第8話 南さん


給湯室から出て自分の席へと戻る。

翔の姿はもうなく、ホッとした。



「お待たせしました。」



「ありがとう。」



業務開始の時間になり、皆が仕事に取り掛かった。今日も忙しい1日が始まる。



「これ、お願い出来る?」


「急ぎですか?」



淡々と仕事をこなしていき、定時のチャイムがなる。



「よし、終わったー!」



伸びをして、机の上を片付けて居ると、隣から声がかかった。



「本田ちゃん、今日ってこの後時間ある?」



「今日ですか?」



「うん。」



「ごめんなさい。今日は、寝不足気味なので家に帰ろうと思います。」



「了解。また誘うねー」



南さんにぺこりとお辞儀をし、そのまま、急ぎ足で家に帰った。



「なんか今日は疲れた…」



いつもだったら、翔に帰宅の連絡を入れるけれど、今日からその必要もない。



シーンと静まり帰った部屋。目線を少しずらせば、彼が泊まった時用にと置いてあったワイシャツが目に入る。



「あれ、どうしようか。」



お風呂に入ろうとすれば、彼専用のスウェット。歯を磨こうとすれば、彼の歯ブラシ。紅茶を飲もうとすれば、ペアマグカップ。



一年一緒に居たんだ。



飽きた、と言われた時のことを思い出して、また涙が溢れた。



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