第3話 思い出の場所

 そして迎えた休日、土曜日の夕方。

 俺は最寄りの駅で彼女を待っていた。

 季節はクリスマス間近と言う事もあり、街は妙に浮き足だっている。

 口には絶対に出せないが、かくいう俺もその一人だ。


 それから暫くして彼女がやって来た。

 まだ待ち合わせの時間の十分前。

 彼女は白のダッフルコートに膝丈の赤いスカート、肩から黒のショルダーバッグを掛けていた。


 彼女は俺の姿を見るや、小走りで近付いて来た。

 そして俺の前でゆっくりと一回転し、無言の笑顔で俺の顔を覗き込むように見る。


「うん、凄く似合ってると思うよ」

「えへへ、有り難うございます!」


 心の底から嬉しそうにはしゃぐ彼女に思わず笑みが溢れる。

 その瞬間、彼女の可愛らしい仕草に周囲の男達がざわめきたつ。

 中には恋人といるにも関わらず声を挙げ、自分の彼女に怒られている男も居た。


「今日はいっぱい楽しみましょうね!」


 彼女が強引に俺の手を掴み、駆け出した。

 街を彩るイルミネーションに照らされた彼女はとても綺麗だった。

 楽しい時間はあっと言う間に過ぎた。

 気付けば時刻は午後十時を回ると言うところ。

 これ以上は流石に店主も心配するだろう、俺は彼女に「そろそろ帰ろう」と告げた。すると──。


「その前に行きたい所があるんです。付き合って貰えますか?」



 寂しげな顔で笑う彼女に連れて来られたのは、一本の枯れ木がある小高い丘の上だった。


「へぇ、こんな場所があったんだ」


 丘の上からは街の景色が一望できた。様々な明かりが混在するそれは、とても幻想的に見えた。


「ここ、お父さんがお母さんにプロポーズした場所で幼い頃に連れて来られて以来、私も何かあると良く来るんです」

「あぁ、そうなんだ。うん、素敵な場所だね」

「有り難うございます。それで柳田さんに質問と言うか、確認がいくつかあって……聞いてもいいですか?」


 顔を真っ赤にし、震えながら拳をぎゅっと握った彼女が真っ直ぐに俺を見る。

 あまりの迫力に俺は彼女の言葉に頷く事しか出来なかった。


「柳田さん、以前に付き合ってる女性はいないって言ってましたよね!?」

「あぁ、確かに言ったよ」


 と言うより、俺の記憶違いでなければ今までの人生で誰かと付き合った事なんて一度もない。

 やばい、何だか悲しくなってきた。


「柳田さん、私の事を『可愛い』って言ってくれましたよね!?」


 震える声で彼女が大声を挙げる。

 あの時は空気的にそう言わざるを得ない流れだったが、彼女が可愛い事は常日頃から思っていた事だ。

 俺は静かに首を縦に振る。


 彼女が大きく息を吸い込み、深呼吸。

 そして意を決したように口を開いた。


「好きです! 私と付き合って下さい!」

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