第54話 俺の相棒はこれからも相棒
美智香を家に送っていって、夜になると俺は自室でゴロゴロしていた。
こうしてゆっくり過ごすのは久しぶりな気がする。
ここしばらくは魔王と戦うことでいっぱいいっぱいだったのだから、ようやく気が抜けたのだ。
部屋の隅のゲージから網をがりがりと噛む音が聞こえた。モモ太が呼んでいる。
「ご主人。おやつのビーフくださいよー」
「わかったよ」
「わーい」
俺がゲージの中に乾燥ビーフを入れると、モモ太はすぐ手に持ってむしゃむしゃと食べ始める。
こうしてみると、モモ太は本当にただのハムスターだ。
しかし、モモ太は普通のハムスターに戻ったはずだったのに、フィロ神はモモ太が言葉を話せる能力をそのままにしていった。
俺達の戦闘能力は失われたが、モモ太の言葉を話せる能力は戦闘に使うものではなく、前世の記憶をそのまま引き継いでいるからその前世と同じように会話ができるままにしたとのことだった。
「モモ太、良かったのか?」
「何がです?」
モモ太はおやつを食べる手を止めてきょとん、と俺のことを見上げた。
「お前は記憶を消して普通のハムスターに戻ってもよかったんだぞ。前世の勇者の使い魔だった記憶なんて忘れて今まで通り、普通のペットのハムスターとして生きて、自分の役目なんて知らないままで」
俺達人間は記憶を持っているとしても、モモ太はあくまでも動物だ。
何も知らないまま、ただのハムスターとして生きていた方が幸せなのではないか。
「なーに言ってるんすかご主人」
モモ太は『なんだそんなことか』という感じの口調でそう言った。
「僕はあのことがあったからこそ、またこうしてご主人のところへ生まれ変わることができたんですよ。きっと僕がまたご主人の傍にいることができたのも運命じゃないですか。僕はこのままご主人と一緒にいる方が僕も楽しいんですよ。だから僕はこうしてこれからもご主人の相棒として生きていくだけですよ。だからこれからも使い魔、いや相棒として僕を頼ってくださいよ。またスパイでもなんでもしますから」
「モモ太……」
ペットでありながら相棒であるモモ太は俺に忠誠を誓う、その気持ちに涙が出そうになった。
ここに生まれて良かったと、俺の傍に入れて幸せだと。
俺たちの勇者としての役目は終わった。
けれど、その経験はきっと今の人生でも役に立つだろう。
だって、普通じゃ経験できないことを体験したのだから。
その後、美知香のコンサートがどうなったかを知った。
原因不明の現象により、会場内が無茶苦茶になり、コンサートが中止になった。
この世界には魔法や魔王といった存在などないのだからあれは何が起こったのかはこの世界の一般人にはわからない。
あの現象はドームの建築設計のミスによる崩落だったとか、設備の不具合によるの事故などそういう風に片づけられたようだ。
俺達が勇者としてあの場所で魔王と戦っただと言っても誰も信じないだろう。
ゲームのやりすぎだとかただの高校生の妄想として取られるだけかもしれない、
皮肉なものだ。俺達は世界を救ったのに、この世界の誰もがそれを知らない。
この世界に魔王ロージドが現れたことも、そんなこと誰もわからないのだ。
美智香のコンサートは中止され、理由もわからないことで観客たちは怒り、チケットの返金だとか賠償金だとかそんな問題にもなりかけたようだ。
それもあって美智香はしばらくの間、活動休止することになったらしい。
あれだけの騒ぎを起こしてしまい、当分復帰は無理だろう。
まずは美智香自身の身体のケアだって大事だ。精神的にも回復せねばならない、
こうして俺達の戦いは誰にも知られることもなく終わっていったのだった。
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