第6話

 外に出た俺は一息ついていた。これで一先ず2人の死亡フラグは折れたかな、と。…正直、これから先は原作を変えたせいで違うルートになるはずだ。それで自分のアドバンテージを潰すことになったとしても、目の前の2人を見過ごせなかった。


 「こっちです! この先の家に呪いが住んでるって情報が!」

 「なっ!?」


 …だけど、そんな俺を嘲笑うかのようにゲーム主人公の雄介が呪い殺しを引き連れてやってきた。


 …何故だ!?こんなこと、無かったはずなのに!ま、まさかあいつも転生者なのか!?それとも…。…いや、これ以上はやめておこう。どっちにしろ、このピンチをなんとかしてからだ。


 「おい、そこのガキ。お前が呪いなのか?」

 「…いや? 俺たちは普通の人だけど?」

 「…そうか、なら、そこをどけ」


 …やっぱり。呪い殺しなら呪いの気配がある程度は分かるはずだ。だからこそ、子供の雄介の言葉でさえ信じてついてきたわけだ。…でも、俺だってここで引くわけにはいかない。原作を変えるって決めたんだ!こんなところで諦めてたまるか!!


 「悪いが、どくつもりはない!」

 「…そうか」


 そう言って呪い殺しは俺に武器を向けてきた。そして、躊躇いなく振り下ろした。避けることなんて当然、できるはずがない。あっけなく吹き飛ばされた俺は背中から家にぶつかった。


 「最後の忠告だ。どけ、クソガキ」

 「…どか、ない!」


 …背中が、全身が、焼けるように痛い。だけど、このままコイツらを通すわけにはいかない。


 …考えろ。この状況をどうにか切り抜ける方法を。相手はプロの殺し屋だと考えても問題ない。対して俺はただのガキだ。普通にやったところで万に一つも可能性なんてない。


 …そうだ。俺にも使える武器がある。それは原作の知識だ。…一か八か、賭けるしかない、か。直前まで何も持ってなかったはずの相手が急に武器を出したことからも、できるはずなんだ。自分専用の武器を取り出すことが。


 …原作ではたしか…だめだ、思い出せない。何故か主人公は片時も離さず武器を持っていたから、詳しいところまでは思い出せない。ただ、強い思いがあれば応えてくれる、としか…。


 敵は眼前、俺は丸腰。そんな中望むことはただ一つ。ヒロインの、いや、ヒロインたちの幸せ!


 ガキンッ!!


 その瞬間、目の前には一本の剣が。いや、剣、というには不恰好なそれは、原作でも見たことがあった。


 「…カタラ・スフラギダ」


 その剣の名前を、いや、その刀の銘を俺は呟いた。主人公が持ってるはずで、最後の最後に覚醒する作中でも間違いなくトップの武器。その効果は、攻撃の無効化。それは例えラスボスであったとしても例外ではない。


 …どうしてここにあるのか、何で既に最終形態になっているのか、分からないことだらけだ。主人公の強さによって成長する武器だったはずだが、ハッピーエンドを目指すならこれを借りるしかない!


 俺は一心不乱にその刀を手にとった。不思議と勇気を与えてくれるような気がするそれは、何故か俺の手に馴染んだ。初めて持ったという感じがしない。長年の相棒のようで、負ける気は全くなかった。


 「なっ!? この、ガキッ!!」

 「…ハァッ!」


 まさか受け止められるとは思ってなかったのか、狼狽えて隙ができた呪い殺しに俺は無我夢中で刀を振り下ろした。


 …悲鳴は、上がらなかった。グシャッと嫌な感覚が手に伝わったかと思ったら、さっきまで人だったものが力なくその場に倒れた。


 「…な、な!? おい、翔真! なんて事を」

 「…あぁ!?」

 「ひっ!?」


 雄介は俺が威圧するように睨みつけるとあっさりと逃げ帰っていった。


 …初めて人を殺した。そうしなきゃ俺の大切なものは守れないと分かっていた。…でも、本当に他の方法はなかったのか?…俺は、彼女たちに顔向けできるのか?


 どんどん心が冷えていくのが分かる。後悔は後から悔いるものだ、なんて言われるみたいに吐き気や後悔が襲いかかる。


 「…ははっ、最低だ、俺」

 「「しょうちゃん!(翔真君!)」」

 「近づくな!!」


 そんな風に自己嫌悪に陥っていると、家の方から飛び出してきた人たちがいる。俺にとって大切なはずの存在。…だからこそ、今の俺は見られたくなかった。そう思った俺はとっさに彼女たちを遠ざけた。


 「ヤダ! しょうちゃんの側にいる!」

 「…大丈夫。私は、私たちは何があっても翔真君の味方だから」


 …それなのに、羽美ちゃんは離さないとでも言うように力一杯抱きついて、遥香ちゃんは俺たちを優しく包み込むように支えてくれた。


 「…ごめん!」


 俺はそんな2人を振り払うようにして駆け出した。そんなに優しい2人と、人を殺した俺。正反対と言っても過言ではないような気がするし、何より俺が辛かった。俺の血で汚れた手を、体を、触られることが。そのせいで、2人のこともけがしちゃうような気がして。

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