第29話 これでまいったか

「ゲッ、なんだよこのネズミみたいなのは!? いつの間にこんなところに!?」


  森崎は自分のポケットから現れたモモ太の存在に驚いた。


 そして自分にくっついていたモモ太を振り払おうとした。


 モモ太は器用に地面にスマホを抱えたまま着地して、それを背中に担いで駆け出した。


 モモ太は覚醒により筋力が強いのでハムスターの小さい体でも体積に合わない重い物も運べるのだ。


 フィロ神に覚醒させられた能力で筋力などは普通のハムスターとは比べ物にならないくらいに筋力も脚力も全て強くなっている。小さい体でもスマートフォンほどの自分より大きな物体も運べるのだ。


 モモ太は超スピードでスマホを持ったまま俺の元へ駆け寄ってきた。


 俺は両手を差し出して、スマホを持ったままジャンプしたモモ太を受け止める。


 そして俺は森崎のスマホを手に構えた。


「よっしゃ、森崎のスマホゲット」

 これが作戦だった。


 森崎はいつも腰のポケットにスマホを入れている。


 俺が挑発して森崎の相手をして気を引いてる隙に、モモ太が見つからないようにポケットに忍び込み、森崎のスマホを持ってくるという作戦だったのだ。


「さてと、どうしようかな」



 森崎は普段、スマホにロックをかけていないこともお見通しだ。モモ太が森崎にスパイ行動をしたあの時、スマホ画面から一瞬でカメラを起動させているところを見たのだ。


 暗証番号を打つ手間が面倒で、いつでもスマホ画面がすぐ開けるように、スマホにロックをかけていないのだろう。


「これ、中身どうなってるのかな?」


 わざとらしく俺は森崎のスマホ画面に触れようとする。


「てめえ、ふざけんなよ! てめえのやってることは他人のプライベートを覗く行為だ」


 どうやらそういう知識はあるようだ。女子の写真を隠し撮りするお前に言われたくないがな。


「てめえのやってることだって窃盗だ! 勝手に人のスマホを取ったんだからな!」


「へえ、でもそれをいうのならそっちだって暴行罪じゃないのか?」


「何言ってんだ、あれはお前がけしかけたから……」


「んー? でも俺はあなたを殴りましたっけ?」


「なにぃ?」


「考えてみてくださいよ。俺は一発も殴ってない、つまりこれは喧嘩じゃない、あなたの一方的な暴行だ」


 そう、確かに森崎を挑発したのは俺だが、俺の方からは森崎を一発も殴っていないのだ。


 俺の光と淳の風魔法で驚かせ、俺を殴ろうとする森崎の攻撃を一方的に受けていただけである。


 そして岸野さんの魔法にて怪我をしなかっただけで反撃は一切していないのである。


「俺のやってることは確かに窃盗ですよ。でもそっちがやってた女子の隠し撮りだって犯罪だし、この暴力行為もダメなことなのでは? あなたのことを学校にちくったらどうなるかな?」


 森崎は悔しそうな表情をしている。あと少しだ。あと少し押せばいい。


「保坂君は自分がいじめられてることを人に知られたくないからってことで誰にも言えなかったみたいだけど、俺は別に君に暴力振るわれたことは他人にばれてもかまわない」


 どんどん相手を追い詰めていく、この調子だ。


「お前のことも教師に伝えたらどうなるかな? 授業をさぼってる時に、実は女子の隠し撮りをして、さらにそれを売ってました。これは立派な犯罪だ。停学か……最悪退学かな」


「ちくしょう……!」


 完全に追い詰められ、森崎はその場に膝をつく。もう俺を殴ろうとしても無駄だと観念したのだろう。


「まあそんなにガッカリしないでくださいよ。俺も鬼じゃないんですよ」

「なんだと……?」

「じゃあ言う通りにしてくれますか?」


 プライドをズタズタにされた悔しさの中、森崎は俺を睨んだ。

「何をしろっていうんだよ」


「今すぐこのデータを削除してください。女子の隠し撮りそのものをやめて。そして保坂君に二度と絡まないでください。妹さんにも手出ししないこと。脅し行為も一切禁止。でなければ俺はこのことを教師やあなたの家族に伝える。そしたらどうなるかわかってますよね? もう誰からも信頼されなくなって学校に居場所もなくなるかもしれないのでは?」


「くぅ……」


 森崎にとっては完全に「詰み」だ。


 誇り高いプライドを傷つけられ、俺にとことん追い詰められ、もう強気を見せることもできない。


「そうそう、ちゃんとゲストも呼んでおきました。おーい、出てきていいよー!」

「はーい」


 トイレの影から俺と森崎のやり取りを見守りつつ、魔法で援護していた淳と岸野さんがぞろぞろと出てくる。


「終わったっすね」

「さっきのはばっちりスマホのカメラに収めましたわ」

「よし。その動画が森崎が俺を一方的に殴ってたって証拠になるな」


 俺は森崎とのやりとりを動画に撮るようにと仲間に伝えておいたのだ。


「くそっ、動画まで撮っていやがったのか!」


 さっきのやりとりは俺は何もしていなくて森崎がこちらを殴り、ただ一方的に暴力をふるったという証拠になる。喧嘩ではなく一方的な暴行だ。これで森崎は暴力行為をした証拠になるのだ。


 そしてゲストはもう一人。

「や、やあ……どうも」

「げっ。保坂!」


 仲間達と共に、ひょっこりと保坂君も現れた。

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