第13話 睡魔(翔サイド)


「本田ちゃん、昨日倒れたよ。」



「はっ?」



社員食堂で昼食を食べていると、空になった食器をお盆に乗せた南が声をかけてきた。思わぬ報告に大きめの声が出てしまった。



「おーおー。まあ落ち着け。」



「原因は?」



「お前が一番分かってるんじゃない?彼女、心配になる位、仕事つめつめで頑張ってたんだよ。ほぼ仕事しない人が居るんでねぇ。仕事まわんないの。」



ジローっと南が俺を睨んでくる。

普段、ニコニコしている南だが、こういう話の時は、ブラックになるというか。怒らせると怖いタイプだ。



「まぁ、中野が何もできないのも分かってるんだけどね。本田ちゃんは、凄く良い子だからさ。幸せになって欲しい訳ですよ。」



「何が言いたい?」



「なんでしょう?あ。そろそろ戻らないと。」



南はそう呟くと、ヒラヒラと手を振り、歩いていってしまった。



午後の業務中も、怜が気になって仕方ない。それに南の言葉も引っかかる。パソコンと睨めっこしていると声がかかった。



「翔さん、ちょっと良いですか?」



「今、仕事中なのですが。急ぎですか?」



婚約者の美希さん。

勝手に父親が話を進めた婚約者。



「いえ、少しお顔を見たいと思って。最近、お仕事忙しくてなかなか会えないですし…」



ニコニコと笑う美希さんは、きっと男性からモテる女性なのだろう。しぐさや言動が、所々あざとい。



普通、婚約者だったら嬉しいものなのかもしれないが、全く嬉しくない。グッと自分の感情を押し殺し笑顔を作った。



「すみません。寂しい思いをさせてしまって。落ち着いたら時間作りますので。」



全く作る気なんてないのに。バカみたいだ。俺。



その後も業務を続けていると、南が珍しく俺の席に来た。



「ちょっと先日の書類の件で聞きたい事がある。」



珍しいと思いながらも連れてこられたのは、会社の休憩所。パソコンを広げて打合せをしてる人も居れば、コーヒーを飲んで一息付いている人もいる。喫煙所もこのエリアにある。



椅子に座ったと思ったら、携帯を取り出し、どこかへ電話をかける南。



「本田ちゃん?体調は、どう?」



「え…」



電話の相手は、怜のようだ。

南は、うんうんと相槌を打っている。



「いえいえ。それなら良かった。明日からまたよろしくね。」



電話を切ったらしい。



「元気だって。」



「は?」



「だから!本田ちゃん!沢山寝て元気になったって!」



「そうか。」



「お前、あれから死にそうな顔してたから。そんな本田ちゃんの事が好きなら、どうにかしろよ。」



「…。」



「他の男に取られちゃうよ。」



俺とかね、とケラケラ笑いながら、休憩所を出ていった。



「じゃあ、俺はどうすれば良いんだよ。」



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