無表情の少女はソロで迷宮を探索してます
スイ
プロローグ
現代社会に前触れもなく出現した迷宮。魔力が満ち溢れていることで、迷宮内には魔物が存在しており、政府は安全が保障できるまでは立ち入りを制限した。
迷宮の存在に恐怖を抱く人もいれば、ロマンを感じて足を運ぶ人たちも存在しており、政府の制限を無視するように迷宮内で活動を始める人たちが出現し始めた。
彼らが持ち帰った情報はそれまで退屈な日々を過ごしていた人たちを歓喜に導き、彼らに続けと言わんばかりに続々と迷宮に足を踏み入れる人たちは増加し、政府は自重を促していたが、国民の高まった熱量は国の上層部には利益に感じたのか、専門の部署を作り、法律の制定。資金の確保と活動している人たちを後押しするように、様々な政策を打ち出していった。
国民にとっては迷宮の探索は憧れでもあり、ロマンを追い求める。危険が潜むスリルを肌で感じながら、エンタメ事業へと変わっていった。
*****
薄暗い洞窟。安全地帯でスマホの照明で配信のセッティング。
「………見えてる?」
撮影用のドローンは空中に飛び、空から私の様子を撮影しており、映像はリアルタイムで視聴者に届けられる。
・みえきこ
・見えてるよ!
・今、昼休みだから助かる
・下層なんだね
「下層で鉱石を集めながら探索します」
・了解
・葵ちゃんが下層にいるのは珍しい
・ここは初心者にとっての登竜門のような物だから
迷宮の中でも下層に位置するこの場所はモンスターの数は多くなく、探索者として活動し始めた初心者が最初に通る登竜門だ。
・雑談はなし?
・葵ちゃんはそういうのはやらないんよ
・最近、聞いた話はコンビニのポテトが美味しかったことだけだなw
・わかる セブ〇のポテト上手いよね
配信者の多くは日々の出来事を雑談として話す。私の場合は日々の出来事を視聴者に話せるだけのネタはないし、話すのも疲れるので基本的にはやらない。
「………私の配信はエンタメ成分薄めだから」
・知ってる
・それを知らないやつは個々にいない
・初期の頃から見てるけど変わらないからね
・愛想なし、無表情での探索。だが、それがいい
私の配信のスタイルとしては基本的にはソロで会話量としては少なめ。駆け出しの頃からこのスタイルで始めており、視聴者の数としては100人と人から見たら少ないと思われるけど、こんな私を見てくれるだけでありがたい。
・女性の探索者ってナンパされるってよく聞くけど
・葵ちゃんはないよ
・ないないwww
視聴者の年齢層としては私よりも上。社会人の経験が豊富なので、彼らのコメントは参考になるし、相談相手として頼りにしてるんだけど……。
「………個々の皆、私に対して厳しすぎない?」
・孫を見守る気持ちで見てるから
・まだ未成年なんだよね
・親としてこの子は厳しくしないとダメって思ってる
・視聴者に葵ちゃんの親がいて草
私の両親はたまに配信を見るそうですが、基本的にはコメントしないみたいです。
・活動を始めてから3年が経過するから、知名度としては上がってきてほしいんだけどね
・ソロだから厳しいだろうね
・パーティーはメディアにも出るから露出度は高いんだけど……
・葵ちゃんがメディア対応で困っている所を見たい
探索者が職業として認定されてから、私は高校の卒業の後、職業として働く際の資格を受講。資格を取得後に職業として活動している。
(私、そんなに人気になりたいわけじゃないし、自分が好きだからここにいるって感じ)
探索者を目指したきっかけは未知の世界に自分の居場所があると思ったから。退屈な日々の中で刺激を求めている自分もいたし、迷宮での活動で学ぶことは多い。
(資金的にも困ってるわけでもないし)
探索者は支出の方が多い。武器の強化、回復用のアイテムの調達。健康管理など、報酬で得た半分くらいは支出に回しているんだけど、今の所は生活に困っていることはない。
・葵ちゃんって何でソロで活動してるの?
・無表情+無愛想だから
・塩対応してるから
・ソロで活動する要因しかないんだよなぁ……
私がソロで活動している理由は感情を表に出さない無表情な所とメディア向けではない無愛想な所。
・配信している理由は?
