P14 いつの間にか学生たちのボール遊びが終わり、学生たちがまばらになっていた
いつの間にか学生たちのボール遊びが終わり、学生たちがまばらになっていた。
「
ぼんやり突っ立っていたからだろう、同じ学科らしき人に名前を呼ばれていた。それでも私はあいまいな返事だけして、蒼汰を目で追い続けた。
よろよろと目的の教室がある棟まで歩きながら、ベンチのそばに立って女子たちとお喋りしている蒼汰の姿を注視する。やっぱりアイリもいる。彼を見上げながらわざとらしい瞬きをくり返しているので心がざわっとする。
「ねぇ蒼汰、事故ったんでしょ。もう大丈夫なのう?」
甲高い声が私の耳まで届いた。アイリは蒼汰と同じ学部で、彼と授業が重なることが多い。私が見ていないときも、いつもこんな風に声をかけているに違いないのだ。他の女の子たちもアイリに負けじと、どこかで聞いた話をさらに大げさにして蒼汰に吹き込んでいた。
「振った女に襲われかけたって? 何だよ、その話」蒼汰と近くにいた友人の一人が爆笑しているのが見えた。
「入らないの、はじまるよ」
立ち尽くしていると、背後からまた名前を呼ばれていた。今度は先生だった。追い抜かされて階段を上がっていってしまう。それでも私の脚は動かない。
「今、付き合ってる子いるのお?」
アイリの声がはっきりと聞こえた。そのとき、遠くにいた蒼汰と、ふいに目が合った気がした。
いつもなら視線を避けるようにうつむくが、きょうは違った。私は蒼汰を堂々と見返しながら、「最近、様子が変だよ?」と心の中でつぶやいていた。
「私のことで少しでも思い出したことはないの?」
届かないかもしれないけれど言いたかった。みんなの前だということも忘れて、「蒼汰、はやく戻ってきてほしいよ」と語りかけていた。
昔の蒼汰だったら……。
けれど、すぐに視線を外された。私を見たときの蒼汰は苦々しい表情をしていた。
「彼女? いないよ」
はっきりとそう言うのが聞こえた。
「えぇ~、それって本当なのー?」
アイリのつんざくような声がして、私の目の前は真っ白になった。蒼汰がアイリたちと楽しそうに笑う声がずっとしていたけど、しばらくは何も考えられなかった。
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