P15 時計を見ると夜の八時半を過ぎていた

 時計を見ると夜の八時半を過ぎていた。


 夕飯の準備が終わっても蒼汰が帰ってくる様子はなかった。病院に寄って帰るとは聞いていたが、遅すぎるような気がする。


 きょうのメニューも「鶏つくねしそ巻きハンバーグ」だった。週に一回は作っている。好物を食べているうちに私のことも思い出すのではないかと半ばやけくそだった。


 帰りが遅いのは、やっぱり私が原因だろうか?


 この前も、リビングで蒼汰が珍しくカメラを触っていたので声をかけたら、見られていることに気づかなかったのかぎょっとした顔をされた。


 手入れをしているところだったらしい。ブロアーという器具で埃を飛ばしたあとレンズの表面をクロスで丁寧に拭いていた。事故の前に蒼汰がよくやっていた作業だ。


 懐かしい姿に見入っていると、私の気配に気づいた彼は、作業を中断してそそくさと部屋に戻ってしまった。


「もう大丈夫だから、おれにかまわないで」


 首や肩あたりが張るのか、よく手で揉んだり撫でたりしている。心配で何かしてあげたくても、面倒そうな声を出されると近づくことができなかった。


 三週間前に病院について行ったときは、ついに私がブチギレてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る