第3話

 「…ここが、遥香お姉ちゃんのお家、だね」

 「ああ、そうみたいだな。家主がいないのに入るのはちょっとどうかと思うけど、今はそんなの気にする場合じゃないもんな」


 俺と羽美ちゃんは何かあった時用にと渡してもらった合鍵を使って中に入った。…本当ならこんなことで使いたくはなかったけど、今は緊急事態だ。後でたっぷりと怒られればいいや。


 家の中に人の気配は無かった。ポツンと寂しげに佇んでいるテーブルの上に無造作に置かれた一冊のノート。まるで見てくれとばかりに置いてあるそれを俺は手にとった。


 「…しょうちゃん? 怖くない? 危なくない?」

 「うん。これくらいなら別に平気だよ」

 「…やっぱり、今日のしょうちゃんなんかおかしいよ!」


 …そりゃ、中身が全く別人になってるんだし、違うのが当たり前だよな?それに、まだこの体に馴染んでないからか、記憶とかも全くないからどうにかゲームの内容を思い出して話してるにすぎない。せめて翔真として生活してきた記憶があればもうちょっと自然な感じで接することもできるんだろうけど…。


 「…おかしい、か。俺はただ遥香を、もちろん羽美も、助けたいだけなんだ」

 「…えっ? そ、それって、そういうこと? 期待しちゃっても、いいの?」

 「もちろん! 絶対に守り抜いてみせるから」

 「…うん! 私、しょうちゃんを信じる!!」


 これだけは紛れもなく俺の本心だ。悲しい運命を背負った人たちを見て見ぬふりなんてしたくない!…だって、そんなんでヒロインの陽毬だけ助けても、俺はきっと後悔するはめになると思うから。


 それに、俺がちょうどこの時期に転生したのも、きっと彼女たちを助けてほしいという意図があると思うから。


 「…これは、日記帳かな?」

 「私にも見せて!」

 「ああ、構わないよ」

 「…違うよ。こうすれば、よっと! 一緒に見れるでしょ?」

 「えっ!? ちょ、ちょっと羽美ちゃん?」


 俺が羽美ちゃんに日記を渡そうとしたら、それを遮って後ろから抱きついてきた。ほっぺた同士がくっつきそうなくらい近くに羽美ちゃんがいる。


 前世含めて年齢=恋人いない歴の俺は内心パニックだ。それもヒロインに勝るとも劣らないような容姿の羽美ちゃんならなおさら。


 「ん〜? わっかんない! しょうちゃんは読める?」

 「…そう、だね。うん、読めるよ?」


 そんなドキドキをなるべく見せないように冷静になって答えた。それもただの大人としてのプライドと、それから俺は決してロリ好きではない、という謎の決意。…だけど、羽美ちゃんを見てるともうロリコンでいいんじゃないかという思いが湧いてくる。が、決して俺はロリコンじゃない!!


 「読んで読んで!!」

 「いいよ? え〜っと、


 ⚪︎月×日

 こんな私を慰めてくれる人がいた。まだ幼い彼女は私を姉とよんでくれた。


 ⚪︎月×日

 彼女は今日もまた来てくれた。彼女の笑顔を見てると、辛い過去を忘れることができた。


 ⚪︎月×日

 彼女とも仲良くなってきた。今度は彼女のお友達も連れてくるって張り切ってた。…正直、不安でいっぱいだ。


 ⚪︎月×日

 彼女が連れてきたのはヤンチャそうな男の子と優しそうな男の子だった。…まだ、子供なら大丈夫、だよね?


 ⚪︎月×日

 やっぱり最初の印象は正しかった。ヤンチャな男の子がリーダーで色々決めてるみたいだ。…やっぱり、ヤンチャな男の子はほんのちょっと苦手だな。


 ⚪︎月×日

 彼らともすっかり仲良くなってきた。もし、彼らが私の過去を、正体を知ったら、怯えられる。だから、隠し通さなきゃ!


 ⚪︎月×日

 私は彼らともっと仲良くなりたい。でも、私が一歩引いてるとダメだよね?だから私は彼らに鍵を渡した。…いつか秘密がバレるときがきても、分かってくれると嬉しいな」


 俺は羽美ちゃんと出会ったときの日付から日記を読んだ。それより前はどうでもいい、なんては言わないけど、見ない方がいいように感じた。


 …正直、遥香ちゃんが昔、何をしたのかは俺にも分からない。このイベントも主人公の雄介が能力を手に入れただけとして描かれていた。それに、後々の部分でもやっぱり遥香ちゃんに触れられることはなくて、どんな理由があってごめんなさいを並べているのか分からない。


 …でもさ?一つ分かってることは遥香ちゃんは悪い人じゃないってこと。確かに主人公から見たらトラウマ級の最悪の存在ではあるけど、この日記を見ちゃうとね?


 やっぱりこんな日記を置いておくなんて、流石は鬱ゲーだなって思う。だけど俺はその世界にいるんだ。胸糞悪い鬱展開なんてぶっ壊す!目指すは全員が笑顔になれるハッピーエンドただ1つ!!

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