・規則で決まってるから
・活動の項目に書いてあるんよ
こんな私が配信をしている理由はシンプル。
『探索者の資源の独占禁止。迷宮内での活動は映像として提出すること』
国が定めた法律の1つに迷宮での活動の際には映像として記録する事。探索者の資源の独占を防ぎ、国外への流通を通じて各国の戦力増加を防ぐため。
「身元がわかるようにしてるのもある。迷宮内での活動で命を失った際に映像で残しておけば、特定は出来るから」
・葵ちゃんは……その……見たことがあるの?
「………ありますね。出来れば見たくないんですけど」
迷宮で命を失うケースは少なくない。判断を1つでも間違えば命を失う。ここはそういう場所だ。
(見つけた。結構荒らされてるから見つけるまでに時間かかっちゃった)
四方系の形をしており、銀色に輝いている鉱石。下層は鉱石の数は多いけど、大半は初心者が持っていくので、見つけるまでに時間がかかった。
・鉱石って市場に出てるよね?
・昔は少なかったけど今は数が増えて手に入るようになった
・何で?
・初心者が最初に狙うのが鉱石だから。金になるし、魔石よりは価値がさがるけど、生活の足しにはなるから
私が駆け出しの頃は市場に鉱石は出回っていたけど、数としては多くなかったので買い取り金額としては5万を超えるくらいの取引が可能だったけど、今はルーキーが最初に狙うのが鉱石なので、市場に多く流れるようになったことで、価値は下がった。
(知り合いの職人に頼まれたのもあるけど。保有しておけば、役に立つ)
ポーチからハンマーを取り出して鉱石を砕く。迷宮内に鉱石を砕く金属音が響き渡る。
・鉱石を砕いている所、可愛い
・小動物みたい
・耐久動画はよ
鉱石を砕き終えてから、鉱石をポーチに仕舞うと音に反応したのか暗闇の先から赤い瞳孔が輝く。
・魔物だ
・そらくるよね
・ゴブリンか
緑色の体。手にはこん棒を手にしており、小学生くらいの身長、150センチくらいのゴブリンがやってきた。
・子供か
・種類としては子供
・ここからは昼食中の人は見ないほうがいい
視聴者が警告をしてくれたので、心の中で彼らに感謝しながら、私はハンマーを仕舞うと、ポーチから青色に輝く指輪を親指に装着する。腰に装備していた刀の鞘を抜き、銀色に輝いている刀に所有者の風属性を読み取り、刀の先端には青色の光が付与される。
・風撃
・所有している武器に属性を付与して強化する魔法
・カメラ、葵ちゃんだけを追ってよ
弓矢で的を射抜くように体でタメを作り、先端に集まった魔力を矢を放つように解放する。待機中の空気を集めたことで高まった魔法は青白い渦巻となって2体のゴブリンを飲み込む。
・お見事
・一撃かな?
・ゴブリンの悲鳴が聞こえた!?
・緑色の血も見えたよ⁉︎
目の前の景色を阻害するように発生した砂塵が晴れる頃にはゴブリンの姿はなく、赤い魔石へと変化していた。
・奥にいるよね
・いるはず
・子供だけってことはないやろ
私も同感。子供だけってことはないと思うから奥に親玉がいるはず。
「奥に進みますね。ここからはグロイと思うので警告しときます」
・了解!
・気を付けてね!
・やばいと思ったら逃げてね!
奥の道を進んでいく。巣穴に近づいていくにつれて人の足音のような物を見つけた。
・なんかやばくない?
・足跡から判別するに1人の可能性が高い
・1人でいた所を襲われたって感じ?
・そうだろうね
足跡は巣穴の近くで消えており、その証に入り口には無数の赤い斑点が雫のように垂れていた。
・あれって……
・血だね
・人間の血だね
巣穴に入ると血の匂いは濃さを増していく。血の匂いを辿りながら、奥へと進んでいく。
(いた……)
巣穴の最深部、2メートルの巨体のゴブリンたちは女の子を岩に寝かせており、腹部を爪で切り裂き、動けない獲物を前にして食事を楽しんでいた。
(これは全力で行った方がよさそうだ……)
数としては3体。帰り道のことを考えて魔力を残しておこうと思っていたけど、相手の数と余力を残している余裕はないと判断する。
群れのうちの1体が私に気づくと、大柄な巨体はアメフト部員がタックルを仕掛けるように突進し、待機中の空気で盾を作り、突進してきたゴブリンを跳ね返す。
・風盾
・大気中の空気でシールドを作る。防御魔法
体制が崩れたゴブリンの体が地面に到達する前に風の属性で生み出した弾丸で胸部、心臓の部分を射抜く。
・風弾
・風魔法で生み出した弾丸を打ち出す魔法
1体目は胸部を射抜いたことで少しの間は苦しそうに地面を転がっていたが、心臓の鼓動が停止すると、魔石へと変化する。残りの2体を片方ずつ相手にするのは魔力の無駄になると思い、2人が女の子から離れた隙を狙うように。2体を女の子から離れた場所に閉じ込めるように巨大な風の檻を生成。
・風束
・風魔法で相手の動きを封じる拘束に使われる魔法
・それと風圧やね
・閉じ込めている間に治癒するんかな?
