第2話 デートの約束
それから数週間後。
相も変わらず、俺は店内で何故だか構って欲しそうにする彼女と一緒に居た。
今日は平日。
俺が店を訪れた直後に彼女が学校から帰って来たと言う事もあり、彼女は学校の制服姿だ。
雨と言う事もあり、店内に居るお客は俺だけ。だからか、彼女はいつもよりも俺に密着して来る。
少し離れた所にはこの店の店主である彼女の父親は苦笑いを浮かべていた。
もはや誰にも止められない、まるで暴走列車のようだ。
「私、女としての魅力がないんでしょうか?」
俺の隣に座る彼女が腕を枕にしてテーブルに顔を埋め、唐突に呟く。
突然の爆弾発言に俺は言葉に詰まり、彼女を凝視。
すると彼女は、俺の顔を見ながら「だってそうじゃないですか」と唇を尖らせた。
「別に同世代の男子に告白されたいとかじゃないですよ? でも女として魅力があるなら、普通は何度か告白されてる筈じゃないですか!」
顔を上げ、彼女が上目遣いに俺を見る。
更に詳しく話を聞くと以前に話してくれた『ミコ』と言う友達がその後に告白して来た別の男子と付き合う事になったと報告して来たらしい。
その事実に彼女は自信喪失し、こうして落ち込んでいるようだ。
「何処かに私に『可愛いよ』って言ってくれる男の人、いないかなぁ」
チラッ、チラッ。
彼女が分かりやすく何度も俺をチラ見する。
「大丈夫。男の俺から見ても杏ちゃん、可愛いと思うよ」
もはや俺にはこう言うしか選択肢は残されていなかった。
実際、彼女は何で告白されないのかと疑問に感じるほどに可愛い。
あくまで予想だが、可愛いが故に『自分とは釣り合わない』と男子生徒達が怖じ気づき、告白しないのではなかろうか。
そう考えると、以前のガラの悪い男子高校生達の胆力も中々の物である。
「やった、柳田さんに『可愛い』って言って貰っちゃった。今度、今日の事を学校で自慢しますね」
「自慢に……なるの?」
イケメンや金持ちに言われたなら自慢になるだろうが、俺はただのサラリーマン。
顔も普通だし、何のステータスも無い。
俺の言葉に彼女は一瞬だけ呆けた表情を浮かべたが、直ぐに笑顔で「なりますよ! むしろ自慢にしかなりません!」と嬉しそうに口にした。
「そうだ、今度の休みの日に私と何処かにお出かけしてくれませんか?」
「お出かけ……?」
「それで『私にも何処かに一緒に出掛ける男の人くらい居るんだよ』って、ミコに自慢してやるんです!」
その言葉に俺は思わず、苦笑い。
思ったよりも彼女は負けずぎらいのようだ。
「まぁ、俺の方は構わないけど。それより本当に俺で良いの?」
「柳田さんが良いんです!」
遠くで娘である彼女の様子を見守っている店主に視線を送ると、彼は苦笑いを浮かべながらも首を縦に振った。
俺が信用されてるのか娘に言っても仕方ないと諦めたのかはさておき、どうやら彼女の意思を尊重する事にしたようだ。
「詳しい話はチェインでしません? ほら、お店だとお父さ……マスターに監視されてますし! これ、私のIDです!」
そう言って彼女は自分の携帯端末の液晶画面を見せてきた。
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