第4話

 「な、何であなたたちがここにいるの!?」


 そんな風に日記を見てる俺たちの背後からそんな声がかけられた。慌てて振り向いた俺たちの視線の先にいたのは桃色のショートカットにどうしても目を惹きつけられそうな魔力のこもった大きな胸。高校生くらいの見た目なのに爆をつけても問題なさそうなそれは、画面越しでもすごかったのに実物はもっとすごい。


 「遥香お姉ちゃん!! ごめんなさい、私! …酷いこと言っちゃった」

 「なっ、何で羽美ちゃんが謝るの! 悪いのは隠してた私なのに」

 「遥香お姉ちゃんのせいじゃないもん!! 私、呪いなんて見たの初めてで、それで怯えて怖がって…。遥香お姉ちゃんが優しい人だって分かってたはずなのに!」

 「そんな! 私が悪い呪いかもよ? だからね? こんな風に抱きついちゃダメなんだよ?」


 遥香ちゃんを見つけた羽美ちゃんはそのまま走っていってヒシッと抱きついた。そしてお互いに謝って。…うん、これならわだかまりも無くなったかな?


 「…ごめんね、遥香ちゃん。勝手に家に入ったりして」

 「…えっ!?」


 今度は俺が謝る番かとそう言ったら遥香ちゃんは何故か驚いたような表情で固まっていた。


 「ん? 遥香ちゃん? どうしたの?」

 「…翔真君、よね? えっ? アレ? ど、どうしたの? 何か変なもの食べた? 道端のものは拾って食べちゃダメだよ?」

 「ちょちょ、そんなことしてませんって!」


 …おい、翔真君?君、今までそんなことしてたのか?それならその時の記憶がなくて良かったと思うべきなんだろうか?


 「だ、だって! 今までは遥香姉さんだったじゃん! 急にどうしちゃったの!?」

 「…あぁ、そのことね? 俺もちょっと変わりたいって思ったんだよ。大切な人を守れるくらい強くなりたい、って」

 「…それって、もしかして」

 「うん。こんな日記も見ちゃったしさ? 勝手に見たことはごめんね? …でも、遥香ちゃんが俺たちを守りたいみたいに、俺たちだって遥香ちゃんを守りたいんだからさ? 何でも、とは言えないかもだけど、悩みくらいならいくらでも聞くからさ?」

 「…そっか。その大切に、私なんかも入れてくれるんだ」

 「当然でしょ?」


 …だって、俺は遥香ちゃんがいい子だって分かってるから。そんな人を助けたいって思うのは当然だよね?


 「…しょうちゃんのすけこまし」

 「…えっ?」

 「ふん! もう勝手にすればいいじゃん! 行こっ、遥香お姉ちゃん」

 「…えっと、ああ。なるほどね。…翔真君? これはお姉さんとしての忠告なんだけど、あんまり思わせぶりな言葉は使わない方がいいよ?」

 「えっ? 俺、何かおかしなこと言いましたか? 遥香ちゃんにも羽美ちゃんにもしっかりと幸せになってほしいだけなんですけど…」


 …もう、原作通りの展開なんて迎えたくない。なるべくならずっと笑顔でいてほしい。…だって、雄介と同じくらい、いや、それよりも多分ずっと強く、俺にもトラウマとして残ってるから。ルート分岐によって結末が違う陽毬と違って、共通ルートの二人は必ず通らなきゃいけない関門だった。それこそ、1000や2000では足りないくらいに彼女たちの話を聞いて、その度に慣れることなんてない絶望感に心をすり減らしてきたんだから。


 「…はぁ〜、無自覚かつ本気か。これは、やばいわね? 私ももう落ちてるような気がするし、羽美ちゃんも?」


 遥香ちゃんが羽美ちゃんにそう聞くと、遥香ちゃんの手を引っ張っていた羽美ちゃんはコクンと頷いた。…それにしても、どういう意味なんだ?と、いうかもしかして俺、羽美ちゃんに嫌われた!?


 「…なら、二人でお話ししよっか? もちろん、翔真君は聞いちゃダメだよ?」

 「わ、分かったよ。じゃあ俺はちょっと家の外にいるから」

 「ん、分かった」


 そうして俺は遥香ちゃんに見送られて外に出た。…やっぱり、モブになったから分かってはいたけど、羽美ちゃんにすら嫌われてるんだ。もちろん俺が雄介の代わりにヒロインと、なんて考えてないと言ったらウソになるけど、せめて羽美ちゃんとかなら付き合えたりするのかとか浮かれちゃったな。


 …うん、俺はみんなの死亡フラグだけへし折って、恋愛については雄介に任せるのが一番だよな、やっぱ。

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