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「
さらっと診断が下った溶連菌。私は即座に質問した。
「その、溶連菌になると次に幼稚園に行けるのはいつになるんでしょうか」
「そうですね。抗生剤を飲み始めて、24時間で熱も下がり健康状態も良ければ登園可能です。でも首のところの腫れが気になるので、また水曜日に経過を診ます。後ほど看護師に予約をお願いしますね」
次女の病状に診断がつき、薬が効けばすぐに良くなるような話だったので、ホッとした。そのあと長女の蕁麻疹も診てもらい、保湿剤や対処法を教わって病院を出る。隣の調剤薬局にいき、座って待つ間『すぐに良くなるからね』などと安心して声をかけていると、薬剤師が声をかけてきた。
「すみません。医師から処方箋の出ている抗生物質がいま全国的にどこもない状況でして。代わりの薬を処方させてもらっても宜しいですか?」
話を聞けば、その代わりの薬はフロモックスという薬で、医師が処方しようとした薬が第1世代のものだとすると、フロモックスは第3世代の薬だという。
「その、第3世代の薬で問題はないんですか、効き目とか」
我ながら変なことを聞いてしまったと瞬時に後悔する。そんなもの問題ないというに決まっているし、案の定薬剤師はそう答えた。わかりました、と納得したものの心にモヤモヤを残したまま、私は言われた通りの薬を受け取り帰宅した。
「薬、飲もっか」
首を横に振る次女。なぜなら、抗生物質のフロモックスは味がまずい、との薬剤師の言葉を覚えていたからだ。
私はチョコのアイスに混ぜてなんとか口に運ぶ。けれど次女は泣いて嫌がり、そうこうしている間にチョコのアイスは溶け、嫌がる次女の手に弾かれたスプーンがドロドロのアイスを撒き散らしてカーペットに落ちた。
「なにするの!」
よくなって欲しい気持ちと、これを飲まなければよくならないという焦りで思わず声を張ってしまった。次女は更に泣き、長女は気まずそうに見て見ぬ振りで遊ぶ。
「幼稚園に行けなくていいの?」
「いや」
「飲まなきゃよくならないよ」
「飲めない! まずい!」
結局、薬は飲めなかった。そうなると途端に自責の念が押し寄せる。
もしフロモックスでなく最初に処方されるはずだった第1世代の薬をもらえていたら、もしかしたら次女は薬が飲めたかもしれない。散らばったアイスを拭きながらそんなことを考え、私はたまらず調剤薬局に電話した。
フロモックスでなく、はじめに指示のあった薬がどこかにあるならば、多少遠い場所でも取りに行きたい、と。すると薬剤師は一旦電話を切り、すぐに折り返しをくれた。電話をくれたのは診察してくれた医師だった。
医師は私の話を一通り聞いてから、穏やかに答える。
「うん。そうですよね。お母さんの不安な気持ちもわかります。でもね、正直なところ溶連菌というものにはどの抗生物質も効くんです。言い方を選ばなければなんでもいい、といいますか。味も大差ないですし、薬を変えたから飲める、とも限らない。それでも薬を変えたいならば、また別の薬を処方することもできます。今より量は増えますが」
医師は決して高圧的なわけではなかった。それでも、私は自分のわがままを責められているような気がした。医師がきちんと診断し、プロが薬を処方した。その最初の判断を、信じるのが一番いいのだと思い直した。
「お手数をおかけしました」
そう伝えて私は電話を切り、次女と向き合う。
「さっきは怖い声出してごめんね。あのね。このお薬まずいけど、お腹の中にあるバイ菌を倒すために必要な薬なの。飲まなきゃ熱も下がらないし、週末のお遊戯会にも出られない。いっぱい練習したんでしょ? ママ、すごく楽しみにしてる。だから頑張ろう?」
次女は渋々頷いた。そうして、私は薬を飲むためのアイテムを様々買った。
最初にチョコアイスを試したのは、チョコの味が薬の味を誤魔化すのによいと聞いたからだった。だから次は粉薬を包むタイプのチョコのゼリーを買った。ダメだった。次はいちご味。これもダメ。そして、結局最初のチョコアイスに戻る。次女はその日の夜も、薬を1/4も飲むことができなかった。
翌日、長女は幼稚園に行った。
次女は日中辛そうに横になり機嫌も悪く、解熱の坐薬を入れれば一瞬は熱が下がるものの、またすぐに発熱。首の腫れのほかに発疹も出てきて、手足の先は赤く腫れ上がりとても痒がった。
薬が飲めていないから病状が悪化するのだろう。夜、主人もあの手この手で薬を飲ませようと奮闘してくれたが結果は惨敗だった。
「ママ、明日パートだよね?」
主人に言われて頷く。
私は翌日の朝9時から13時までパートのシフトが入っていて、経過観察の再診予約は14時。パート後すぐに長女を幼稚園に早めに迎えに行き、2人を連れて小児科に向かう予定だった。
「俺、明日午後休取るよ。幼稚園のお迎えまでには帰るから、車でみんなで病院に行こう」
主人の優しさが身に沁みた。本当にありがたかった。そして結果として、主人のこの判断に私は助けられることになる。
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