第19話 幸彦の本音

 数日後、俺は平日に学校が終わった後、再びこの町に来た。


 幸彦という男がアルバイトをしているファミリーレストランに来た。


 和美ちゃんに幸彦のバイト先を聞いたのだ。

 最初はそれを教えるのを嫌がっていたが、幸彦と早く結婚できるように手助けしてあげる、と言ったら教えてくれた。


 幸彦は学生ではなく、かといって就職もしていない。

 バイトで生活をしているいわゆるフリーターというものだ。その為に収入には不安定なところがあるのでシフトを入れまくってるらしい。


 果たしてこんな稼ぎで本当に結婚することができるのだろうかと俺はそれを確かめに来たのだ。


 幸彦は大体朝九時から昼休みを挟んで夕方の七時までずっとバイトしているらしい。


 社会人と同じように日中はずっとバイトで働いてるということだ。


 時には深夜にシフトを入れることもあるらしく、フリーターにしては激務な方ではある。


 俺は幸彦と実際に会ってみて、どんな男なのかを確かめようとしたのだ。


 さすがにアパートで和美ちゃんのいるところで話すのはまずい。

 かといって他に幸彦さんが行く場所など把握できない。


 俺は今日、その幸彦のバイトのシフトが終わる時間を狙ってここへ来た。

 ファミレスで一般人の客を装う為に、ドリンクを注文してスマホをいじる。

 店内の様子を見てみると、あの幸彦がウェイターの制服を着て接客をしていた。

 最近は髪を染めていても働くことができるということであの茶髪のギャル男な外見だが、制服を着ていればまあまあイケメンには見えた。




 夜七時、幸彦のシフトが終わる時間を狙ってファミレスの裏口の駐車場ではって待機する。

 しばらくすると従業員専用のドアから幸彦が出てきた。制服を脱いで私服だ。

何やら女性と一緒だった。恐らくバイトの同僚だろう。


 駐車場のライトに照らされて、どんな女性かがはっきり見えた。


 女性の外見は茶髪でマスカラのきいたがっしりメイク、白黒のボーダーシャツにミニスカとブーツ、大きなブレスレットを腕にはめ、耳には大き目のリング状のピアスをしていた。まさしくギャルといった風貌だ。年齢は二十歳ほどで幸彦と同じ年だろう。


 女性と幸彦は親しげだ。女性と少し話すと、信じられない行動に出た。


「嘘だろ……?」

 幸彦がその女性を抱きしめてキスをしていたのだ。もちろん口と口で。


 どういうことだろうか? 和美ちゃんと交際しているのかと思いきや別の女性とそんな関係だというのか。あの男は二股しているということなのか。


 幸彦と女性は「じゃあね」と言っているのか互いに軽く手を振って別れた。


 女性が去っていき、幸彦が一人になったタイミングを見計らい、俺は彼に話しかけた。


「あの、すみません」

 突然知らない男子高校生に話しかけられ、幸彦は「んだよ」という表情で俺を見た。


「誰だあんた?」

「あの、あなたが和美さんとお付き合いしてる幸彦さんですよね」


 和美、という単語が出てきて幸彦はなぜそれを知ってると少し怪訝な表情をした。


「和美のダチか? なんでまたいきなり」


「和美さんは僕の友達の妹なんです。それで実は僕は和美さんのお姉さんに和美さんが付き合ってる男性を両親に紹介してほしいって言われたんです。和美さんに聞いたらここでバイトしてるって言われてお願いしようとここへ来ました」


「なんだそういうことか」


 幸彦はそれを聞くと納得したかのようにこう言った。


「じゃああいつのこと連れて帰ってくれねえかな」

「え?」


 出てきた言葉は和美ちゃんを匿うどころか逆に突き放すような言い方だった。

 紹介してほしいという話に賛成や拒否どころではなかった。


「あなたは和美さんのことが好きだから家で面倒見てるんじゃないんですか? 和美さんがあなたの家にいるのは、二人がお互いに好きだからじゃないんですか?」


「んなわけねーだろ。あんな中学生のガキを本当に相手にする訳ねえじゃん」

 幸彦はあっさりとそう答えた。


「ちょっとネットで話を聞いてやりゃあ、なんか俺のこと信頼してくるし、俺が家に来ていいっていったら本当に転がり込んできやがった。家事してくれるから楽だと思って家に置いてやってるけど、そろそろ面倒になってきたところだったぜ。まさか俺が結婚してやるって言ったのを本気にしてんのかわかんねえけど。いつまでいるのかなとか思った。俺も飽きたらあんなやつそのうち手放すつもりだし」


 幸彦は和美ちゃんのことを本気でパートナーにしたいと思っていたわけでもなく、ただの暇潰しの相手として見ていたのだった。SNSで知り合って、遊び気分で家に呼んでいただけなのだである。


「和美ちゃん、あなたと結婚しようと思ってるかもしれないんですよ」


「へっ。あんな言葉、マジで信じてんのかよ。あんなガキの面倒を一生見るなんて御免だぜ。勝手に俺の事信頼してっからそれに合わせてやってけどよ」


 幸彦、サイテーな男だな……。

 和美ちゃん、こんなやつのことを本気で好きだったのかよ。


「じゃあ、あなたはそれをなぜ和美ちゃんにはっきり言ってあげないんですか?」


「そろそろ言おうと思ってたけど、タイミングを逃してただけだよ。あいつ、なんかそれでまたわがまま言ってめんどくせえこと言うんじゃねえかってのがあったし。なんならあんたかわりにこれを伝えてくれねえ? そんで連れて帰ってくれよ。俺から言うと、あいつごねそうだし」


 言いたい放題だった。幸彦の本心はこれだったのだ。最初から遊び相手のつもりで和美ちゃんを家に置いていた。

 それに先ほどキスをしていた女性は恐らくそういう関係なのだろう。年の近い女性と中学生の子供だとどっちを相手にするかだなんて決まっている。


「なんなら和美の親に伝えてあいつのこと連れて帰ってほしいくらいだわ。じゃあな。お前もさっさと家に帰りな」


 幸彦はポケットから出した煙草にライターで火を付け、煙草をふかしながら歩いて行った。


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