第7話 俺達に与えられた使命
「お前達が無事に合流出来てよかったわい。といっても同じ学校の生徒じゃったのだからな」
パソコン画面に映っていたのはまさにそのフィロ神そのものだった。噂をすればなんとやらだ。
でもなんで夢の中じゃなくて現実世界で?
「フィロ神様、夢の中だけじゃなくてこんなとこにも出られるんですか?」
「夢の中ではない現実だとわしがお前達と通信できる時間は限られておるがな。なので今は限られた時間にしかここにいれん」
「タイムリミット有りってことですか。じゃあ夢の中で言ってたことを早く説明してくださいよ」
まずはそれを知らなければ話にならない。
夢の中で言ってたのはなんだったのか。
「ふむ、時間がないから長々と説明はできんが、やるべきことをしんぜよう」
こほん、とフィロ神は説明を始めた。
「この街に危機が迫っている。魔王が復活をしようとしているそう言ったじゃろう」
「ええ。そうおっしゃってましたね。ですがこの世界ではどういう意味です?」
ここには魔法なんてものもなく、魔王といった存在はいない。あれはどういう意味か。
「思い出してみい。お前達は姫を助けに魔王討伐へ行ったじゃろう。それがフィローディアでのお前達の役目じゃった」
「そうですけど……それとあの話になんの関係が?」
それはあくまでもフィローディアでの話だ。この地球での世界には関係ないのではと思う。
「実はな、近々この町で魔王はその姫の力を利用して復活を遂げようとしている。この世界にも姫がいるということがわかったのじゃ。そしてそれを魔王が狙っておる」
「なんだってっ!?」
「この世界にミゼリーナ姫がいるってことっすか?」
「そうじゃ。間違いなくこの世界のどこかにも姫が誰かに転生しておる」
この世界に転生したのは俺達やモモ太だけじゃないのか?
フィローディアで俺達の目的だったあの姫までここに転生しているというのか。
「魔王はここでも姫を攫おうと考えておる。この世界のどこかにいる」
魔王は姫を攫い、その上でさらに世界を支配しようとした。
「お前達、姫がなぜ攫われたかを覚えているか?」
「ええと……」
俺達はそのことについて思い出した。
それは大事なことだった。
「確か、魔王は姫を生贄にすることで、膨大な力を手にして世界を支配しようとした、ですよね」
「その通りじゃ」
魔王の名前はロージド。
かつて古代に封印された魔王だったが復活を遂げた。
しかし、その身体は未成熟で、フィローディアの王家に代々伝わる不思議な力を持つ姫を攫い、姫を儀式の生贄に捧げようとしていた。
その為に姫を必要としていた……というのを冒険中に何度も町の人々や権力者から聞かされていた。
フィローディアの王家には言い伝えがあった。王家の者には歌声に不思議な力を持つという能力があった。
それを受け継ぐのは王家に生まれる第一王女のみ。それがミゼリーナ姫だった。
ミゼリーナ姫の歌声は癒しの効果や力を増幅させたり、精神力を上げることができる特殊能力があった。
魔王はそれを欲しがっていたのではないかと噂されていた。
「ええ。覚えていますとも。それが俺達の目的だったから」
「そうじゃ。そして今、この町で近々同じことが起きようとしているのじゃ」
「つまり、こちらにもミゼリーナ姫が私達のように誰かに転生していて、その姫を狙って魔王がここに現れるってことですか?」
「そうじゃ。その為にフィローディアのゲートが魔王によってこじ開けられようとしているのじゃ」
「ゲート?」
フィローディアはここから異次元の世界だ。この地球とは全く繋がりがなく、この地球のどこにもない場所だ。
なのでフィローディアのことを知る人物はこの世界には俺達以外にはいない。
魔王という存在はあくまでもここからすれば異次元であるフィローディアのものであって、この世界にはフィローディアとの接点はない。
この世界からすればフィローディアは存在しないものなのである。
「わしがお前達の記憶を覚醒させに来たのはその為じゃ。魔王の行動を今はわしが監視しておる。しかし、わしはあくまでもフィローディアの存在であってこの世界の者ではない。この世界で起きる出来事にわしは干渉できないのじゃ。じゃから、この世界で起きることはこの世界に生きるお前達にしかどうにもできん。転生してこちらの世界の人間となっているお前達だけが、かつての勇者の魂という繋がりで魔王と戦うことができる」
「んな無茶苦茶な……」
これまで普通にこの世界で生きていたのに、突然魔王がここに現れるという超常現象もいいところな話をし、その為に記憶を覚醒させたというのだ。そしてこれをどうにかしろと。
「では、姫ってのは誰なんすか?」
まずはその姫とやらがこの世界のどこにいるのかがわからないければ話にならない。
姫が俺達のようにこちらの人間としてこの世界に転生してどこかにいるとなれば、それは一体どこの誰なのか?
