プーシーのお休み

碧衣 奈美

第1話

 プーシーはもこもこの、まっしろな毛のひつじ。

 みんなが眠っている時に見る、夢の世界に住んでいます。


 プーシーや夢の世界にいるひつじ達は、

 夢の世界の神様からとっても大切なお仕事をまかされています。


 誰かが怖い夢を見そうになったり、怖い夢を見ると、

 夢の世界に雑草が生えるのです。

 夢の世界が、怖い夢の元になる雑草でいっぱいにならないために、

 プーシー達はその雑草を食べる、というお仕事をしているのです。


 でも、今日はお休み。

 プーシーはとってもたかーいねむねむの木の下で、

 のんびりと過ごしていました。

 あたたかな陽射しの中、プーシーがうとうとしていると……。


ぽんっ


 プーシーの頭に何か当たりました。

 もこもこの毛のおかげで痛くはありませんが、プーシーが目を覚ますくらい、

 はっきりと当たったことがわかりました。


 目を開けると、そこには箱……プレゼントの箱のようなものが落ちています。

 ピンクのラッピングに赤いリボンの、かわいい箱。

 プーシーが不思議に思っていると、プレゼントの箱が何十個も落ちてきました。


「あああっ、ごめんなさいっ」

 そんな声がして、プーシーがそちらを見ると、

 短い金色の髪の男の子が現れました。

 赤い上着に赤いズボン。

 プーシーのように白いもこもこした毛が、袖やすそにふちどりされています。


「だぁれ?」

 夢の世界では見たことのない男の子です。五歳か六歳くらいでしょうか。

「ぼくはカイ。きみは?」

「プーシーだよ。この箱はカイのもの?」

「ごめんね。迷子になって、この木に引っ掛かったら

 プレゼントが落ちちゃって……」

 カイはきれいな青い目をしていますが、

 その目からは今にも涙がこぼれそうです。

「これ、ぜんぶ?」

「うん。これをサンタさんの所へ持って行くのが、ぼくの役目なんだ」


 サンタさん

 聞いたことがあります。

 一年に一度、よい子にプレゼントをくれるおじいさん。


 カイはそのサンタさんのお手伝いをしているそうです。

 目の前に落ちているプレゼントの箱は、

 これからサンタさんが子ども達にあげるもの。

 カイはプレゼント工場からサンタさんの所へ持って行く……はずでした。

 でも、どこかで道を間違えしまったようです。

 ねむねむの木にそりが引っ掛かってしまい、

 載せていたプレゼントが全部落ちてしまったのです。

 カイのそばにはそりがあり、荷台には何もありません。

 本当はここに、たくさんのプレゼントが載っているはずなのです。


「早く集めなきゃ」

「お手伝いするね」

「ありがとう」

 カイと一緒に、プーシーは転がっているプレゼントの箱をくわえると、

 そりへと運びます。

 ふたりでがんばると、プレゼントはすぐに集まりました。


「みっつ、足りない……」

 プレゼントを数えたカイが、また泣きそうな顔になりました。

「この近くの夢にころがったのかも知れないよ」

「そうなのかな。近くまで行けば、何となくわかるんだけど」

「じゃあ、行ってみようよ」


 プーシーとカイはねむねむの木のそばにそりを置いて、近くの夢に入りました。

「さ、さむーい……」

 その夢の中は、氷でできていました。

 しかも、氷の雑草が生えています。

 このままにしておくと、氷の雑草が氷の木になってしまうかも知れません。

「この近くにありそう?」

「うん。そんな気がする」

「これを食べたら、みつかるかも」

 プーシーは氷の雑草を食べ始めました。

「あ、あった!」

 カイが言った方を見ると、氷の中に赤いプレゼントの箱があります。

「この夢、好きな子とケンカしちゃった子が見てるみたい」

「そうなの? じゃ、サンタさんに言って、この赤いラッピングみたいに

 温かくなるものをあげてもらおうかな」

「そんなこと、できるの?」

「うん。サンタさんなら、そうしてくれるよ」

 それを聞いたプーシーは、がんばって氷の雑草を食べ続けます。

 雑草がなくなると、氷が溶けてプレゼントが出て来ました。

「よかった。ひとつ、見付けられたよ」

「ここには、ひとつだけ?」

「そうみたい」

「じゃあ、別の夢に行こう」


 プーシーとカイが次に来た夢は、さっきとは違って周りが燃えていました。

 ここにも雑草が生えていて、火でできています。

「プレゼント、ありそう?」

「うん。ここのどこかだよ」

 プーシーは火の雑草を食べ始めました。