・治癒の前に倒すやろ
檻の中で暴れている2人の頭上、筋トレに使われるベンチプレスのように、風の重りで動きを封じる。檻の中の酸素量は少なく、頭上から押しつぶされていることで、暴れれば暴れるほどに酸素を失う。
(体力的にまともに相手にするとこっちが追い込まれるから)
プロレスラーと一般人がリングに上がるとしたら、体力的、腕力で経験者が優る。檻の中は酸素がないから、頭上からの圧迫と窒息によるコンボで体力は低下していく。
(これ、結構きついんだよね……)
2つとも魔力をかなり消費する。維持するのも疲れるから、普段はあまり使わないんだけど、大柄な相手にには1番有効な魔法だった。
檻の中で窒息したゴブリンは瞳のハイライトは消滅し、生命活動を終えたように、巨体は音を立てながら地面に倒れる。
(魔石に変わった。他には仲間はいないみたいだね)
2体が魔石へと変化し、他の仲間がいないことを確認してから檻を解除する。
・葵ちゃんお疲れ様
・肩で呼吸してる
・結構しんどいだろうね
二つとも魔力の消費量は大きいから、消耗は激しい。ポーチに入っている回復用のポーションの薬品の瓶を開ける。
(うっ……⁉︎)
瓶を開けると薬品特有の苦い匂いが鼻を覆い、渋い顔をしながら、鼻を掴みながらポーションを流し込む。
「苦い………」
・泣いてるw
・余程苦かったんだろうな……
・ポーションって漢方薬だからね
・それを水なしの一気は……
味は苦いけど効果としては即効性で失った魔力が戻ってきた。
「……」
茶髪の女の子は青白い顔でぐったりとしており、苦しそうに呼吸をしている。
(まずはここから……)
治癒魔法で止血し、傷を癒し、回復を促す様に細胞に働きかける。
・これはあくまで応急処置だから
・治癒魔法の資格を得たとは聞いてたけど……
・風属性と白魔法の相性っていいの?
・試したことがないからわからない
治癒魔法は世間的には術者の傷を癒すことで白魔法と呼ばれており、傷を負った際に癒せるようにと受講し、応急処置が可能なレベルまで取得できた。
女の子の傷は徐々に塞がりはじめ、苦しそうにしていた表情にも少しずつ落ち着きが見られ始める。
「……ごめん。ここからは配信切るね」
・何で?
・向こうの配信も切ってる
・何をするの?
・あの……何をするのか教えてもらえると。
ここから企業秘密というか、あまり人には見せたくない。相手にも迷惑がかかるかもしれないから。
(女性同士だし……助けるためにはこれしかない)
誰も見てないし、配信は切っているからお互いのプライバシー的な部分は大丈夫なはず……。
私は髪をかきあげると、女の子と唇を重ねる。白くなっていた唇は私を通じて魔力が届けられる。
「……い、ま、き、す、し、た……よ……ね?」
女の子の唇はわずかに動くと意識を失ったみたいで、私は外部の医療班に連絡すると、ゲートまで女の子の体を傷つけないように安全に運ぶ。
*****
ゲートの外で待機していた医療班に彼女を任せ、タンカに乗せられて、病院へと運ばれていった。
「今日はおしまい。お腹もすいたし……」
・結局何をしたん?
・向こうの配信も知りたがってる
・企業秘密ってことは上位魔法?
・葵ちゃんならできそうで怖い
これは扱えるのは内緒にしとけっていわれたからいえないんだ。ごめんね。
「結構時間がたってたみたいで夕日がきれい」
・誤魔化すなwww
・この子、嘘下手すぎやろwww
・誤魔化すなら上手くやれwww
・2時半なのに夕陽とは?
締めようと思ったんだ。上手くできなくてごめんね。
「……ありがとうございました」
配信終了の画面を押してから、私は体を伸ばしてから帰宅した。
無表情の少女はソロで迷宮を探索してます スイ @suii0117
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