「それはわしにもわからん。お前達と同じようにこの世界に転生したというのじゃから、このどこかにいるのは間違いない。しかし、それはどこにいるかはわしにもわからんのじゃ」
「なんで勇者パーティの俺達の元に現れたのに肝心の姫のことはわからないんですか?」
「お前らは旅立ちの時にわしの天啓を受け、そしてわしの加護を与えたじゃろう。お前達の魂の一部はわしと繋がっていたのじゃ。しかしな、姫はある事情があってわしとは繋がれなかったのじゃ」
「ある事情?」
「それは今は話すことができぬ。後々説明しよう」
「えー……」
なぜ肝心なことを教えてくれないのか。それだって大事なことじゃないのか。
「この世界でお前達が再会できたのは元々姫を探す旅に出る際に教会でフィロ神に祈り、そこでお告げをもらった者同士じゃった。勇者一族に使い魔として相棒となるポフィはフィロ神により召喚されたドラゴンであり、ジュディルとラミーナに出会えたのはお互いがわしのお告げをもらった者同士ということに引き寄せられ、出会うことができたメンバーだったのじゃ」
ということはあの世界でも俺達が仲間として巡り合えたのは偶然ではなくそういう理由だったのか。
「じゃからお前達をこの世界でも引き合わせることができたのじゃ。なのでお前達の使命はこれじゃ。姫を探せ。そして魔王復活を止めろ。この町の未来はお前達にかかっている」
「うーん……。ということはまず姫探しからですか。この世界のどこかに姫がいるだなんてそんなの広すぎますよ」
「安心せえ、じゃからわしも姫を探すのじゃ。むしろ、フィロ神としてわしが一番探さねばならぬだろう。わしも姫を探すことに力を入れよう」
「フィロ神様が?」
「うむ。わしも姫を探すことに労力をつくすことになりそうじゃ」
確かにフィローディアの姫なのだから、それはその世界の神であるフィロ神が探すことが一番の手がかりだ。
その世界そのものの神なのだから、フィローディアの重要人物も探すことができることに近いのではないか。
「じゃが、ただわしが探すだけはいかん。お主達は時間を無駄にしてはならぬ。わしが姫を探している間に、お前達もこの世界で姫と魔王の件に繋がる手がかりを見つけるのじゃ」
「手がかりっていったって、そんなの何をすればいいんですか?」
前世では勇者パーティだとしても、俺達はこの世界ではごく普通の高校生だ。
政治家でも総理大臣でもない。なんの権力も持っていない一般人なのである。そんな俺達に何をしろというのか。
「お前達は前世で何をしていた?」
「何をって……そりゃ、姫を救う為に魔王を倒す旅をしてましたよ」
「そうではない、その場所へたどり着くまでに色々やっていたことがあっただろう」
「そういえば旅の途中で色んな町に寄って……色んな人に出会いましたね」
ゲームの世界のように、魔王の元へ辿り着く移動手段や手がかりなど情報収集に町へ寄って困っている人々を助けていた。
勇者の役目とはただ目的に向かって進むだけでなく、そうやって地道な人助けも必要というのがあの世界のしきたりだった。
「そうじゃ。それをこの世界でもやってもらおう」
「ええー!?」
一斉に声が挙がった。なぜ勇者でもない普通の俺達がそんな大変なことをやらなければならないのか。
「そんなの大変ですよ。俺達、ボランティア活動をしてるわけじゃないんですから」
「俺達は権力者でもなんでもないんすよ。そんなことすることが有益なんすか?」
「でも確かに勇者一行といえば前世ではそんなことをしてはいましたけど……」
色々言う俺達にフィロ神は「コホン」と咳払いをした。
「姫を探す手がかりにはこの世界で勇者の時にやっていたように前世と近いことをすれば、その度におぬし達が前世に近づいたということで能力を覚醒させることができるかもしれないわしが姫を探す間に、お前達もここで姫との捜索のついでに人助けをする。そうすることで目覚めるその能力を使えば、姫を探すこともできるかもしれぬ。お前達の記憶は今は不完全じゃが、そういうことをしていれば徐々に様々な出来事を思い出すはずじゃ」
「力を覚醒って、じゃあそれはすぐに覚醒させることできないんですか?」
そんな能力があるんなら今すぐそれを使ってくれ、と言いたいところだ。
「しかし時間がない。わしはそろそろもう行かねばならぬ。また何かあったらお前達の元に来よう」
「え、待ってくださいよ」
「頼んだぞ、勇者達よ」
フィロ神はそう言い残すと、パソコン画面から消えた。
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