第7話
「おえぇーー!」
2人から一目散に逃げ出した俺は気持ち悪さが抑えきれなくなり、そのまま吐き出してしまった。それで少しでも気持ちが楽になればいいんだけど、やっぱりそんなことは全然なくて。むしろ、1人になったことで色々考えることがでてくる。
「…ふぅ。いつまでもこんなことしてるわけにはいかない、よな?ルートによってはヒロインはもっと多くの呪い殺しと敵対することだってあるんだから…」
俺は決意を思い出すように口に出した。…俺はヒロインを助けたい。そのために例えこの手を汚す事になったとしても。
「…うん、そうだ。これで、良かったんだ。…後はゲームの主人公が何だかんだでハッピーエンドに向かってくれる、はずだ」
…そう、分かってるはずなのに。どうしてか胸のモヤモヤ感が晴れない。こういう世界観なんだから、何かを守るために別の何かを犠牲にするなんて当然のことのはずなのに。
「…あと、この刀についても考えないとな」
出てこい、と軽く念じただけで簡単に現れたこれは、本来なら主人公が持つべきもののはずだ。少なくとも、こんなモブが持ってていい武器じゃない。
… カタラ・スフラギダ。それは漆黒の刀身が特徴的な日本刀である。その真の力は相手の攻撃全ての無効化である。遠距離攻撃も、近距離攻撃も、精神攻撃も。文字通りの全てである。…そのおかげで無意識に力を使って他人の心を読んでいたヒロインに一目置かれるんだけど、今はまだいいや。
そんなバランスブレイカーの武器がこの世に2つとして存在しないんじゃないかと思う。…なら、やっぱりこれは主人公の?
「…もしかして、原作の俺が死んだことで武器だけ残って雄介が使ってた?」
その考えが一番正しいように思う。それなら、原作を壊さないように俺が死ぬか、それとももう原作を無視して生きるか。…うん、流石に後者を選ぶかな?
「…これからもよろしくね、相棒」
俺はそう言ってカタラ・スフラギダの柄を握った…瞬間。
「…ここ、は?」
「ここは精神の世界」
「誰だ!?」
俺だけかと思ったのに前の方から声が聞こえてきた。…だけど、よくよく聴いてみると俺の声に似ているような気がする。もちろん、前世じゃなくて今の翔真としての自分の声だけど。
「僕は
「…なっ!? いや、やっぱりそうか。俺は転生していたんだな。目的は体を取り戻すことか?」
突然何もなかったはずの目の前に現れた男の子はそう言った。普通なら信じられないかもしれないけど、なぜだか俺には本当のことだとすぐに分かった。
「いや? 君には感謝と、それから謝罪をしたくて」
「? 感謝と謝罪?」
「うん。僕の守れなかった2人を守ってくれてありがとう。それから、勝手にこんな過酷な世界に呼び寄せてごめんなさい」
…確かに日本と比べれば過酷な世界だ。呪いなんて存在はいるし、呪い殺したちにも勝たなきゃいけない。それでも!
「…それなら俺は感謝の方だけ受け取るよ。確かにここは過酷な世界かもしれないけど、助けたい人たちを守れる位置にいるんだ。それこそ、俺の方こそありがとうだよ。この世界に呼んでくれて。…みんなを救うチャンスをくれて」
…そう。何度画面を見ながら泣いたか覚えてない。どうしてみんな幸せなハッピーエンドがないんだろう?どうにかして主人公とヒロインがちゃんと笑い合っているエンドに辿り着けないのかとずっと悔しい思いを抱えていた。
もし、俺に選択肢があったとして、地球に残るのか『人と呪いのカタルシス』の世界に入り込むのかと聞かれたら、間違いなく後者を選ぶ。
「…そっか。流石は僕が見込んだ人だ。…せめてもの餞別として、この刀を君に贈るよ」
「…やっぱり、カタラ・スフラギダはあんたのだったんだな」
「うん。僕が繰り返す世界の中でどうにか完成させた一振りだ。…君はこの刀について勘違いしている。これの真の力は攻撃の無効化なんていうものじゃない」
「…無効化じゃ、ない?」
「あ、あ。…それ…真…ちか…は……じ…かき………」
その瞬間、話していた彼にノイズのようなものが走ったかと思うと、俺はいつの間にか元の場所に戻ってきていた。慌ててもう一度カタラ・スフラギダの柄を手にしても、何も起こらなかった。
「…夢? にしてはやけにリアルだったし、きっと現実なんだろう」
多分、時間切れとかってことなのかな?結局重要な部分は聞き取れなかった。この刀の真の能力って何なんだ?ゲームではそんなこと一切登場しなかったけど…。
「しょうちゃん〜! どこ〜!」
「翔真君〜! 返事して〜!」
そんな風に考えていると、割と近くからそんな声が聞こえてきた。…全く、俺は拒絶したはずなのに、どうしてこんな場所まで追いかけてくるのかな?
…でも、本当に俺なんかが出て行ってもいいものだろうか?少しは心も軽くなったけど、それと同時に別の罪悪感も生まれてきていた。…俺は本当のしょうちゃん、翔真君じゃないって。
言ってみれば俺は異物のはずだ。本来ならここにいていい存在じゃない。…なんて、今さらか。彼とも約束したんだし、体を借りるお礼としても2人のことは何があっても見捨てないようにしよう。
「…ふふっ、そう考えたらワクワクしてきたな。今はヒロインも死んじゃうはずの子たちもみんな守れる位置にいるんだ。それに、最強の武器もある。…よし! 俺は俺が見たかった真のハッピーエンドを目指す!!」
そう決意を新たにした俺は2人の声が聞こえる方向に向かって歩き出した。
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