第20話 家へ帰ろう

 さらに翌日。幸彦がバイトに行ってる時間を狙って約束通りまた和美ちゃんに会いに行き、本当のことを洗いざらい話した。


 幸彦は元々結婚する気も交際するつもりもなく、ただの暇つぶし相手に和美ちゃんを家に置いていたこと、そのうち飽きて放り出すつもりだった。それどころか君を家に連れて帰ってほしいと俺に頼んできたのだと。


「というわけだよ。幸彦さんはそろそろ君が家に帰ってほしいと思ってたんだって」


 幸彦の本音を聞くと、和美ちゃんはショックを受けて口をぽかんと開けていた。


「嘘よ。だって幸彦さんは私とずっと一緒にいてくれるって言ったもの」


「あの男はこういう人だったんだよ。君のことは最初から本気にしていなかったんだ」


 自分のことを好きと思っていてくれると信じていた男が実は自分を突き放すつもりだったことと、結婚するというのは嘘でただ遊び相手にしていただけだと知って、声が震えていた。


「じゃあ例えば君は幸彦さんが他の女と一緒にいても、君はそれを許せるかい? 年の差がある君と、年の近い女の人がいたら幸彦さんはどっちをとると思う?」


 幸彦が女性とキスしていたことはあえて言わないが、それをふんわりと言ってみる。


「このまま家に帰らなかったら幸彦さんともしも別れても君は一人でやっていく覚悟はあるのかい? 仕事を見つけて、自分で住む場所を探して、生活をしていくなんてできるのかい?」

「それは……」


 中学生にそんなことはできないだろう。

 これまでは幸彦が自分の面倒を見てくれると言っていたからそれに頼るつもりだった。しかし、その希望はもう潰えたのだから。


「なんで、幸彦さん、なんで……」


 和美ちゃんはぽろぽろと涙を流した。

 信じていた相手に裏切られた怒りと悲しみでいっぱいなのだろう。


 自分を好きだと信じていた男の正体がそんな奴で、自分はそのうち見捨てられるとわかったからだ。 


 慰めになるかはわからないが、俺はこのまま彼女に言った。


「君はまだ若いんだから、きっとこれからも君に相応しい人が見つかるよ。まずは家に帰って、学校に行って、とりあえず中学校を卒業してから考えてもいいんじゃないかな。高校で彼氏を作ってもいいし、そのうち君に会った人が今度こそ見つかるかもしれないよ。君には今から生活を立て直すチャンスだってあるんだ」


 俺がそう言って励ますと、和美ちゃんは少し考えた後、こう言った。


「わかった。家に帰る」


 ようやく現実を見なければならないと受け入れたのだ。


「多分お父さんもお母さんも怒ると思う。家に帰らないで男の部屋にいたなんて知ったら、絶対怒る。けど、私ももう幸彦さんのところにいる意味なんてないしね。やっぱり私の居場所はあの家だけなんだって思った」


「そうかい。じゃあ幸彦さんにそのことを話してちゃんとお別れするんだよ」


「わかった」

 和美ちゃんは納得して、家に帰ると決めたのだった。








 数日後、宮下さんは部室へ俺達にお礼を言いに来た。

「市瀬先輩、本当にありがとうございました。妹がちゃんと家に帰ってきました」


 あれから俺が説得して和美ちゃんは家に帰ったようだ。

 宮下さんとご両親は妹が帰ってきて心から安心できたらしい。


 幸彦にもらったスマホも解約して、アクセサリーや服などプレゼントされたものも彼 に全て返し、家に戻ったら髪も黒く染め直したとのことだった。


「和美、家に帰ってきて高校行くんだって真面目に勉強するようになりました。今は毎日ちゃんと学校へも行ってます。男の人の家に泊まっていたことが両親にばれて怒られてましたが、和美も反省したようです。高校で自分に合う彼氏を作るんだってことで受験勉強に本気で取り組んでるみたいです」


「それはよかったですわ」


「あの子、ちゃんと自分がやること見つけたんすね」


 俺達のやったことは、ちゃんと依頼を達成したということだ。


「本当にありがとうございました」

「いやいや、俺達はこの部活の活動としての一環ですよ。また何かあったら相談してください」


  宮下さんは俺達に再びよくお礼を言い、本当に感謝していた。


  勇者パーティの依頼解決現代版、一つクリアだ。

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