第21話 勇者パーティ、能力覚醒

  一つ目の依頼を解決した後、俺達は話し合いを始めた。


「これで最初の依頼は解決できたな」

「うまくいったっすね」

「あとはこれをフィロ伸様に報告できればいいんですね」

「僕も楽しみです」

 宮下さんが部室に来ている間は俺のポケットに隠れていたモモ太も顔を出した。


「しかしこのことをどうやってフィロ神様に伝えればいいんだ? あれから夢の中にも出てこないし、もう俺達の前に現れないよな。いったいどこにいるんだ? 探すっていったって見当つかないぞ」

「その必要はないぞ」


 ぼん、という煙が舞い上がった。


「わっ」

「フィロ神様!」


 噂をすればなんとやらか。フィロ神が俺達の前に現れた。本当の意味で神出鬼没だな。


「よくやった。お主たちの様子を見ておったぞ。その間にわしが魔王の様子を見張っておった。姫のことも探しておる」


「探して、ってことはまだ見つかってないわけですか」


「こほん、まあそれは言うな。そんなことより……」


 フィロ神はとん、と床に杖をついた。


「お主達が徳を積んだことで、あの世界の勇者の能力が呼び覚まされたようじゃ。お主達が前世で勇者だった頃に近いことをしたからじゃろう」


「そういえば今回の依頼はフィローディアでやった依頼と似てましたね」


「家出した娘を説得するという依頼をこなしただろう。あちらの世界ではその娘を嫁に行かせるようにと説得した。こちらでは親元へ帰すという選択肢だったようじゃが、依頼の内容は同じじゃ。あの世界かこの日本かの文化の違いじゃな」


 あちらの異世界では和美ちゃんと同じく家出して男の家にいた十五歳のリーマという少女を説得し、嫁にいけるようにと説得した。


 この世界のこの日本では十五歳では結婚は難しいのだから説得して親元へ帰すという世界と文化の違う結果にはなってしまった。それぞれの世界によって文化も文明も法律も違うものだしな。


「お主達がその依頼をこなしたことで、お前に一つの能力を覚醒させよう」


「そんなことできるんだったらもっと早くそうしてほしかったっすよ」


 淳は愚痴る。なぜその能力覚醒にプロセスを踏まねばならないのか。


「そうは言ってものう。お主達の精神があの世界のことを思い出さないと能力は引き出せないのじゃ。お主達はあくまでもこの世界ではあちらのことを知らないままこれまで育ったのじゃから」


「意味がわかるようでよくわからない理屈ですね」


 前世に近いことをして心の中をあの頃に近づけることが覚醒の条件だというのか。それは面倒だ。


「ではお主達にあの世界で持っていた能力を覚醒させよう。それい」


 フィロ神は俺達に向かって杖を一振りした。


 杖からキラキラとした光が発生してそれが俺達に降り注いだ。

 ぱああ、と俺の中に何かが宿る感覚がした。


「あ、これ……」

 俺の頭の中に懐かしい感覚が戻ってきた気がした。


 この世界では今まで忘れていた、あの世界で使っていたパワーが目覚めるようだ。

 これがあれができるのでは、と俺は両手をかざして念を込めた。


「これは……」

 手のひらが温かくなり、ふわっとした金色の光が放たれていた。


「まずお前が覚醒するのは勇者イセトだった頃の光の魔法じゃ」


 これは勇者の家系にだけ伝わる能力である。

 勇者ならではのその家系により、光を使う能力だった。

 噂ではその光は悪しき心を浄化させるという噂もあった。


 残念ながら勇者イセトの代ではただ光を放つだけでその効果は失われていた。


 ただしこの力には本当の意味でその力を付加させる条件がある。


 あの世界の王家であるミゼリーナ姫の歌と共に勇者パーティが全員で力を一致団結させることでことでその能力をさらに発揮するといわれていたのだ。


(ご主人、ご主人)

 そして頭の中に直接声が響いた。これはモモ太の声だ。


 耳から聞こえる声ではなく、直接的に頭に響いている。


(わあ、ご主人と僕の意思が繋がってます)

 勇者イセトと常に心を繋げるテレパス。


 勇者の相棒となる使い魔の召喚獣のミニドラゴンに覚醒する能力だ。

 代々の勇者は使い魔との意思疎通により、相棒として互いで協力していたのだ。


「それになんだか力がもりもり湧いてきます」


「お主、ポフィは身体能力が上がった。この世界でいうハムスターよりも素早く動けるし、筋力も強く小柄な体系でも重い物も運べる。全身がかなり強化されておるぞ」


 元がミニドラゴンなのだからその能力を覚醒させたのだ。


「俺は風の扱う能力っすね」


 淳が手に力を籠めると、机の上にあったプリントなどの書類がふわり、と床に落ちた。

 窓を開けてない閉め切った室内なのでこれは外からの風ではない。


 ジュディルは風の一族の戦士だった。


 一族としては精神が弱弱しいへたれ戦士だったが、それでも立派な能力持ちではあった。ただし、その能力をうまく使えず一族では落ちこぼれではあった。


 だがそれでも一般人よりは特殊能力持ちということで役には立ったのだ。


「私は守護の魔法ですわね」

 ラミーナは僧侶だったので援護する補助魔法だ。


 防御力を上げる魔法と攻撃力を上げる魔法。

 直接的な戦闘要員ではないが、援護というのには役に立つ。


「これがあれば俺達、強いかもっすね」

「ああ。これはある意味この世界でも無双できたりしてな」

「私もこの能力で人を助けることに役に立てそうですわ」

「僕もこれでご主人のお役に立てるです」


 それぞれが自身の能力の覚醒に驚き、俺達は自分が強くなった気分になって舞い上がった。


「お前達の力が一つ覚醒したということは、姫を探す手がかりに一歩近づいたということじゃ」


 これで俺達はさらに前世の勇者に近づいたというわけだ。


「これからも頼んだぞ。その能力を生かすのじゃ。かつての勇者達よ。この世界を魔王から守ってくれ。わしも懸命に姫を探す仕事に戻ろう。では、わしはここで退散するかの」

「はい、わかりました。これからもやっていきます」


その言葉を聞くと、フィロ神はぼむっという音と共に消えた

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