告白

やがて、僕も高校3年生になった。


部長は卒業し、副部長だった僕は順当に理科部の部長になった。

そして、僕の友人が副部長になり、後輩女子の中でもしっかりしていた彼女には会計をお願いすることにした。

それは、1年後に僕が卒業する時には彼女に部長を継いでもらうための布石という意味もあった。

新しい一年生部員も4人ほど入ってきて、理科部はしばらくは安泰である。


ただ、3年生になると、受験が目前に迫ってきて、何かしらの強迫観念にせっつかれた毎日を送ることになった。


僕が受けようとしていた大学は、今の学力では少し厳しめだったことも手伝って、かなり必死で勉強していた。

人生でこの時以上に勉強をした記憶はない。


それでも、時間があれば部活に顔を出していた。

ただ、部室には顔を出すものの、やっていることはほとんどが受験勉強だったように記憶している。


そんな日々が続いていたので、この時期の彼女との思い出は、ほとんど残っていない。

ただ、同じ空間にいっしょにいる彼女の笑顔を見て、それが僕の心の支えとなっていたことは覚えている。


高校3年生の冬になり、受験を控えて学校へ通わなくてすむようになった。

学校の部活でほぼ毎日のように会っていた彼女とも当然会えなくなった。


会えない時間が、彼女への思いを募らせる。

彼女のいつもの笑顔が見れずに寂しい。会いたい・・・


やがてその昂った気持ちは抑えがきかなくなり、好きだという感情が爆発してしまう。


ついに歯止めがきかなくなり、僕は意を決して、行動に出た。


ある日の夕方、彼女に会って告白するために彼女の家の近くの公園へ向かい、公衆電話から彼女の家に電話を掛けた。


今なら高校生でもスマートフォンを当たり前だから、メッセージアプリで言葉を伝えることもできるのかもしれない。

しかし、当時は家に電話をかけないといけなかった。


電話のそばに家族がいないとも限らないので、電話で告白するのは難しい。

彼女には申し訳ないと思いつつ、公園まで来てもらうようにお願いした。


卒業してしまえば、二度と会えなくなる。

その前に、好きだという気持ちをせめて彼女に伝えたい。

伝えたからどうなる、その先はどうするということは全く考えられなかった。


ほどなく彼女が制服姿で公園に姿を見せた。

彼女は、なぜ僕に呼び出されたのか、分かっていない様子だった。


僕はあいさつもそこそこに、すぐに彼女に告白をした。


女性に対して人生初の告白、気の利いたかっこいいセリフを考える余裕など全くありませんでした。

「以前から好きでした。」

「付き合ってください。」

そんな気持ちを前面に押し出した、ストレートな言葉で伝えたのだと思う。


その言葉を聞いた彼女は、少し驚いた様子だった。

しかし、すぐに彼女は困惑の表情を浮かべてた。

僕が愛したいつもの明るい表情は見られなかった。


彼女の笑顔が見たいために、付き合いたいと告白したのに、彼女を困らせてしまった。


告白するんじゃなかった、失敗したという気持ちが、彼女の答えの前に脳裏をよぎった。


やがて、彼女の口から紡がれた言葉は

「ごめんなさい。付き合うことはできません。」

という残酷な二言だった。


「そっか。」

そう答えるのがやっとだった。


理由を聞けば、もしかしたら優しい彼女は答えてくれたかもしれない。

でも、そうすると彼女をますます困らせてしまうことになるかもしれない。


僕は呼び出しに応じてくれたお礼を伝え、その場を後にした。


別れ際に、彼女は

「先輩、受験頑張ってください。」

と言ってくれた。


こんなどうしようもない僕に対する彼女の気遣いが僕の心を締め付けた。


自宅に帰るとベッドに入って、当時流行っていた恋愛ソングを聴きながら、気持ちを落ち着かせようとした。

しかし、その歌詞は、失恋したばかりの僕には全く刺さってこなかったことを覚えている。


失恋したことが影響してか、受験勉強にも身が入らなかった。

希望していた大学にも落ちてしまった。


しかし、大学へ行くことを諦めきれず、高校を卒業してからは予備校へ通うようになった。

そのかたわらで、アルバイトも始めた。

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