 夢なので熱くはありませんが、こんな雑草は初めてなので

 ちょっぴり怖く感じます。

「あそこだ」

 カイが言う方には小さな焚き火があり、

 その中に青いラッピングの箱がありました。

 プーシーが雑草を食べていくと、火は小さくなっていきます。

 怖くて手を出せなかったカイも、ほとんど火が見えなくなると

 プレゼントの箱を持ち上げることができました。

「この夢を見てる子は、お母さんに叱られたのかな。自分は悪くないのにって」

「そっか。じゃあ、気持ちが落ち着くものをあげるといいかもね」


「プーシー、ここ……暗いよ」

「そうだね。こんな暗い夢、初めて」

 次に来た夢は、夜みたいな夢でした。

 真っ暗くらではありませんが、周りに何があるのかよく見えません。

「プーシー、あっちの方、何か光ってるみたい」

 暗い中で、ぼんやり光っているものがあります。

「きっと、プレゼントだよ。そんな感じがするから」

 でも、暗くて怖くて、カイは前へ進めません。

「ここにも雑草が生えてるみたい。食べたら明るくなるのかな」

 プーシーはちょっぴり当てずっぽうで、雑草を食べました。

 想像していたように、周りが明るくなることはありません。

 でも、プーシーが食べた所が、ほんのりと明るくなりました。

 プーシーはそのまま、光っているものへ向かうようにして、雑草を食べます。

 やがて、見えた光のそばまで来ました。やはりプレゼントの箱です。

「この夢を見ている子は、一人でさみしいみたい」

「そうなんだ。じゃあ、この黄色いラッピングみたいに、明るくなれるといいね」

 カイがそう言うと、プレゼントの箱がランプのように見えます。

 そのおかげか、ここへ来た時よりも周りが明るくなったように思えました。

「みっつ目だね。これで全部?」

「うん。プーシー、ありがとう」

 カイはお礼を言いながら、頭に手をやりました。


「あっ、ぼうしがないっ」


 帽子を取ってプーシーにお礼を言おうとしたカイでしたが、

 そうすることで、ぼうしがないことに気付いたのです。

「どこで落としたんだろう」

「ねむねむの木のそばで会った時、カイはぼうしをかぶってなかったよ」

「えっ。じゃあ、ずっと前からなかったんだ」

 プレゼントなら、近くにあれば何となくわかるカイですが、

 自分のぼうしはそうもいきません。


 プレゼントの箱をみっつも持っているので、

 プーシーとカイは一度ねむねむの木まで戻ることにしました。

 そりにプレゼントを載せたものの、カイの顔は晴れません。

「どんなぼうしなの?」

「赤いぼうしだよ。この服みたいに、白いふわふわがついててね……」

 カイには、どこでぼうしを落としたのかわかりません。

 どこをさがせばいいのでしょう。

 もし夢の世界でぼうしを落としたとしても、夢の世界は広いのです。

 すぐに見付けるのは、大変でしょう。

 困ったプーシーは、ねむねむの木を見上げました。


 あれ? ねむねむの木って、お花が咲くんだっけ?


 みどりの葉っぱがいっぱいの、ねむねむの木。

 そこに、赤いお花のようなものが見えます。


「あっ、あれ。ぼうしじゃない?」


 プーシーに言われ、カイもねむねむの木を見上げました。

「ほんとだ。ぼくのぼうし!」

 カイのぼうしは、ねむねむの木に引っ掛かっていたのです。

「……どうやって取ろう」

 そりなら空を飛べますが、ぎりぎりまで木のそばを飛ぶのはむずかしそうです。

「ねむねむの木、カイにぼうしを返してあげて」

 言いながら、プーシーはねむねむの木の幹を揺らしました。

 木は大きいので、そんなに揺れることはありませんでしたが……。


「あ、落ちて来た」

 ぼうしがねむねむの木から落ちて来たのです。

 カイはぼうしを拾ってみましたが、どこも破れている部分はありません。

「ありがとう、プーシー、ねむねむの木。

 これでぼく、サンタさんの所へ行けるよ」

 カイはプーシーをぎゅっとして、そりに乗りました。

「サンタさんにお願いして、プーシーに特別なプレゼントを運んでもらうね」

「やった。楽しみにしてるね」

 ぼうしをかぶったカイがそりをあやつり、空へとすべり出します。

 そりはきらきらしながら空を走り、すぐに見えなくなりました。

「特別なプレゼント、楽しみだなぁ」

 ねむねむの木の下で座ると、プーシーはまたうとうとし始めました。

 プーシーへのプレゼントは何でしょうね。

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