第18話 結婚は本気になれる?
翌週の休日。今度は俺一人で和美ちゃんのいるアパートを訪ねた。
ドアの横のインターフォンを鳴らした。
中からぱたぱたという足音がドアに近づいてきた。
「はーい。……って、うげ」
部屋からは和美ちゃんが出てきた。
ドアから見える範囲では部屋の中に人の気配がなく、どうやら今は幸彦が家にいなくて一人らしい。これは好都合だ。
「何? またあなたなの? しつこいなあ。私、帰らないって言ってるでしょ」
どうせまた説得しにきたのだろうと、和美ちゃんはめんどくさそうに反応した。
「別に帰れって言いに来たんじゃないよ。今日はむしろ君にアドバイスに来たんだよ」
「アドバイス?」
「幸彦さんと結婚する為の。どうすればあの人に相応しいお嫁さんになれるかっていうアドバイス」
「幸彦さんと……結婚!? 本当にできるの?」
結婚という言葉に食いついてきたのか、和美ちゃんは声が高くなった。
幸彦といずれ結婚したいと夢を持っていた和美ちゃんが知りたそうなことだ。
「今、幸彦さんがいないならちょっと外の公園ででもお話しない?」
「男と外に行くなんてできるわけないじゃない。そんなの怪しまれるもん」
「じゃあ君が今どこに泊まってるかをお姉ちゃんに伝えるよ?」
「ひ、卑怯よ!」
脅しに近いが、こうして外に誘い出すしかない。しぶしぶと和美ちゃんは外に出てきた。
俺達は近くの公園のベンチに座って話すことにした。
「で、何を教えてくれるってわけ?」
無理やり外に連れ出されたようで不機嫌な声で和美ちゃんは言った。
「和美ちゃん、まずあの人とずっと一緒にいるにはどうしたらいいと思う? 幸彦さんとずっと一緒にいるのなら家事をするとか、一生支えるとかできる?」
「何よその質問。あたし、家事はちゃんと任されてるもの。料理だって得意じゃないけど、少しずつ覚えてるし、掃除も慣れてきたし」
「じゃあ、幸彦さんがどんな人でも付き合える?」
「当然よ! だって幸彦さんだって私のこと好きっていってくれたんだから」
「じゃあ、まずは君が本当に結婚するつもりならば家族にもちゃんと相手のことを紹介しなきゃダメとは思わないかい? 本当に幸彦さんことが好きならどこへでもついていく覚悟があるというのなら、それをご両親にちゃんと言わないと。駆け落ちなんてことになったらきっと君の家族は必死で探しに行って見つかったらかえって引き裂かれるだけだよ」
「それは……」
結婚するということは一生共にいるということだ。それは相手を家族に紹介せねばならないだろう。このまま駆け落ちするというのならばそれも相応の覚悟が必要だ。
「別にお父さん達に幸彦さんのことを紹介しなくたって、そのままお嫁さんになったってことでいいじゃない。きっと私が幸せなら親としてはどんな人と結婚してもいいでしょ」
「じゃあ君はあのまま幸彦さんと結婚して、そのまま家庭に入ってもう実家には帰らないということ?」
「そうよ。私はそれだけ幸彦さんのことが好きなんだから、その意思は変えない」
これは本気で言ってるのだろうか?
中学生というまだまだ子供の年齢だとことの重大さが分かっておらず、目の前だけしか見ていないようにも思える。
フィローディアにいたリーマという少女は本当にジーグと結婚する為にと必死になっていた。
とてもだがあの世界でいうその状況よりも現代日本という平和な国では世間をよく知らない甘えな思想も入ってるような気がする。
「わかったよ。じゃあさ、一つだけ約束してくれる?」
「何よ?」
「近い日にまた俺がここに来る。その時、また俺と話してほしい」
「何それ、めんどくさ」
「そう言わないで。俺、ちゃんとしたアドバイスできるかもよ」
和美ちゃんはいまいち不服そうな態度だったが俺はこの日、和美ちゃんと一つの約束をした。
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