。
「男子同士の変な遊びに巻き込んじゃって! もう罰ゲームで告白なんて二度としないから!」
「ね? 翔ちゃんもこう言ってるし。今回は水に流してあげようよ」
にこやかな瑞望。どうやら瑞望的には合格点だったようで、よくやったね、なんて表情を見せてくれる。
親友の瑞望が仲介して、俺も謝った。
そして泰栖さんが許す。
もちろん、それがベストな展開には違いなかったんだけど……。
「……納得、できないですね」
「え?」
隣の瑞望が驚いた顔をする。
「だとしても、私は、不甲斐ないとしか思ってませんから……」
唇を噛み、あからさまに不愉快そうな表情の泰栖さん。
俺、泰栖さんのこんな顔見たことないよ……。
言葉少なだけど、いつでも穏やかに微笑んで、誰かを否定するような顔をしない天使みたいな人が、泰栖希沙良という人なのに。
「もういいんです。どれほどみっともない人か、わかってしまいましたから」
踵を返す泰栖さんは、一目散に教室へのルートへと歩を進めていく。
「ちょ、ちょっと、きーちゃん。そこまで怒らなくていいじゃん~。ほらほら、翔ちゃんには悪気はないんだし!」
慌てて追いかける瑞望。
途中、俺の方を振り返り、俺を心配するような表情を向けてくれるのだが……俺はもう歩くことすらままならないような精神状態だった。
「俺……もしかして、とんでもないことしちゃった?」
いつでも微笑んでいる穏やかな『聖女』を、あれだけ怒らせたのだ。
俺は、罰ゲームの告白を軽く考えすぎていたのかもしれない。
思えば、泰栖さんは何かと告白されることが多いと聞く。
でも、たぶん、今まで罰ゲームとかいうふざけた理由で告白されたことはないのだろう。
真摯に告白してきた男子を数多く目にして、そして振ってきた泰栖さんからすれば、俺のやった行為はあまりに不誠実に映ったに違いない。
そうでなければ、みんなの聖女様があれだけの怒りを示すはずがないのだから。
呆然と立ち尽くしたまま、予鈴すら耳に入ることなく、意識を取り戻した俺が教室に足を踏み入れることができたのは、二時間目の終わりになってからのことだった。
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